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音に揺られて咲く花へ

作者: かふぇ。

音に揺られて咲く花へ



松山帆澄:(まつやまほずみ)ピアニストの母親の影響で絶対音感持ち。それ以外はピアノが上手いだけの平凡な男子学生。

白水詩音:(しらみずしおん)幼少期からヴァイオリンを嗜んできたお嬢様。けれどそんなに上手ではない。天真爛漫な女子学生。

響澄詩:(ひびききよし)音楽の臨時講師。なんどもピアノコンクールで賞を貰っている実力者。普段は落ち着いていてのらりくらりしているが、ピアノに対する熱量は半端じゃない。イケメンというよりハンサム。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


松山帆澄♂

白水詩音♀

響澄詩♂


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





帆澄(M):俺は音楽が嫌いだった

帆澄(M):でもピアノはそれなりに弾けた。母がピアニストだったから

帆澄(M):嫌いでも、習慣化とは恐ろしいもので段々と上手くなっていくものなのだ。

帆澄(M):男がやる楽器っつたらギターとかドラムとかそういうカッコイイやつが基本で。ピアノなんか女の子がやるもんだとずっとどこかで思っていた。女の子の楽器が上手いなんてなんか恥ずかしい。

帆澄(M):そんなこともあって俺は音楽ずっと嫌いだった。


――音楽室、響が座っているところに詩音がとびだしてくる


詩音:ひーびきせんせーっ!

響:やぁ、白水さん。あいかわらず元気だね

詩音:それが私の取り柄ですもの!・・・それより今日も・・・

響:今日もかい?勉強熱心なお嬢さんだ

詩音:だって!先生に教えていただけるなんて人生に何度経験出来るか分からないもの。

響:でも君の楽器は私の専門分野ではないんだよ?それでもいいのかい?

詩音:いいの!私は先生に教えてもらいたいのよ!

響:しょうがないね・・・今日は吹部の指導もあるから少しだけならいいよ。

詩音:やったー!吹部の部長に第二音楽室の許可貰ってくるね!


――詩音勢いよく教室を出ていく時に帆澄とぶつかる


帆澄:うわっ!

詩音:あっ!

響:おーい大丈夫かー。保健師の先生美人だから連れてきてやってもいいぞ

帆澄:いえ・・・大丈夫です

詩音:せんせーサイテー

帆澄:ごめん白水さん

詩音:いいの!こちらこそごめんなさい。つい嬉しくなっちゃって前を見てなかったの。

詩音:それであなた・・・だれだっけ?私の名前知ってるみたいだけど・・・

帆澄:君の名前を知らない人なんて校内にいないんじゃない?俺は松山。

詩音:そうかしら?そんなに有名?

帆澄:オーケストラ部がないのにヴァイオリン持参してるお嬢様って超有名だよ。知らなかったの?

詩音:周りのことなんて興味無いもの。

帆澄:そうですか。

詩音:じゃ!

帆澄:・・・ほんとにお嬢様かよあいつ・・・

響:松山くん。

帆澄:なんですか?こんなとこ呼び出して、俺音楽室嫌いなんですけど。

響:ん?何を言っているんだ。呼び出されるようなことをしたのは君だろ?

帆澄:はい?

響:今度の合唱コンクールのピアノ伴奏に立候補したのは君じゃないか。


――間


帆澄:・・・は?

響:・・・ん?

帆澄:俺・・・立候補なんてしてないすけど・・・

響:これを見てみなさい


――1枚の紙を見せる。そこには伴奏希望です。松山帆澄 という文字が記されている


帆澄:・・・は?

響:この通り、君の名前と合唱コンクールで伴奏をしたいという旨がここに書いてあるんだ。

帆澄:こんなの俺書いてないし!・・・ってこの文字・・・もしかして・・・!!

響:・・・

帆澄:母さんか・・・

響:・・・もしかして君のお母さん松山栞まつやましおりさんかい?

詩音:松山栞ですって?!!!!

響:おかえり白水さん。

詩音:松山栞っていったらあの!超有名なピアニストじゃない!!コンクールの審査員なんどもやってる方でしょう!!

帆澄:・・・

響:・・・松山さんのお子さんがこの学校にいることは知っていたがまさか苗字が松山とはね。ご結婚された時に苗字変わったとばかり思っていたよ。

詩音:先生は古い男ね!時代は変わるものよ!今は夫婦別姓、奥さんの苗字を使うなんて当たり前なんだから!

響:古い男で悪かったなー

詩音:ダンディで素敵とも言えるわ!

響:こりゃ参った。さて、そしたらこの紙は1度私預かりとしておこう。君はやりたくないんだね?

帆澄:はい。

詩音:えー!勿体ない。松山栞の子どもなのにピアノ弾けないの?

帆澄:お前よりかは上手い。

詩音:じゃあ弾けるんじゃない。聞かせてよ!みて!音楽室の許可も貰ったわ!しかも詩音の頼みだからって先生の予定も奪ってきたわよ!

響:君ねぇ・・・私がここに来たのは吹奏楽を強くしてほしいっていう校長の思いがあるんだよ?それを無下にして楽しいかい?

詩音:今日だけ!

響:全く・・・しょうがないな。じゃあとで吹部のみんなにお礼を言うんだよ。

詩音:やったー!!

帆澄:じゃ・・・俺はこれで・・・

詩音:何言ってるの!

帆澄:は?

