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Gemstone  作者: 粂原
第3章 村の生活
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第16話

 村での生活において、全く進展がないのはリューズナードとの交流だけだ。相変わらず、彼と家で顔を合わせる機会は訪れない。ただ、彼もこの村の住人なので、家の外でなら姿を見かけることはよくある。最近になってようやく分かってきたことだが、どうやら彼は故意にロレッタを避けているわけではなく、元々睡眠時間の短い生活を送っていたようだった。


 朝は日の出と共に起床して、すぐに村の周辺に異変がないか見て回る。他の住人が起床する時間帯になると、水と薪を老人や怪我人のいる家へ届けに行く。日の高い間は有志の者たちに剣術や体術の指南をしたり、子供たちの相手をしたりして過ごす。空の色が変わり始める頃には、村の外へ魚や動物の肉を狩りに出掛け、貴重な食料として住人たちに分け与える。夜間は村の男衆と交代で見回りを行い、日付が変わったであろう時刻になってようやく帰宅する。


 実際に見かける姿と、住人たちから聞いた話を統合した結果、リューズナードはおおよそこのような時間割で活動していると推測できた。食事や水浴びは見回りの途中で適当に済ませているらしい。一日中、体を動かして献身的に働く一方、自己管理が杜撰で心配になってくる。ロレッタの中の常識で考えれば、どう見積もっても活動時間と睡眠時間が釣り合っていないが、いつかふらりと倒れてしまわないだろうか。


 そんな彼は、住人たちからとても慕われているようである。



「リューちゃん、いつもありがとうねえ。本当は水汲みくらい、自分でできたら良いのだけど、足腰が言うことを聞いてくれなくてねえ……」


「このくらい、なんでもないさ。また様子は見に来るが、何かあればいつでも呼んでくれ」



「リュー! この前破れたって言ってた服、繕っておいたから、後で取りにおいで!」


「助かるよ。いつも悪いな」



「一緒に遊んで!」


「遊ぼーぜ!」


「りゅー!」


「俺は構わないが、お前たちは家の手伝いの途中じゃないのか? 親に言い付けるぞ」



「リュー、今、手空いてるか? 川でデカい魚を見かけたんだ! 捕まえるの手伝ってくれよ!」


「ああ、すぐに行く。待ってろ」



 行く先々で声をかけられ、リューズナードもとても穏やかに対応している。彼はこの村の人々が好きで、この村の人々も彼が好きなのだろうことが、一目で分かる光景だ。


 しかし、あの穏やかな眼差しや声色が、ロレッタ個人へ向けられたことは一度もない。


 初日のように、声をかければ反応はしてくれるのだろうけれど、用事もないのに気さくに話しかけられるような間柄でないことは重々承知している。とは言え、何かしらアクションを起こさなければ、その距離感が永遠に縮まらないことも想像に難くない。成り行きでも同居人となったのだから、せめて普通に世間話ができるくらいの関係性は築きたいと思う。


 どうしたものかと考えた末、ロレッタはリューズナードの自宅の家事をやってみることにした。


 しばらく同じ家で寝泊まりしてみて気付いたことだが、恐らく彼は家事が苦手だ。台所は流し台以外の部分に使用した痕跡がないし、部屋の隅には埃が溜まっている。できないのか、やらないだけなのかは不明だが、生活における家事の優先順位は決して高くはないのだろう。一番決定的なのは、台所の横に置いてある水瓶だった。


 水瓶には蓋が乗せられている為、パッと見では中身が分からない。しかしある日、ロレッタが洗顔するべく流し台の前に立った際、水瓶の蓋が外れそうになっていたことがあった。それも、ただ横にずれているのではなく、中身に押し上げられるようにして上に盛り上がっていたのだ。中身が液体の水であれば、こんなことは起こり得ない。


 隙間のある状態では中に虫や埃が入ってしまいかねないので、ひとまず蓋を軽く押してみる。しかし、力を加えれば下に沈んでくれるものの、手を離すとすぐに元に戻ってしまう。そんなことを何度か繰り返すうちに、とうとう蓋が床へ落下してしまった。


 水瓶の中には、日用品、衣類、掃除用具、果ては刀の手入れに使うのだろう道具まで、あらゆる雑貨がなんの識別もなく無造作に詰め込まれていた。他の住人たちのものと比べて殺風景な部屋だとは思っていたが、使わない物はなんでもこの中へ押し込んでいたのだろう。一般的に、これは「片付け」とは呼べない。

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