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Gemstone  作者: 粂原
第5章 防衛戦
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第40話

 そのまま駆け寄って来るフェリクスに、シルヴィアと呼ばれた女性が掴み掛かりそうな勢いで問いかける。


「フェリクス!? あんた、なんでこんな所に居るのよ!? 今頃はもう、国を出ていないとおかしいでしょう!」


「ああ、えっと……それなんだけどさ。なんて言うか、ちょっと作戦の順番を変えたいんだ」


「はあ!?」


 周囲に人が居ないこともあってか、遠慮のない声量でフェリクスへと詰め寄るシルヴィア。想像していたよりもだいぶ、気の強い女性のようである。大きな声に驚いたロレッタは、思わず隣に立つリューズナードの服の裾を掴んだ。


「本当は、炎の国(ルベライト)を混乱させてから皆で脱出する予定だったけど、やっぱり先に脱出してほしいんだ。お母さんにも話してきたし、協力してくれる人たちも連れて来たから!」


「何言ってんの? 協力って……」


 シルヴィアの視線が、ロレッタたちを捉える。ひとまず、軽く会釈をしてみたものの、訝し気に眉を顰められただけだった。


 それまで黙っていたリューズナードが口を挟む。


「細かい話は後で聞いてくれ。俺たちは、ここで進めている軍事兵器の開発を続行不能にしたい。どれを壊せば続けられなくなるのか教えてほしい」


「はい……?」


 フェリクスからも、リューズナードからもわけの分からない情報を与えられ、シルヴィアが混乱しているのが見て取れる。


 リューズナードの発言は、明らかに炎の国(ルベライト)へ敵対する意思を示すものである。正しく伝われば利害の一致による協力関係を結べそうだが、初対面の人間がいきなり信用される可能性は低い。


 シルヴィアが不安気にフェリクスを見る。フェリクスは、彼女を安心させるように頷いた。


「大丈夫。この人たちは信用できるよ」


 その言葉に、ロレッタは密かに驚いた。フェリクスが「この人」ではなく「この人たち」という言い方をしたからだ。


 魔法が使える人間に単独で対抗できるリューズナードを慕っているのは、日々の様子からも伝わってきていた。しかし今、彼が思う「信用できる人間の枠」の中には、確かにロレッタも含まれていたのだ。村での対話や今回の旅路を経て、何か心境の変化があったのだろうか。


 シルヴィアが再びリューズナードへと視線を向け、恐る恐る口を開いた。


「……ここにある物は、どれも無くなったら困ります」


「そうか。それなら、全部壊せば良いな」


「あ、あの! でも、薬品の入った瓶やボトルは壊さないでください。人体に有害なものも多いので、下手に漏出すると危険です」


「分かった」


 短く答えると、リューズナードは近くのデスクに歩み寄り、機材の一つを持ち上げて床へと叩き付けた。ガシャン! と派手な音を響かせながら、細かい部品があちらこちらへ飛び散っていく。トドメとばかりに本体を踏み付け、彼はまた違う器具を手に取った。


 室内には、大なり小なりの器具や機材が数十基はある。一つ一つを手作業で破壊するのは時間がかかりそうだ。少しでも力になりたいと、ロレッタは比較的大掛かりな機材の前に立った。無機質なそれに両手を翳して、加減しながら水魔法を流し込む。あっという間に精密機械の内部が浸水し、やがてショートしたのか煙を上げた。


「え、水魔法……!?」


 ロレッタの魔法を見て、シルヴィアが目を丸くする。フェリクスが慌てて説明した。


「あ、うん。ロレッタさんは、水の国(アクアマリン)の人なんだ。魔法も使える」


「……魔法国家の人間が、なんであんたに協力するのよ?」


「えっと、俺も事情を全部知ってるわけじゃないんだけど、ロレッタさんは、今は原石の村(ジェムストーン)に住んでるんだ。リューズナードさんの奥さんなんだって」


「ああ、それじゃあ、あっちの大きい人がリューズナードさんなのね。結婚してたんだ……。原石の村(ジェムストーン)って、何?」


「非人の村の名前。住人の皆さんは、そう呼んでるみたい」


「……! 非人の村……?」


 ロレッタが二つ目の機材を浸水させた時、シルヴィアが血相を変えて叫んだ。


「あの! リューズナードさん、ロレッタさん!!」


「は、はい!?」


「なんだ」


 ロレッタは大きな声に肩を跳ねさせた。リューズナードは全く動じず、淡々と備品を破壊し続けている。


「お二人とも、非人の村の方なんですよね!?」


「その名で呼ぶな。俺たちの村の名前は――」


「今すぐ、逃げてください!」


「……あ?」


 リューズナードが手を止めて振り向く。その視線の先に居るシルヴィアは、ひどく焦燥した様子だった。なんだか不穏な空気を感じて、ロレッタは小さく息を呑む。


 しん……と静まり返った室内に、シルヴィアの悲痛な訴えが響いた。


「国王が、開発中の兵器の臨床実験に非人の村を使う、と言っているんです! 完成した毒の効果を確かめる為に、村へ散布させる気なの!!」

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