キズ
恋愛です。
ベタなかんじです。
けど、多少なりともラストは保証します。
体の傷ってすぐ治るけれど、心の傷はなかなか直らない。
そんなのってわかっているはずなのに、傷つけあうしかできないのは、なんでデショウ。
そうして傷ついて、お互いの傷を舐めあって、また傷つけあって。そうして、人間関係って続いていくものなんだと思う。
それでも、深いふかい傷の痛みを知った私は、もう間違っても誰も傷つけない。誰かが傷つくのならば、私が傷つけばいい。
あの夜に、そう思ったんだ──────。
* * *
月が。星が。わたしを照らしてくれている。
今日は、先輩との、約束の日。最近、先輩は彼女であるはずの私とあまり一緒に居てくれなくなっていたけど、今日は会ってくれるって。
嬉しくて、待ち合わせ場所で一時間も前から待ってた。そのときは5:00。6:00から、一緒に夕御飯を食べに行く、はず。
けど、今はもう7:00。楽しみにしてて、なにもお腹に入れてこなかったから、わたしのお腹は切なそうに声をあげた。
もうちょっとだけ我慢してね?
なにしろ、付き合っていた当初から遅刻癖のあった先輩だ。今日もちょっと遅れてくるだけだろう。それに、そんなのぐらい許してあげる。だって、あんなに好きだった先輩が、あたしに告白してくれて。今、先輩の彼女は私ってだけで、夢みたいなんだから。
「まだかなぁ・・・・・・。」
少し、寒くなってきた。
春に近付いてきたとはいっても、まだ3月。空気は冷たい。
はぁ、と息を吐いて手を温める。
そうだ。先輩に、手ぇつないでくれませんかって、お願いしてみようかな。付き合い始めてもう三ヵ月なのに、キス・・・・はまだ早いけど、手も繋いでないって遅いもんね。
それにしても、遅いなぁ。いろいろ想像しているのも楽しいけれど、やっぱり、本人に会うのが一番いい。
!誰かがくる足音がした。先輩かな?・・・・・・でも、2人ぶん。
私は、ベンチから立ち上がって、その誰かを見に行った。
たしかに、先輩。こっちに、あるいてくる。
けど、もう、一人。誰かな?
もう少し。もうちょっとで、顔が見えそうなんだけど・・・・・・。見えた!
見えて、愕然とした。
だって、其処にいたのは私の親友で・・・・・・・。
先輩と、手まで繋いでたんだから。
「・・・・・・結音。ごめんね。」
親友の、紗良が、謝っている。わたしに?
それより、その手は何?
先輩は、わたしのこと、スキなんじゃナカッタノ?
「紗良さん。今頃謝っても、どうにもならないよ。」
先輩は、ぐっと、なにかをこらえているような顔になった。
「あ、ご、ごめんなさい。本当につらいのは、先輩のはずなのに。」
「いや、大丈夫・・・・・では、ないかもしれないけど、立ち直らなきゃ。」
私がいるの、気づいてないのかな?
それとも、そんなにわたしのコト嫌いになったの?
紗良と一緒ってことは、そういうことでしょう?
「結音。まだ、いるんだろう?」
先輩は、静かに言葉を紡ぐ。あれ?<マダ>ってどういうこと?
私は、明日もずっといるよ?
「もう、いいから。ちゃんと、行っていいから。」
なに、それ?わかんないよ・・・・・。わかんないよ!
「ごめん。俺が、この前、遅れた所為で・・・・・。プレゼントなんか選んでた所為で・・・・。」
「そんな事ないです!私が悪いんです!先輩に、結音の好み、教えてあげましょうか、なんて言ったから!」
「それでも、お願いした、俺が悪い。君は、親切心で、言ってくれていた。それなのに、おれは、俺は・・・・・・・!久しぶりに会うのが気恥ずかしいから、ちょっと遅れていこう、なんて理由だけで・・・・・・。」
あれ?先輩と紗良、この前も、一緒にいなかったっけ・・・・・?
あれ?
あれ?
わからない。全部が、私の外で進んでいく。
「その所為で、結音は事故で死んでしまったのに!」
「先輩っ!!!!」
2人の、悲痛な叫びが重なって、奇妙な不況和音を奏でる。
そういえば、この音、前も聞いた。
ああ、そっか。
わたし、しんでたんだ。
全部思い出した。先輩を待っていたこと。紗良と一緒にいた先輩を見て、混乱してしまったこと。
先輩のところへいこうとして、横断歩道でトラックに突っ込まれたこと。
全部、一年も前の話だ。
そっかぁ、私は、一年も此処で、先輩を待っていたのね。
「ごめん、ごめんな。結音・・・・・・・。」
先輩、男の人は、泣いちゃダメなんですよ?
不思議だ。やっと、すべて理解できた気がする。今なら、先輩と紗良が一緒にいたことも納得がいくし、むしろ、先輩には紗良と一緒にいてもらわないとって気もする。
2人は、ずぅっと私に、謝ってくれていたんだ。
そして私は、気づくのに一年もかかってしまったんだね。
もう、もういいよ?
一年も、あなた達をわたしの事でいっぱいにできたんだし。とっても得しちゃったし。
むしろ、2人にはもう、ちゃんとわたしの事を忘れてほしい。
駄目もとで、ふたりにそっと囁きかける。
「もう、いいよ?やっと気づけて、わたしは幸せ。」
これは、自己満足だ。もし届いていたら、きいてくれればいい。
「あのね、先輩。わたしはあなたと付き合っていた、三ヵ月間、とぉっても幸せでした。毎日、夢の中にいるようでした。強く強く、あなたを想っていたぶん、あなたには幸せになって欲しいんですよ?」
先輩が、こちらを見ていた。気づかないとは思うけれど、愛しい愛しいその顔に、わたしはそうっと微笑みかける。
「紗良にも、幸せになってほしいなぁ。結婚式、いけないのが残念だなぁ。賢悟くんと、いつまでも幸せにね。そして、先輩が倒れないように、見ててあげて。」
ああ、どうやら、私が此処にいられるのは気づくまでの間だったらしい。私の半透明な体が、周りに溶けていくのがわかる。これはとても心地よくて、もう眠ってしまいそうになるけれど、でも。
これだけは言わなくちゃ。
「2人とも、ありがとう。お願いだから、笑って?」
溶けていく、溶けていく。これで、本当に私の│舞台は終わる。
消える直前に、2人の泣きながら無理やり作ったような笑顔が、見れたような気がした。神様が、最後のお願いだけ、かなえてくれたのかな。
そうして、私は目を閉じた。
* * *
私はもう死んでしまっているけれど、だからこそ、これ以上わたしのような人をだしたくない。
なので、こっそり見守ったり、助けてあげたりしてる。
痛いのはいやだものね。
そして願わくば、次の世界でもう一度、
私と踊って下さい、先輩。
読んでくれて(たぶん)ありがとうです!
ラストでちょっとでも、「おっ?」とかと思ってくれたら泣いて喜びます。
突発短編でした。
恋愛ものって、急に書きたくなりますよねぇ。
明日木は最近、切なめが好きですね。