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Gemstone  作者: 粂原
第6章 覚悟
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第45話

 槍にさらなる魔力を注ぎ、その場で袈裟斬りするように大きく振り下ろした。強く輝いた穂先から、再び青い斬撃が放たれる。地表の真上をたどるそれは、石畳を抉りながら真っ直ぐナディヤを目掛けて飛んで行った。


 ナディヤが剣を逆手で握り、もう片方の手も添えて切っ先を石畳へ突き立てる。すると、赤い魔力が切っ先から石畳へ流れ出し、彼女の正面およそ二メートル先の地点で巨大な火柱を形成した。青い斬撃は完全に呑み込まれ、魔力衝突による烈風を巻き起こしながら火柱と共に霧散していく。


 生温い風と水蒸気を切り裂いて、ナディヤがこちらへ向かって来るのが見える。アドルフは続けて何発も斬撃を打ち込んだ。腕の痛みなど気にしてはいられない。敵の接近を拒むように、ひたすら進路を塞ぎ込む。直進するのを妨害され、ナディヤが苛立ち交じりに剣を振るっている。


(街への被害を少しでも抑える為にも、彼女より先にあの鳥をなんとかしたい……)


 あの鳥が自分を狙って降下して来る条件として、自分とナディヤとの距離が離れているのは必須である。アドルフはそう分析した。そうでなければ、先ほど彼女が不自然に距離を取ったことの説明がつかない。自身にだけ被害が及ばないようにする、といった特殊な命令を組み込む魔力操作まではできなかったのだろう。


 加えて、彼女はこちらが負傷していることも把握している。急な戦闘スタイルの変更も、単に怪我を危惧して接近戦を嫌がっているように見える可能性が高い。下手に警戒せず、機会があれば積極的に怪鳥(フェニックス)(けしか)けてくるはずだ。その機を窺うべく、アドルフは中距離攻撃を放ち続ける。


「あ゛ーーもう、邪魔だなあ!!」


 斬撃を躱したり、打ち消したりしながら、ナディヤが吠えた。思うように接近できず、蛇行でしか進めないことに憤っているようだ。怒りは視界を狭める。意図したわけではないが、一定の距離を保つのは彼女に対して効果的な戦法だったらしい。


 ナディヤが立ち止まり、右足を引いて脇構えのような姿勢をとった。次の瞬間、刃が激しく燃え盛り、鍔より先が炎そのものへと変貌する。


 斬撃を放つ際、アドルフが槍を振り下ろすのとは対照的に、ナディヤは下から上へ、逆袈裟斬りの要領で思い切り剣を振り抜いた。刃に宿った火炎が本体から分離して、膨張しながらアドルフのほうへと襲い来る。


 火炎を打ち消すべく、アドルフは新たに斬撃を放った。水と炎がぶつかり合い、激しい風圧を残して霧散する。


 それまで自分のテンポで攻撃魔法を打ち込んでいたアドルフだったが、相手の攻撃を封じる為、一時的にテンポが崩れた。自然な流れで次の攻撃へと移ることができなくなり、ほんの僅かな隙が生じる。その隙を、敵が見逃すはずがない。


 間髪入れず、背後から熱の塊が急接近して来る気配を感じた。振り向いてしっかり対処することもできる。しかしそれは、ナディヤに対して背を向けることと同義だ。そんな選択をするわけにはいかない。


 だからアドルフは、体を正面に向けたまま両肘を深く折り曲げ、槍を自分の左肩に担ぐような姿勢をとった。穂先が怪鳥(フェニックス)の顔面を捉え、青く輝く。気温の上昇と迫り来る熱風から、怪鳥(フェニックス)の減速や方向転換が間に合わなかったことを悟ると、そのまま槍に魔力を注ぎ込み、穂先のリーチを数メートル先まで引き延ばした。


 あの鳥に声帯があったなら、苦悶に満ちた悲鳴を上げていたことだろう。槍は怪鳥(フェニックス)の嘴から尾のあった場所までを、一直線に刺し貫いていた。確かな手応えを感じ取り、アドルフは担いだ槍を背負い投げるようにして前方へと叩き付ける。怪鳥(フェニックス)の体が石畳の上に落下し、大きな焼け跡を作った。


 一度槍を手放し、迷わず怪鳥(フェニックス)の下へと駆け寄るアドルフ。瀕死となった怪鳥(フェニックス)は、未だその場から動けずにいる。再び槍を生成したアドルフは、しっかりと狙いを定めて標的の心臓を突き刺した。腕も脇腹も痛んだが、構わない。穂先が鳥を貫通して石畳へ届くまで、自重も乗せて強く押し込んだ。


 首を仰け反らせ、苦しむような仕種を見せたかと思うと、怪鳥(フェニックス)はとうとう力尽き、霧散して跡形もなく消え去った。

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