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Gemstone  作者: 粂原
第8章 話し合い
44/159

第43話

――――――――――――――――――――



 数日後、昼過ぎ。


「どうよ?」


「わあ……!」


「…………」


 サラたちと共に昼食を食べ終え、午後の仕事へ取り掛かろうとしていたロレッタは、住人の男性に呼ばれてリューズナードの自宅を訪れていた。そこには得意げな顔のウェルナーと、なんとも言えない顔のリューズナード、そして資材や道具の片付けをしていると思われる住人たちの姿がある。


 自宅の改築が終わった。そう告げられてやって来たロレッタの姿を確認すると、ウェルナーが嬉しそうにロレッタとリューズナードを家屋の中へ招き入れてくれた。建築と内装は外にいた面々が、家具や設備はウェルナーがそれぞれ担当したらしい。


 外観を見ただけでも想像できたことだが、間取りが明らかに広くなっている。以前は土間と居間のみで完結していたのに、現在は広がった居間の先に寝室のようなスペースが設けられており、箪笥や棚といった収納家具も設置されていた。隅に置いてある背の低い土台のような物は、刀を置く為のスタンドだろうか。


 土間の端には台所がある。かまどや流し台などの設備は以前と変わっていないものの、隣に食器棚が併設されていて、調理器具と二人分の食器も並べられていた。食料を保存しておける櫃、たっぷりと水の入る水瓶、焼き物用の七輪まで用意されている。自炊には困りそうにない。


 そして、台所と反対側には仕切りで囲われた区画があり、薪を入れて火を焚ける土台の上に鉄鍋と木桶を乗せた、内風呂が取り付けられていた。サラの家で何度も使わせてもらっている為、使い方も整備方法も頭に入っている。これから冷える季節が来ても、湯冷めの心配がなくなりそうだ。


 中心に囲炉裏が鎮座する居間も、しっかりとした床板がはめ込まれているので、踏みしめても音がほとんど鳴らない。それだけでもだいぶ感動してしまう。年季の入っていた窓や窓枠も一新されている。壁も綺麗だ。


 これまでよりも格段に生活感が出た家屋を、ロレッタは目を輝かせながら見て回った。


「……おい、広げて風呂を付けるだけじゃなかったのか。ここまでやれ、とは言っていないぞ」


「あ? 俺たちの仕事にケチつけんの? 壁中にお前の名前彫って、蛍光色で塗装するぞ」


「やめろ、訳の分からない仕返しをするな。……俺はこれほど整った環境じゃなくても、十分に生活できる。資材も労働力も、ここまで割く必要はなかっただろう」


「ロレッタちゃんの為でもある、って言っただろ? いい加減、人と一緒に生活してる自覚を持て。で、貰える物は大人しく貰っておけば良いんだよ」


「…………」


 心を弾ませていたロレッタだったが、リューズナードとウェルナーのそんな会話が聞こえて、パタリと足を止めた。


 整った環境、と家主は言うが、王宮育ちのロレッタの視点では、これはまだまだ質素かつ不便の部類に入る。しかし、凄惨な環境で育った彼の視点では、これは贅沢の部類に入るのかもしれない。自宅なのに落ち着かない、心が休まらない場所になってしまったのだとしたら、ロレッタも本位ではない。


 二人の元へ歩み寄り、恐る恐る尋ねた。


「申し訳ありません、リューズナードさん。お気に召さないようでしたら、私から改めて、皆様にご相談させていただきますが……」


 するとリューズナードが、いつかも見たような、なんとも形容し難い表情になる。


「……元々、俺の要望で始めたことじゃないんだ。お前の要望が叶ったのなら、それで良いんじゃないか」


「ですが……」


 諦めたような言い方に、罪悪感が募る。どうしたものかとオロオロしていると、ウェルナーが深く溜め息吐いた。


「面倒な奴だな、お前。素直に『喜んでくれて嬉しい!』って、言えねえの?」


「……そんなこと、言っていないだろ」


「だから、言えねえのか、って訊いてんの。……大丈夫だよ、ロレッタちゃん。住んでればそのうち慣れるから。家なんて、そんなもんでしょ。それじゃあ、職人チームは撤収するわ。あー、疲れた」


「あ、はい。皆様、ありがとうございました」


 各自で荷物や資材の余りを抱えて去って行く面々を、玄関先まで出て頭を下げながら見送るロレッタ。やがて全員の姿が見えなくなったところで、リューズナードも家から出てきた。未だ表情は晴れていない。


「あ、あの……」


「なんだ」


「……いいえ、なんでも……申し訳ありません」


「……家の話なら、構わないと言っているだろう。いちいち謝ってくるな」


「は、はい、申し訳……あ」


「…………」


 盛大に眉間に皺を寄せると、リューズナードはロレッタの横を通り過ぎて村のほうへ歩いて行ってしまった。


 今さら彼を、怖いだけの人間だと思っているわけではない。ただ、荒い口調と険しい表情を同時に向けられると、機嫌を損ねてしまったのかと不安になってしまう。そしてあの様子が、本当に「機嫌の悪い状態」なのだとしたら、彼はロレッタの前ではほとんどずっと不機嫌でいる、ということになる。


 嫌われているな、と、言動の端々から改めて感じて、おこがましくも悲しい気持ちが滲んでくる。しかし、これはきちんと受け止めなければならないものだ。姉と共犯である自分は、彼と彼の大切な人々に、それだけのことをしたのだから。


 一刻も早く彼を解放する為にも、婚姻と契約を破棄する手段を見つける。数日前の決意を思い出し、自分の手を強く握り締めた。

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