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Gemstone  作者: 粂原
第5章 戦う理由
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第27話

「あれ、話したことなかったっけ? 俺、炎の国(ルベライト)の出身なの。リューと一緒に国を出て、何もないところからこの村を作ったんだよ。俺だけじゃなくて、他にも何人かそういう奴いるけどね」


「まあ、そうだったのですか」


 住人たちとはたくさん言葉を交わしてきたつもりだったが、この話は初耳だった。まだまだ知らないことが溢れているのだなと痛感する。と言うより、ロレッタはリューズナードのことをほとんど何も知らない。


 目の前の彼に聞けば、リューズナードのことをいくらか教えてもらえるかもしれない。そう考えて口を開こうとした矢先に、下から聞こえた幼い声がロレッタたちの会話を遮った。


「あれえ? ねえねえ、パパ」


「おお、どうした? 皆で遊んでたんじゃないの?」


 ウェルナーの足元に、ネイキスと変わらないくらいの歳の男の子が、ちょこんと立っている。ウェルナーの息子であるマティだ。


「リュー、行っちゃった?」


「ん? ああ、行っちゃったなあ。何か用事でもあったのか?」


「昨日いっぱい遊んでくれたから、お礼にコレ、皆で作ったんだ!」


 マティの手には、草花で作られた可愛らしい輪飾りが握られていた。緑の茎を編み込んで輪っか状にしてあり、隙間から様々な色の花が顔を出している。ところどころで編み目が解れているものの、しっかり形になっていて綺麗だ。


「渡したかったのに……。ねえ、リューいつ戻って来る?」


「いつだろう……? この時間に出て行ったなら、日暮れまで戻らないかもな」


「ええ~! それじゃあ、僕たちはお家に帰っていなくちゃいけないじゃない! 渡せないよ!」


「俺に言われてもなあ……。明日じゃ駄目?」


「だめ! 今日!」


「ええ……」


 ぐずるマティをウェルナーが困った顔で見詰めている。


 どこの国でも、小型通信機のような物は流通されているが、この村では製造する技術や設備が揃わない。外との貿易も難しいので、取り寄せることもできないだろう。近代的な文明に対する知識や見識はあっても、再現できる環境が整わない為に妥協せざるを得ない、ということが、ここでは多々ある。ライフラインなどはその最たるものだが、連絡手段もその一つだ。


 少しでも力になれれば、とロレッタは二人に声をかけた。


「ウェルナーさん、マティ君。よろしければ、私がリューズナードさんに声をかけてきましょうか?」


「え! ロレッタお姉ちゃん、いいの!?」


「はい、もちろんです」


「大丈夫? 外は危ないよ?」


「大丈夫です。私は身を守る手段がありますから」


「う~ん、それを言われるとなあ……。いやでも、魔法が使えたって、危ないものは危ないんだから気を付けてね。何かあったら、魔法を空に打ち上げるとかすれば、リューが気付いて、すっ飛んで来ると思うよ」


「は、はい……」


 以前、意図せずそれに近いことをしてしまい、「次は斬り掛かる」と告げられたことを思い出す。鋭く光る刀身の輝きが脳裏を過り、その手段だけは取らないようにしようと胸に刻んで、ロレッタは村の外へ向かった。




門を潜り、村の外へ出たロレッタは、その場でピタリと足を止めた。リューズナードはどこへ歩いて行ったのだろう。目的地が分からない。


 適当に進んで発見できる保証などないし、最悪、自分が迷子になる可能性だって十分にある。どうしたものかと考えていると、どこからか、ガッ、ガッ、ドオン! という重低音が響いてきた。明らかに自然発生する類の音ではない。確実に人がいる。


 音のするほうへ恐る恐る向かってみたところ、その先にはリューズナードが一人で立っていた。両手には愛用している刀――ではなく、斧を持っている。重たそうな鉄製の斧を思い切りよく振りかぶった彼は、そのまま刃先を正面の大木の幹へ叩き付けた。ドオン! と大きな音が響き、大木の胴体が根元から切り離されてゆっくり倒れていく。


 声をかけていいのかどうか判断に困り、距離を置いたまま眺めていると、突然、リューズナードが斧を持ったままぐるりと振り返った。刀を扱う時と同じような動作で機敏に斧を構え、刃先を真っ直ぐロレッタのほうへ向ける。もちろん届きはしないが、ロレッタの身を竦ませるには十分な迫力だった。


「……お前か。黙って背後に立つな」


「も、申し訳ありません……」


 それなりの距離があったにも関わらず、どうやら彼は背後の気配を感じ取って得物を構えたらしい。危機管理能力も、反射速度も、並外れている。


「何をされていたのですか?」


「見れば分かるだろう。木を切っていた。……改築はともかく、家の補修をするなら資材が要る」


「なるほど……」


 資材の加工は村の中でもできるが、原材料の調達は外でなければ満足にできない。他の住人たちが協力して行うのも不可能ではないだろうけれど、結局、リューズナードがやってしまうのが最も安全かつ効率的だ。しかし、外に出ないとできない作業を全て一人で行うというのは、彼の負担が大き過ぎるのではないだろうか。


 手伝いたい気持ちは大いにあるものの、力仕事や体力仕事には自信がない。鍬の重量にすら負けるロレッタの腕力では、その倍近くの重量がある斧を真横に振り抜いたり、重い丸太を運搬したりするのは難しい。魔法を使えば可能になるかもしれないが、村の付近で乱用すると住人たちを怖がらせてしまう。無力な自分に落胆した。

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