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呪われた銀龍皇子の愛しの逆鱗妃 ~大好きなあなたには本当に好きな人と幸せになってほしいので、離縁してください!~  作者: 三日月さんかく


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34:逆鱗妃の幸福



 ルキアン様の龍気が呼んだ嵐は徐々に収まり、雷雲も皇都の向こうへと流れていった。満天の星空がようやく姿を現す。

 月明かりの元で、わたしの胸元から最後の黒魔術の残滓が浮かび上がり、そして消えていった。


「ルキアン様! 見てください! わたしの逆鱗の証がまた昔のような紅に戻りました! これでルキアン様の呪いは完全に解かれたのですね!!」


 ルキアン様の呪いがついに解呪された。この人はもう呪いの発作に苦しめられなくて済むのだと思うと、嬉しくてたまらなかった。

 得意になって、上衣の合わせ目を広げてルキアン様に見せたが、彼は照れた様子でそっと目を逸らした。

 その意味に気が付き、わたしは慌てて胸元をしまおうとする。


「申し訳ありません、ルキアン様……! 貧相なものを……!」

「謝る必要はないし、シェリの体を貧相だとも思っていないが。誘惑されるのは嬉しいが、まだこの状況だからな……」


 わたしを抱え上げたままのルキアン様は、周囲の状況を目で示す。

 地下牢が崩壊した影響で周囲の土地が陥没し、開いた穴のほうへ黒いお墓が倒れていた。かなり酷い状況である。


「でも、まぁ、少しくらいいだろ。お前を娶ってから苦節二年だからな」


 ルキアン様はいたずらっ子のような笑顔になると、まだ隠しきれていなかったわたしの胸元へ顔を寄せ、紅い宝石に口付けた。

 あまりの出来事に思考が追い付かず、顔が真っ赤になってしまう。

 ルキアン様の妃になってから夜伽の覚悟はしているつもりだったけれど、実際色っぽいことをされるとどうしていいのか分からないわ……。

 目がぐるぐる回っているわたしを見て、ルキアン様は「ぷはっ」と吹き出した。


「シェリはただそのままで可愛いな」

「ありっ、ありがとうございます……」

「礼を言うのは俺のほうだ。お前のお陰で解呪が出来た。俺を救ってくれて、本当にありがとう」

「ルキアン様……」


 ルキアン様と見つめ合っていると、無数の馬の足音が聞こえてきた。

 その先頭を走っているのはクローブさんで、彼はルキアン様の姿が目に入ると馬から飛び降りた。そのままの勢いでこちらへと駆け寄ってくる。


「ご無事ですか、ルキアン様!? シェリ妃はどうされたんですか!? お怪我でも!?」

「おお、クローブ。俺もシェリも無事だ。シェリは疲れが出たようだから、抱えているだけだ」

「わたしのことはもう下ろしてくださって大丈夫ですから、ルキアン様」

「ならん。銀木犀の宮へ戻るまでは俺に抱えられていろ」


 クローブさんはルキアン様の様子をじっと見つめた。彼の瞳には期待と不安が激しく入り混じっている。


「それで、……ルキアン様の呪いはどうなったのでしょうか? やはり、駄目だったとか……」

「無事に解呪出来たぞ、クローブ。女魔導士の作った祭壇を破壊し、原初の生贄を解放した。……今後、皇族から呪われた者が出ることはなく、俺ももう二度と呪いの発作が起こることはない」


 ルキアン様の発言に、クローブさんは暫し沈黙した。そして突然「あああああっ!!」と大声を上げて泣き始めた。彼のキツネの耳と尻尾も激しく揺れる。


「よっ、良かった……!! ルキアン様がもう苦しまずに済む……!! ああ、本当に良かった!!!」

「……今までたくさんの苦労を掛けたな、クローブ。従者として俺を支えてくれて、本当にありがとう」


 クローブさんは幼少期からルキアン様の従者で、わたしよりも長い時間彼を傍で支え続けてきた方だ。喜びと安堵も一際強いものだろう。

 クローブさんの他にも、皇帝陛下や皇后様、ジャスミンさんにロドリーさんなど、ルキアン様の御身をずっと心配し続けた方々がいる。呪いが解呪されたと聞けば、皆さん、とても喜んでくださるだろう。


