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呪われた銀龍皇子の愛しの逆鱗妃 ~大好きなあなたには本当に好きな人と幸せになってほしいので、離縁してください!~  作者: 三日月さんかく


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31:地下牢



 松明の橙色の灯りに照らし出されたのは、石造りの地下牢だ。始祖王時代のものなので鉄格子などはさすがに使い物にならなくなっていたが、手入れされずにいた施設のわりに不思議なほど荒れていない。どこかに空気孔があるらしく、微かに風が吹いていた。


 先頭を歩くクローブさんが、ふいに声を上げた。


「ルキアン様、あそこに誰かがいるようです」

「気を付けろよ、クローブ。祭壇に生贄を捧げている犯人かもしれん」

「ですが地面に蹲っているようで……。ラシード殿!?」

「なに!? ラシードが見つかったのか!?」


 どうやらラシードというのはレイラーン嬢の弟さんの名前らしい。

 レイラーン嬢と同じ銀の髪と薄紫色の瞳をした愛らしい男の子が、衰弱した様子で地下牢の壁に寄りかかって座っていた。彼の近くには水差しや林檎の芯などが散らばっていたので絶食状態だったわけではなさそうだが、それでも随分ひもじい想いをしたのだろう。


「……あれ、……殿下? クローブ殿も……。ぼく……、姉様に会いたい……」

「しっかりしろ、ラシード。姉のレイラーン嬢にすぐに会わせてやる。お前のことをとても心配していたからな。俺たちがお前を助けに来た。お前を攫った犯人がどこにいるか分かるか?」


 クローブさんがラシード君を介抱し、ルキアン様が彼に尋ねる。

 ラシード君は地下牢のさらに奥を指差した。


「このずっと奥に、とても広い空間がありました。床一面に変な模様が描かれていて、その真ん中にある祭壇に、誰かがいると思います……。でも、殿下に視えるかどうかは分かりません。ぼくでも、その子がぼんやりとしか視えないから……」

「どういう意味だ?」


 ルキアン様は首を横に傾げたが、わたしはラシード君が言いたいことが分かる気がした。


「もしかしてその誰かは、黒髪と紅い瞳をした少年ですか? レイラーン嬢から、ラシード君は狂い咲きの紅梅のところで行方不明になったと聞きましたが、彼に攫われたのではないですか?」

「は、はい。ぼくを攫ったのは黒髪の少年の幽霊です。顔はぼんやりとして視えなかったので、瞳が紅いかまではよく分からなかったのですけれど……」


 ……やっぱりそうだ。銀木犀のところで度々会い、今ではわたしのおやつを強請りに来る幽霊さんこそが、女魔導士の黒魔導の維持を引き受けている存在なのだ。

 彼がどうしてそんなことをしているのかは、まだ分からないけれど。


「黒髪の幽霊とは一体なんの話なんだ、二人とも?」


 不思議そうにしているルキアン様に、わたしは初めて黒髪の少年の話をした。

 ルキアン様もクローブさんも「俺の宮にそんな怪しい人物が侵入していたのか!?」「何故今まで一度もその話をしなかったのですか、シェリ妃!?」と驚いたけれど、わたしは彼のことをおやつを強請る以外に害のない幽霊だとずっと思い込んでいたのだ。もっと前からお二人に伝えていれば良かったわ……。

 申し訳なさにシュンと肩を落とす。


「まぁ、今さら何を言っても仕方がない。シェリも害のない幽霊だと思っていたと言ってるしな」

「確かに、幽霊なんて非現実的な存在を話題にはしにくいですからね」


 ルキアン様とクローブさんはわたしのことを特に責め立てたりはせず、二人揃ってわたしの肩をポンポンと叩いてくれた。


「うぅ……っ!」

「ラシード殿!? くそっ、さらに顔色が悪くなって……!!」


  真っ青な顔でぐったりとするラシード君のことを、クローブさんが慌てて支えた。


「……ルキアン様、僕は一度ラシード殿を連れて地上へ向かいます。彼をすぐにでも医者に診せなければ」

「分かった、クローブ。ラシードのことはお前に任せたぞ」

「おやつ泥棒の幽霊なんかに、あなたが絶対に負けるはずがないと、僕は信じています。だから、僕が叩き壊す分の祭壇は残しておいてくださいね。ラシード殿を医者に預けたあとはここに必ず戻ってきますから」

「ああ、残しておくよ」

「シェリ妃、ルキアン様のことをお願いいたします」

「承知いたしました、クローブさん。どうかお気を付けて」


 クローブさんはラシード君を背負うと、急いで出口の方へと去っていった。


「では、俺たちも奥へ進むか」

「はい、ルキアン様! 今度はわたしが先頭になってルキアン様をお守りします!」

「全くぶれないな、シェリは……」


 ルキアン様はわたしが持っていた松明をひょいっと奪うと、さっさと奥へ進んでしまう。


「る、ルキアン様……! あなたは皇太子なのですから、守られなくては……!」


 追いかけて松明を取り返そうとするわたしから、ルキアン様はさらに腕を高く掲げて、絶対に取られまいとした。

 ルキアン様はわたしに顔を近付け、こんな時だというのに明るい笑みを浮かべる。


「シェリと二人きりの時くらい、ただの男としてお前を守らせてくれよ。な?」

「……そんなふうにおっしゃるのは狡いです、ルキアン様」

「はっはっはっ、シェリのこんなに可愛い照れ顔を見ることが出来たのだから、狡い男になった甲斐があるな」

「もうっ、ルキアン様ったら……!」


 ひとが心配しているというのに……!

 もう一度、松明を奪い返そうとルキアン様に手を伸ばそうとすると、――急に地下牢のあちらこちらで灯りが点り、周囲の暗闇が追いやられた。

 どうやらわたしたちは、ラシード君が言っていた地下牢の奥に到着したらしい。石造りの広い空間だ。壁際にはたくさんの松明が設置され、天井はドーム状に高くなっている。床いっぱいに、とても緻密な魔導の紋様が描かれ、その中心には祭壇があった。子羊の頭がごとりと置かれている。


 子羊の頭の隣には、あの黒髪の少年が腰掛けていた。


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