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20:白丁花の宮



 ルキアン様が受けた呪いは、女魔導士が自らの子を生贄にして、始祖王を呪ったことにより始まったと聞いている。

 この呪いの解除方法に関して、今まで多くの人たちが調べたらしいけれど……。

 そもそもこんなに強力な呪いを、女魔導士はどうやって生み出したのかしら?

 わたしは呪いの作り方が気になり、白丁花の宮に向かうことにした。


 白丁花の宮はキラ皇国でいうと図書館に当たる場所だ。白丁花は可憐な白い花を咲かせる常緑広葉樹で、生垣として宮の周囲にぐるりと植えられていた。


 お付きの侍女や護衛に「一人で探したい物があるので」と言って、一人で宮の中を歩く。本当に大きな図書館で、部屋ごとに本のジャンルが異なっていた。

 呪い関連の本を探していると、ある部屋の本棚すべてがそれに該当していて驚く。銀龍族の呪いを解呪するために奔走した結果、これほど多くの本が集まったらしい。


「これだけ呪い関連の知識があって、未だ解決しないなんて……」


 この部屋の本をすべて読むにはどれほどの時間が掛かるのだろう……。

 一瞬気が遠くなりそうだったが、わたしは自分の頬をパチンと小さく叩いて気合を入れる。


「ルキアン様のためだもの! 頑張らないと……っ!」


 とりあえず気になった本は全部読もう、と思って、本の背表紙を読んでいくと――。


「あら? なにかしら、これ……」


『呪術大全集』やら『憎いあの人を破滅させる方法』など、おどろおどろしいタイトルの中に、『黒魔導書』と書かれている本があった。


 そういえば、陛下から女魔導士の話を聞いた時、魔導とはどんなものなのだろうと、わたしは不思議に思ったのだった。


「まずは敵を知らなければならないよね……」


 わたしが『黒魔導書』の本を手に取った途端、背後から「げっ! シェリ妃殿下じゃん……!」という声が聞こえてきた。

 振り返ると、モフモフしたイタチの耳と尻尾が生えたご令嬢の姿がある。先日の夜会の際に、大庭園の紅梅のところでお会いしたご令嬢たちの一人だった。

 彼女の名前は最初の挨拶の時に聞いたはずだ。確か、アニス嬢だ。


「一人の時にシェリ妃殿下に会うなんて、かなり気まずいわね。……あー、えーっと、シェリ妃殿下は元気でしたか? って、元気なわけないですよね!? レイラーン様とルキアン様が急接近中ですもんね!? ごめんなさい!!」

「お久しぶりです、アニス嬢。白丁花の宮でお会いするなんて奇遇ですね」


 アニス嬢はわたしのことを『旦那に浮気された奥さん』みたいに扱うが、あまり心配しないでほしい。ルキアン様の正妃の座なんて、わたしには最初から相応しくなかったのだから。


 わたしはアニス嬢に微笑んで挨拶してみたが、彼女はわたしが手に取っていた『黒魔導書』の表紙を見て、顔を蒼褪めさせた。


「ぎゃああっ!! 早まらないで、シェリ妃殿下!! レイラーン様を呪わないでぇぇぇ!!」


 そんなつもりは全くないのだけれど、アニス嬢はわたしの肩にしがみつき、ブンブンと前後に振った。





「な~んだ。シェリ妃殿下ったら魔導について知りたかっただけなのですね。私、早とちりしてびっくりしちゃったぁ」

「誤解がとけて良かったです、アニス嬢」


 アニス嬢は色々と自分の感情に素直なタイプみたいだ。わたしがルキアン様を奪われた憎しみからレイラーン嬢を黒魔導で呪うと思ったらしい。


「なんだ、魔導について知りたいのね? 人間の住む下界には魔導がなかったの?」

「はい。魔導というものは聞いたことがありません」

「なら、私が教えてあげる! まぁ、私も魔導が扱えるわけではないのだけれど……」


 アニス嬢曰く、魔導とは自然界の力を借りて超常現象を引き起こすことらしい。

 自然界には冬を司る水の力、春を司る木の力、夏を司る火の力、土用を司る土の力、秋を司る金の力があり、この五つの力がそれぞれバランスを取っているからこそ、この世界は成り立っているのだそう。


「水は火を消すことが出来るけれど、火は金属を溶かせるでしょ。でも金属は大きな木を切り倒せる。その木は土の栄養を吸収し、土は水を堰き止めることが出来る。この五つの力が調和しているからこそ、世界は平和なのよ」


 アニス嬢は本棚から取り出した黒い表紙の本を『水』、青い表紙の本を『木』、赤い表紙の本を『火』、黄色い表紙の本を『土』、白い表紙の本を『金』に見立てて並べ、その力関係を示すように机の上に並べてみせた。

 それは上から見ると綺麗な正五角形になっていた。


 魔導士はその五つの力に干渉する知識を持つ人々だそうだ。

 彼らは火の力を借りて手のひらから炎を出したり、土の力を借りて土壁を出現させたり、水の力を借りて雨を降らせたりと、色んなことが出来るらしい。


「まるでルキアン様の龍気のようですね」

「龍族の方々の力を真似ようとして生まれたのが魔導らしいわ。でも、龍族の龍気は神から与えられたものでしょ。神から与えられた力を真似るのは本当に難しくてね、魔導を一つ発動させるために方角が大事だったり、星の位置も気にしなくちゃいけなかったり、自然から発生する力の流れとかにも気を配らなくちゃならないみたい」

「そんなに扱いの難しいものなのでしたら、あまり実用には向かないのでは……?」

「まぁ、確かに魔導は結構面倒くさいのだけれど、でもルェイン大帝国で最も重要なものに魔導が使われているのよ」

「ルェイン大帝国で最も重要なものに?」

「ここよ」


 アニス嬢は床を指差した。

 それは、この部屋の床という意味ではないのだろう。


「白銀城を含むこの広大な城内の敷地に、災いから守るための魔導が施されているって聞いたことがあるわ」


 なんとも壮大な話だ。白銀城だけでもとても大きな城だけれど、皇后様がお暮しになる紫雲木の宮や、ルキアン様の銀木犀の宮、わたしが生活する花桃の宮に、この白丁花の宮、それ以外にも高位貴族や役人が暮らす屋敷など建物が何百とあり、もはや一つの街のように広大な敷地なのだ。

 けれど……。


「災いから守るって、ルキアン様を守れていないじゃないですか……」

「それはそうなんだけれど。でも仕方がないんじゃない? だって、その魔導を施したのも、始祖王の妻だった女魔導士だって話だから」

「女魔導士が……?」


 女魔導士が作った守りの魔導だから、それを覆すことも容易かったのかしら。


「気になるならこの辺りの本を借りればいいわよ。女魔導士が施した守りの魔導について、少し載っているから」

「はい。ありがとうございます、アニス嬢」

「いっ、いいわよ、お礼なんて……!」


 わたしはアニス嬢が勧めてくださった本と、最初に手に取ったままだった『黒魔導書』を借りることにした。


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