「早く他の方々にも、ルキアン様の解呪をお伝えしたいですね」

「ああ。そうだな。皆に心配を掛けながら育ったからな、俺は」


 わたしはハンカチを取り出すと、クローブさんに手渡そうとした。すると彼はハンカチごと、わたしの手を両手で掴む。


「シェリ妃、本当にありがとうございました。あなたがこの国に来てくださったお陰で、ルキアン様の呪いを抑えることが出来ただけではなく、解呪することが出来ました。本当に、本当にありがとうございます……っ!!」

「そんなっ、わたしはただ……」


 ルキアン様の逆鱗だったから、彼の呪いの元を見つけることが出来ただけだ。ただの幸運だったし、キラ皇国からルェイン大帝国へ来れたことだってただの幸運で……。

 咄嗟に否定の言葉を言いそうになったが、そうじゃないな、と思い直した。


「お役に立てて嬉しいです。ルェイン大帝国に来られることが出来て、ルキアン様やクローブさんたちと出会うことが出来て、わたしはとても幸せです。こちらこそ、本当にありがとうございます」


 わたしは心からそう言葉に出来て、すっかり自然に笑うことが出来た。





 その後、泣き止んだクローブさんが崩壊した地下牢を見て、「僕も祭壇をぶん殴りたかったんですけれど!?」と言って地団太を踏んだり。

 銀木犀の宮へ戻ったら、ジャスミンさんやロドリーさんだけでなく、皇帝陛下や皇后様がいらっしゃっていたりした。

 陛下たちはすでに、ルキアン様の解呪を確信して喜色満面の表情をしていた。その理由はなんと、皇后様の体調が急に回復されたのだとか。

 いつもは車椅子で移動する皇后様が、獅子族の丸い耳と長い尻尾をブンブン揺らし、両手を腰にしっかりと当てて立っていた。胸を反らしてピンと立つそのお姿は、皇帝の正妃に相応しい覇気に満ちていた。


「ルキアンを産んでから十数年立ち上がれなかったからな。まだ走ったり、飛び跳ねたり、狩りに出るのは無理だが、歩くことは問題ないぞ!」

「お前が元気になったら、いくらでも狩りに連れて行ってやろう。今はゆっくりと体力を回復しておくれ」

「ああ! ありがとう、陛下よ! 狩りを楽しみにしておるぞ!」


 皇后様は自分の足でルキアン様の前まで歩くと、ガバッとルキアン様と……隣にいたわたしまで、まとめて抱き締めた。


「頑張ったな、二人とも。そしてルキアン、お腹の中にいたそなたを呪いから守ることが出来なくて、すまなかった。今日までよくぞ耐え抜いた」

「母上こそ……、俺の呪いのせいで、今まで多くの苦労をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでした……」

「むしろ全部代わってやりたかったよ。そしてシェリ姫、解呪に導いてくれて本当にありがとう。お陰でルキアンだけでなく私まで救われた。シェリ姫が義娘になってくれて、私は本当に幸せだ」

「皇后様……」


 実の母親に可愛がられ、大事にされ、抱き締められたことのなかったわたしは、皇后様の言葉がとても嬉しかった。

 ルェイン大帝国には、愛するルキアン様も、家族や仲間だと信頼することが出来る方がたくさんいる。この国がわたしの本当の居場所になったのだ。


 その日は夜遅くまで、銀木犀の宮は笑顔と涙に溢れていた。

 陛下とルキアン様は、皇族の呪いが消えたことを民に公布することや、地下牢が陥没した一帯の事後処理の話などもあって、バタバタしていたけれど。

『これ以上は明日、白銀城で話し合おう』ということになった時には、深夜を過ぎていた。

 わたしは花桃の宮には帰らず、ルキアン様の寝室で初めて一緒に眠った。もうすっかり疲れていて、特に何もなかったけれど。でも、いつもルキアン様と夜を過ごす時は朝まで全力で遊んでいたので、一緒に眠ること自体が新鮮だった。

