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Gemstone  作者: 粂原
第8章 話し合い
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第46話

「つかぬことをお伺い致しますが、この村で馬車などの移動手段を手配することは、可能でしょうか?」


「ううん……難しいのではないかしら。通信手段がないから人を呼び出すことができないし、外の国と接触するのも抵抗があるし、それに……例えば馬車を運転する人だって、魔法国家で仕事をしているということは、魔法が使えるわけでしょう? それだと、非人(わたしたち)はちょっと、怖いわね……」


「あ……そう、ですよね。配慮が足りませんでした。申し訳ありません」


「いいえ、大丈夫よ」


 自分の基準でしか考えられていなかったことを恥じて、頭を下げる。ここの住人たちは皆、魔法と、魔法を使える者たちによって傷を負わされた人々なのだ。外の国と接触する方法があったとして、気持ちの面でそれを実行できるか否かは、また別の問題だ。


 そうなると、移動手段の確保は諦めたほうが良いのだろう。自分の足で歩くしかない。


「あの、それでは、馬車で移動するのと徒歩で移動するのとでは、かかる時間や移動距離にどのくらいの違いがあるものなのでしょうか?」


「え……どう、かしらね? 私もそれほど詳しくないから、正確なことは分からないわ……。馬車の馬は、常に全力で走るわけではないけれど、それでもやっぱり人間よりは時速が上だから、時間がかかればかかるだけ、移動できる距離にも差が開くのではないかしら」


「なるほど……」


 馬の足で三日間ということは、人間の足ではその何倍もかかる。加えて、ロレッタは旅慣れしているわけではない上、体力にもそれほど自信がない。こまめな休憩を挟みながらの道のりは、果てしないものになりそうだった。


「ロレッタちゃん、どこかへ出掛けたいの?」


「はい、水の国(アクアマリン)まで」


「……え……?」


 サラが小さく聞き返した声は、子供たちの喧騒に掻き消された。




 また別の日。


「……テントの作り方?」


「はい。一から制作することは、可能でしょうか?」


 長距離の移動に備えるべく、野営道具が必要だと考えたロレッタは、取り急ぎ寝床が確保できるようテントの制作方法をウェルナーに尋ねてみた。頭に図面を思い浮かべているのか、難しい表情で考え込んでいる。


「そうだなあ……骨組みとか、接続・固定する為の細かいパーツとかを用意して、組み立てて、丈夫に加工した布地を被せれば、形にはなるんじゃない? パーツ作りは俺でもできるとして、布地についてはミシンが無いから、すげえ時間かかりそうだけど」


「左様ですか……」


 平たい布団の感触にはすっかり慣れたものの、さすがに地べたで就寝できる自信はなかった。せめてテントがあれば、と思ったが、作るのには相応の技術が必要らしい。しかも、便利な機械が無い環境なので、全て手作業だ。


 住人たちに負担をかけるのは申し訳ない為、自分で用意したいところだが、諸々の制作技術を習得してから完成させるまで、一体どれだけかかるだろう。


「ちなみに、なんで欲しいの? この村で生活してて、テントを張りたくなるタイミングなんて、ある?」


「野営に必要な物を確認していたのです」


「野営? ……え、何、家出? リューと喧嘩でもした? それならロレッタちゃんが出て行くんじゃなくて、あいつを追い出しな。いつでも手伝うよ」


「い、いえ、そのようなことはありません。……ああ、でも……」


 ロレッタはふと、初めて夜に顔を合わせた日のことを思い出した。


 食事の片づけを終えた後、ロレッタは奥の寝室に布団を敷いたが、リューズナードはこれまでと変わらず囲炉裏の隣に布団を敷いていた。寝室にも二人で横になれるだけのスペースはあったものの、本人曰く「必ずそこで寝なければならないわけじゃないだろう」とのことだ。


「……そうですね。嫌いな私が近くに居たのでは、リューズナードさんも落ち着いて就寝できないでしょうから、普段から外で眠るというのも、良いのかもしれません」


 居間だとか、寝室だとか、そんなことは関係なく、きっと自分の傍が嫌だったのだろうと思う。一抹の淋しさを抑え込んでそう呟くと、ウェルナーがぽかんとした表情を浮かべた。


「……うん? あいつが、君を、嫌い?」


「はい」


「えっと……なんでそう思ったのか、訊いても良いかな」


「それは……」


 姉の横暴を止められず、村を危険に晒して、リューズナードの人生の一部をも捻じ曲げてしまった。その贖罪をロレッタは果たせていない。彼の中で、自分は未だ敵のままなのだ。少しだけなら会話をしてくれることもあるが、他の住人たちへの接し方とは明らかに違う。


「……世間知らずの私でも、彼の普段の言動を見ていれば、さすがに理解できますよ」


 気を遣わせたくなくて、笑顔を作ったつもりだったが、上手く笑えただろうか。


 しばらく黙りこくった後、ウェルナーは珍しく静かな口調で応えた。


「……そっか。うん、とりあえず、テントの件は俺のほうでも考えてみるよ。少し時間ちょうだい。ごめんね」


「いえ。お忙しいところ、申し訳ありませんでした。よろしくお願い致します」


 ペコリと頭を下げて工房を出る。


 結論として、テントをすぐに用意するのは難しそうである。布団を担いで長距離移動できる体力を身に付けるのと、一人でテントを制作できる技術を身に付けるのとでは、どちらが早いのだろう。他にもまだまだ、考えなければならない問題がありそうだ。ロレッタは頭を悩ませ続けた。

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