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Gemstone  作者: 粂原
第5章 戦う理由
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第26話

「はいはいっと。……ああ、そうだ、リュー。今日これから、お前の家改築しに行くから、しばらく避難所で寝泊まりしてくれ。悪いけど、ロレッタちゃんもな」


「え?」


「??? ……改築? なんの話だ」


「お前の家、物が無さすぎるんだよ。物を置くスペースもねえし、生活しづらいだろ。風呂とか食器とか無くて、ロレッタちゃん困ってたんだぞ」


 そう言えば以前、風呂の相談をした時にそんな話が出ていた気がする。その場限りの冗談ではなく、本気で言っていたようだ。


 眉間に皺を寄せたリューズナードが、ロレッタのほうを向いた。


「……おい、必要な物があれば言え、と言ってあっただろう。何故俺に言わない」


「あ、あの、それは、ええと……」


 確かに初日にそんなことを言われたが、あの頃は、必要以上に話しかけるのが怖かったのだ。それに、風呂が無いのが村の普通なのかどうかが判断できなかったから、というのもある。彼の家が異常に質素なだけなのだと、今なら分かるが。


「何も無さすぎて絶句したんでしょう? 言わせなかったあんたが悪いわよ」


「そうそう。この前の嵐で外もボロボロになってるし、他の家も順番に補修していくけど、まずはお前の所からだ。とりあえず、もう少し間取り広げて、内風呂付けるぞ」


「風呂桶なんか、中にあったら邪魔だろう。外でいい」


「はあ!? リューあんた、ほんとデリカシーの欠片もないわね! お風呂の度に、女の子に外で全裸になれって言ってるの!? 馬鹿じゃないの!?」


「どこででも生活できちまうお前の意見は聞いてねえよ」


「……俺の家だぞ」


「「ロレッタちゃんの家でもある!!」」


「…………」


 ムスッとした顔で押し黙るリューズナードに、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。ロレッタはただ、どうするのが正しいのかを知りたかっただけであって、彼の生活を侵害したかったわけではない。家主が望まないのなら、居候の自分が引き下がるべきだ。


「あの、皆様、私のことはどうか、お気になさらず……。補修や改築が必要なのであれば、リューズナードさんのご意思を尊重してください」


 恐る恐る口を挟むと、リューズナードがロレッタを見て、怒っているような、困っているような、なんとも形容し難い表情を浮かべた。数日前に家事の提案をした時も、こんな表情をしていたように思う。一体どういう感情なのだろうか。


「……もういい、好きにしろ」


 大きな溜め息と共にそれだけ言い残し、リューズナードは住人たちの輪を抜けて村の外へと歩いて行ってしまった。周囲は「よっしゃあ!」と沸き立っているが、ロレッタはリューズナードの気分を害してしまったのかと気が気ではない。


 遠ざかる背中を眺めておろおろしていると、盛り上がる輪の中から男性が一人、こっそり抜けて声をかけてきた。


「ロレッタちゃん、ロレッタちゃん!」


「あ……ウェルナーさん」


 人好きのする笑顔で穏やかに話す彼は、嵐があった際に水門を閉めに来ていた内の一人だ。年の頃はリューズナードと同じか、少し上くらいに見える。どのみち、ロレッタからすれば年上の存在には違いない。この村に来てから結婚し、子供も授かって幸せに暮らしていると聞く。


「へへへ、ありがとうね」


「……ええと?」


「リューの奴、誰よりも働くくせに自分は全然贅沢したがらないから、どうにかできないかな、って皆で手焼いてたの。せめて家ではゆっくり寛ぐくらいしてほしかったんだけど、何言ってもあいつ『要らない』の一点張りだったんだ。でも、君のお陰でようやく手出しができるようになった。俺、リューとは結構付き合い長いけど、あいつが折れるところなんて初めて見たよ。だから、ありがとう」


 ウェルナーが心底嬉しそうに笑った。住人たちも、やたらと押しが強い気はしていたが、他でもないリューズナードの為でもあるからだったのか、と納得する。


「そうだったのですか……。けれど、リューズナードさんのご機嫌を損ねてしまったのでは……?」


「ん? 怒ってはいないでしょ。どうしていいのか分かんないだけだよ。あいつ、人に寄り掛かるのも、肩の力抜くのも、下手くそだから。でも、『自分の為』って理由だと頑なに頷かなかったあいつが、『ロレッタちゃんの為』って理由ならちゃんと考えようとしてたの、すげえ良い兆候だと思うんだ。面倒な男だけど、愛想尽かさないでやってね」


「は、はい……」


 どう返すべきなのか判断できず、ロレッタは曖昧に頷いた。


 解釈を間違えてはいけない。今回はたまたま「ロレッタの為」だっただけであって、本質的には「自分以外の誰かの為」だから、リューズナードは折れたのだ。対象が別の人物だったとしても、同じやり取りは起きていたはず。もしかしたら、思うほど嫌われているわけではないのでは……なんて、都合の良い喜び方をするべきではない。


 はしたない自分を戒めつつ、ロレッタはウェルナーへ別の質問を投げかけた。


「ウェルナーさんは、リューズナードさんのことをよくご存知なのですね。それほど、古くからのお知り合いなのですか?」

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