 ルキアン様の腕の中で、彼の寝息と心臓の音を聞きながら眠るのは、とても幸せだった。





 ルキアン様の呪いの解呪について公布されると、国中が喜びに満ち溢れたと共に、何故かわたしの立場が一変した。

 今までは、いわば『下界から来た下等な人間が、何故皇太子殿下の逆鱗なんだ!?』という疑問と不満が獣人たちの間に広がっていたのだが。わたしがルキアン様の呪いの解呪に大きな役目を果たした結果、『皇太子殿下に逆鱗妃が現れたことは、ルェイン大帝国の幸福の証だ!』くらいの歓迎ムードに変わってしまった。


 上位貴族であるレイラーン嬢とラシード君が、


「シェリ妃殿下のお陰で、我が家のラシードが無事に救出されたのです。捜査中で不安だった私を慰めてくださったのもシェリ妃殿下でした」

「シェリ妃殿下は我が家の大恩人です」


 などと、好意を表明してくれたのも大きな後押しになっていた。


 イタチの令嬢であるアニス嬢は、お茶会などで「あたしはずっと前からシェリ妃殿下の親友なのよ!」と吹聴しているらしい。

 アニス嬢にはあまり好かれていないと思い込んでいたので、知らない内に彼女と親友になれて嬉しいわ。


 そういうわけで少し城内を移動するだけで人に囲まれてしまうし、花桃の宮にもあちこちのお茶会の招待状や贈り物が殺到したりで、イレギュラーなことにわたしはちょっぴり疲れてしまっていた。

 そんなわたしの気持ちを察してか、ルキアン様が空中散歩に連れて行ってくれた。

 今は龍化を解いて人の姿になったルキアン様と、あまり人気のない花畑を歩いているところだ。


「いい風ですね。甘い花の香りがします」

「ああ。こうして気楽にどこへでも飛んでいけるというのは、健康な心身のお陰だな。呪いが消えて本当に良かった」


 ルキアン様が穏やかに微笑む。太陽の日差しの下で、ルキアン様の三つ編みに結われた銀髪がキラキラと輝いていて眩しかった。


「呪いと言えば、最初の生贄だった赤子を弔うために、皇族の墓地に石碑を建てることになった」

「皇族の墓地に……。皇子として弔われて、幽霊さんも嬉しいと思いますよ。本当なら皇子として大切に育てられるはずの方でしたから」

「そうか。シェリがそう言うのなら安心だ」

「ルキアン様。石碑が建ったら、流行のお菓子をお供えに行きたいです」

「ああ。そうしよう」


 ふいに沈黙が落ちる。

 何か考え事かしら、とルキアン様を見上げたら、いつの間にか彼の作り物のように美しい顔が近付いていた。

 合図のように頬を撫でられ、緊張しながらギュッと目を瞑れば、優しい口付けが降ってきた。


「シェリはこの国に来て、俺たちに出会えて幸せだと言っていたがな。俺のほうがもっともっと幸せだ。お前に出会えて、俺の人生丸ごと救われたよ、俺の唯一の逆鱗妃」


 ルキアン様は紅い瞳を柔らかく細めて、わたしの大好きな、太陽みたいに明るい笑顔になった。

 この人に出会うまでのつらかったこと、苦しかったこと、寂しかったこと、悲しかったこと。そういう過去の記憶に、わたしの心はもう痛まない。

 わたしの人生はもう寂しくなんかない。

 こうしてわたしを必要としてくれて、愛してくれて、一緒にいることを幸せだと言ってくれるルキアン様の存在が、わたしを未来へ未来へと連れて行ってくれるから。

 あなたの逆鱗として生まれて、本当に幸せです。



END

シェリとルキアンの物語にお付き合い頂きありがとうございました!!!

最後に↓下にある☆☆☆☆☆より、評価をお願いいたします(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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