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呪われた銀龍皇子の愛しの逆鱗妃 ~大好きなあなたには本当に好きな人と幸せになってほしいので、離縁してください!~  作者: 三日月さんかく


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26/34

26:銀木犀の下には

※動物の死骸に関する描写があります。



 黒髪の少年に、北側にある石碑があの女魔導士のお墓であることを聞きいてから、ますます考え事が多くなってしまった。


 そもそも何故、女魔導士のお墓が城内にあるのかしら? 白銀城には皇族のお墓ですらないのに。


 歴代の皇族が眠るお墓は皇都内にあるが、白銀城から馬車で丸一日かかる距離にある。

 年に一度、皇帝陛下とルキアン様と共にお参りに行くが、往復で一週間ほどの旅程だ。そのため体調が安定しない皇后様はご一緒出来なくて残念だと、わたしは毎回思っていた。

 もちろん、女魔導士が皇族として扱われなかったのは理解出来る。けれど罪人は罪人で専用の共同墓地があり、弔われたあとの遺体はそこに埋葬されることになっている。

 始祖王の時代に罪人用の墓地がなかった可能性も勿論あるけれど……。


 それに調べ物を続けていると、思いもよらない事実が発覚した。

 白銀城にある現在の牢屋はとても古いものなのだけれど、あとから増築された場所で、女魔導士が入れられたとされている牢屋ではないのだ。

 現在の城内見取り図を見ても、女魔導士が入れられた牢屋はその跡地さえ分からなくなってしまっている。

 これは一体どういうことなのだろう?


「……うーん。考えても分からないわ……」


 考えが煮詰まってしまったわたしは、侍女たちを連れて銀木犀の宮へ遊びに行くことにした。





「ルキアン様なら今の時間は白銀城の執務室にいるはずだよ、シェリ妃。とっとと自分の宮に戻りな」

「存じております、ジャスミンさん」


 ジャスミンさんは狐耳をピコピコ動かしながら両腕を組み、威嚇するようにおっしゃった。


 わたしは今でもふらりと銀木犀の宮に立ち寄ると、よく雑用を手伝うのだが、相変わらずジャスミンさんはそのことに反対なのだ。『あんたはもうルキアン様の正妃様なんだよ!? きぬさやの筋取りはもうお止め!!』などと声を荒げたりする。

 花桃の宮の者たちもジャスミンさんの意見に賛同して頷いていることが多いが、わたしが『正妃だからこそ、ルキアン様の身の回りのことに気をかけているのです』と言えば、ジャスミン様は毎回渋々受け入れてくださるのだ。


「わたし、今日は草むしりに来ました! 道具を借りて中庭へ行きますね!」

「よりによって土いじりかい、まったく……。中庭ならロドリーが作業しているからね。邪魔はしないように」

「はい!」


 お付きの者たちはジャスミンさんの手伝いに回ることになり、わたしは草むしりの道具を借りると、一人で中庭へ向かう。草むしりは勿論するけれど、狂い咲きの銀木犀を今一度観察したかったのだ。


 中庭の真ん中には、巨大な銀木犀が変わらず枝葉を伸ばし、房状の白い花をたくさん咲かせていた。

 その近くにはウサギの獣人であるロドリーさんの姿があり、彼は銀木犀ではなく他の植物の手入れをしているところだった。


「こんにちは、ロドリーさん!」

「あ? ……シェリ妃か。今日はなんだ?」

「中庭の草むしりに来ました」

「そうか。鎌で手を切るなよ」

「はいっ」


 わたしは暫く、黙々と草むしりをした。

 一時間ほど集中するとだいぶ草を取り除くことが出来、額の汗を拭う。わたしはそのまま銀木犀を見上げた。


「この銀木犀は、一体いつの頃から生えているのかしら……」

「歴代の庭師の間じゃ、始祖王の時代に偽妃が植えたっていう話だな」

「ひょえ!? ロドリーさん!?」

「ほれ。茶でも飲んで涼め」


 背後から突然声を掛けられてびっくりしていると、ロドリーさんが竹筒に入れたお茶を池の水に漬けて冷やしたものを手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます……! それで、あの、ロドリーさん。今おっしゃっていた、偽妃って……」

「始祖王様に大噓を吐いた最初の妃の話だ。この城を守る魔導を仕掛けるためにこの銀木犀を植えたと、先代の庭師から聞いとる。先代は、先々代から聞いたそうだ。ほら、木の根元を見てみろ。そこの影にかつての魔導の面影がある」

「え……?」


 ロドリーさんが太い指で指差した場所には、太く張り出した根があり、その影に隠れるようにして、長方形の石で造られた蓋のようなものがあった。


「まぁ、大昔のもんだから壊れちまっていて蓋を開けることは出来ねぇんだけれどな」

「ロドリーさんは試したことがあるんですか?」

「ああ。……そんなことより、シェリ妃。お茶を飲んで休んでいろ。ジャスミンさんからおやつでももらってきてやるから。今日は餡子の入った包子バオズを蒸すと言ってたから、炊事場へちょっくら行ってくる」

「あ、はい」


 そう言って去っていくロドリーさんを見送ってから、わたしは恐る恐る石の蓋へと近付く。

 今までこんなものがあるなんて、一度も気付かなかった。日頃から狂い咲きの木を手入れしている庭師だからこそ、知ることが出来たのだろう。白丁花の宮の書物にも書き記されていない、貴重な情報だった。


 わたしは蓋の表面を撫でる。取っ手のように窪んだ部分があったが、ロドリーさんの言う通り開けることが出来ない。

 でも、わたしは予感がしていた。わたしにはこの蓋を開けることが出来ると。――だってわたしはルキアン様の逆鱗だ。彼のためになることなら不可能を捻じ曲げてしまう力を持っている。


 もう一度取っ手に両手の指を入れ、ぐっと蓋を持ち上げると――わたしの胸元の紅い宝石が輝いた。紅いと言っても、ルキアン様の呪いをため込んで、もはや随分黒く染まってしまったが。それでも輝きはまだ健在で、紅く鮮烈な光を放った。

 途端に石の蓋が持ち上がる。

 蓋の下には奇妙な空洞があり、底と四辺の壁が石で造られたていて、まるで地下収納のように見えた。

 底には真新しい木箱があり、正五角形が描かれた呪符のようなものが貼ってある。

 わたしは両腕を伸ばして木箱を抱え上げると、呪符を剥がして箱を開けた。


 中には解体されてからまだ時間があまり経っていない子羊の脚が二本、入っていた。


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