表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gemstone  作者: 粂原
第9章 脱出
148/160

第66話

――――――――――――――――――――



 レオンと兵士たちの体から抜け出した赤い光が、空中でパン! と弾けて消えた。魔力も体力も底を突きかけて座り込んでいたロレッタは、唖然としながらその様子を眺めるしかできない。空気に溶けて霧散してゆく様子が、やたらと綺麗だった。


 赤い光がほとんど消失した頃、我に返ったらしい兵士たちのうちの一人が声を上げた。


「殿下! 何をなさったのですか!?」


「ヒッ!」


 鋭い声に怯えたのか、レオンはソファの陰に隠れてしまった。状況を確認したい気持ちはロレッタも同じだったので、よたよたレオンへ近付いて、そっと手を握りながら語りかける。


「レオン様」


「すす、すみません、すみません! 勝手なことをして……だって、あの、怒らないで……!」


「お気を確かに。私も、兵士の皆様も、怒ってなどおりません。ただ、何が起きたのかを知りたいだけなのです。お教えいただけませんか?」


 嘘は吐いていない。ロレッタには怒る理由がないし、兵士の面々も、武器こそ携えているものの、今すぐに飛び掛かってきそうな雰囲気はなかった。王族たるレオンの生み出す爆炎を、目の前で拝んだ為だと思われる。ロレッタの作った歪な魔力の檻がなければ、彼らはあの場から逃げ出すことさえできず、何度も焼け死んでいただろう。本来なら敵うはずもない、絶対的に格上の人間であることを、今になってようやく思い知ったのかも知れない。


 震えるレオンの右手を、自分の両手で包み込むロレッタ。こうすると、少なくともリューズナードはふわふわ機嫌が良くなってくれる。他の相手にも通用するのかは分からないが、ほんの僅かでも不安を取り除ければと、手に力を込めた。


 レオンが恐る恐る尋ねてくる。


「ほ、本当? 皆、怒らない……?」


「はい、大丈夫です」


「……………………あ、あの。そそ蘇生魔法を、か、解除しまし、た……」


「…………え? そ、蘇生魔法を、解除なさったのですか……!?」


 ロレッタにだけなんとか届くか細い声量で、レオンが衝撃の事実を告げる。驚いたロレッタは、思わず鸚鵡(おうむ)返ししてしまった。


 ロレッタが彼に懇願したのは、「この部屋から出してほしい」という一点のみである。また、「必ずしも父親の言いなりにならないといけない理由はないはず」とも進言したが、それも「自分の子供に人殺しまで強要するのはおかしい」と訴えたかっただけだ。それらが蘇生魔法の解除に結び付くとは思っていなかった。


 蘇生魔法の行使も、彼の言う「父さんの言い付け」の一部だったのだろう。炎の国(ルベライト)兵の命を守り、他国の人間の命を奪うことに繋がる蘇生魔法を解除するのが、良いことなのか、悪いことなのか。疲弊しきった現在のロレッタの頭では判別できない。


 ロレッタの声に、レオンが驚いて肩を跳ねさせている。さらに、驚いたのは彼だけではなかったようで、兵士たちも酷く狼狽えていた。


「なっ……蘇生魔法を、解除した!?」


「じゃあ、今死んだら、俺たち本当に死ぬのか……?」


「で、殿下! 蘇生魔法の使用は王命です。陛下のご指示に背くおつもりですか!」


「うぅ……だって、だってぇ……!」


 兵士たちの声は未だ怖いらしい。震えて縮こまるレオンに、ロレッタは根気強く語り続ける。


「レオン様、責めているわけではございません。理由をお尋ねしたいだけなのです。何故、蘇生魔法の解除を……?」


「う…………こ、蘇生魔法(これ)をしていると、凄く、疲れる、ので、あんまり考えられなくて……」


「考える、と仰いますと?」


「ぼ、僕は……炎の国(ルベライト)の、王族、なので……この国にとって、誰が敵で、誰が味方なのか、ちゃんと、考えて、みたくて……」


「……! はい、是非!」


 レオンの口から初めて前向きな言葉が出たことが、とても嬉かった。自ら考えて動き出し、他者と対話を重ねることこそ、知見を広げる貴重な一歩である。ロレッタはそう、原石の村(ジェムストーン)で学んだ。彼もその一歩を踏み出す勇気を持てたのだろうか。


 ふと、レオンが視線を上げてロレッタを見た。


「あああ、あの、でしたら……僕はまず、貴女の話を、聞きたい、です」


「私の、ですか? ええ、私にお話しできることでしたら、何なりと」


「あ、ありがとう、ございます……。ええと、それでは、」


 ほんの少しだけ、彼の手がロレッタの手を握り返してきた。そして、


「きゃっ!?」


 突如、ロレッタとレオンを囲い込むように、炎の渦が巻き起こった。時折降りかかる火の粉が衣服を焦がす。逃がさない、と暗に言われている気がして、肌の上を冷たい汗が伝った。


「レ、レオン様……?」


「あっ、貴女が、水の国(アクアマリン)の、王女かも知れない、ことと……王都にある、医療研究施設が、襲撃されたことだけ、僕は、聞かされています。……貴女は、この国の、敵、ですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