詩音:せっかく音楽室を取ったのよ?しかも通称ピアノのための教室と言われている第二音楽室。松山くんにピッタリだわ!さっ行きましょ!

帆澄:やめろよ!

詩音:えっ・・・

帆澄:なんだよお前。さっき知り合ったやつによくそんなに馴れ馴れしくできるな!だいたい俺はピアノなんか大っ嫌いだよ。

響:・・・

帆澄:ピアノって女がやる楽器だろ。そんなん上手くてもなんも凄くねぇし、むしろかっこ悪いだろ!!

詩音:ちょっ・・・そんなこと先生の前で・・・!!

響:いいよ。白水さん。でもね、聞き捨てならないな。

帆澄:は?お前もなんなんだよさっきから・・・!

響:私は先月この学校に来た臨時講師の響だ。本業はピアニスト。

帆澄:!

詩音:その顔はやっぱり知らないのね。松山栞と同じくらいのピアノの天才よ。いろんな方と一緒にアンサンブルしているから他の楽器の造詣ぞうけいが深いの。どんな小さい音のズレも見逃さないことからスペシャルイヤーとも呼ばれてるのよ!!

帆澄:はぁ・・・

響:最近の異名はそんな意味があったんだね。知らなかったよ。まぁそんなこんなで学校にお呼ばれして臨時講師を務められるのは有難いことだ。

帆澄:そうですか。良かったですね。

響:君は随分音楽が嫌いになってしまったそうだね。私が君に音楽を好きになる魔法をかけてあげよう。

帆澄:は?さっきから何言ってんですか?意味わかんないすけど。

響:白水さん。

詩音:任された!!!


――詩音、帆澄の後ろにまわりこみ、帆澄を持ち上げる。


帆澄:うわっ!ちょっ!何だおめぇ!

詩音:ヴァイオリン奏者はムキムキなのよん

帆澄:・・・こんのゴリラ

詩音:なんですって!!

響:いい音を出すためにはからだも大切なんだよ。ピアノ奏者も腕を鍛えられるだろう。君の腕も充分ピアニストの腕だ。

響:さぁ行こうか。ピアノのための教室。第二音楽室へ。


――第二音楽室、無機質にグランドピアノが置かれている。壁際には電動ピアノが何台か並んでいる。


響:さぁ。ついたよ。

帆澄:みりゃわかります・・・てか、あんまピアノ見たくないんすけど。

詩音:どうして?

帆澄:・・・嫌いだからだよ

詩音:どうして??

響:こら白水さん。そうやって無闇に詮索するのはいけない。

詩音:だって!よく分からないもの。自分が好きでやってるんじゃないの?

帆澄:・・・そんなことよりおろしてほしいんだけど。

詩音:あら?嫌だけど。逃げないって約束するなら降ろしてあげるわ。

帆澄:・・・はぁ・・・。逃げないよ。だから離せ。

詩音:約束よ?もし破ったらここから投げるから。

帆澄:・・・まじ?

詩音:2階だけど落ちたら痛いかもね?

響:白水さん。それはやめて。私が怒られる。それに、彼は逃げないよ。

詩音:え?

響:嫌だ嫌だ言ってるくせに少し興味ありそうだね。君は、音楽は嫌いでは無いのだろう?

帆澄:・・・

響:それにムキムキとはいえ白水さんは女の子だ。君ほどの腕筋がある男の子が振り払えないわけないだろう?

帆澄:(詩音の腕を振りほどく)

詩音:あっ

帆澄:まぁ・・・俺もピアニストの子どもなんで。母親とタイマンはれる人の演奏は見てみたいですよ。ぶっちゃけ

帆澄:それに、なんかめっちゃムカつくんで。それで下手くそだったら笑い飛ばしてやる。

響:・・・いい目だ。いいだろう。よーく聞いているんだよ。


―――響演奏(華麗なる大円舞曲)


詩音:・・・素敵・・・妖精たちが踊っているようだわ・・・

帆澄:・・・華麗なる大円舞曲かれいなるだいえんぶきょく

響:お、せいかーい。有名な曲だから白水さんも分かったんじゃない?

詩音:も、もちろんよ!!当たり前当たり前!えっと、かれいなるだいたいいろ!

帆澄:華麗なる大円舞曲。

詩音:そう!だいたいぶきょくね!

響:ヴァイオリンアンサンブル用の楽譜もあるから気に入ったらやってみたらどうだい?

詩音:えぇ!是非挑戦したいわ!!

帆澄:こんな有名な曲も知らないで挑戦ねぇ・・・

詩音:うるさい!

響:こらこら。

響:松山くんには簡単すぎたかな?

帆澄:はい。すぐ分かりました。

響:流石だね。

響:でもすごく柔らかな顔をしている。この曲は硬くなった心を柔らかくしてくれるような気がするんだ。

帆澄(M):その通りだ・・・ただの素人が演奏してもこんな気持ちにはならなかっただろう・・・この人の表現力が気持ち悪いほどあるからだ・・・

響:どうだい?私の演奏は。

帆澄:・・・気持ち悪い。

響:はははっ。そう表現されたのは初めてだよ。褒め言葉として受け取っておこうかな。

詩音:どう?あなた先生以上にいい演奏ができるっていうの??

帆澄:は?ふざけんなよ。できるに決まってんだろ。

詩音:あっそ?じゃ弾いてみればいいじゃない

帆澄:やってやるよ。お前が知らない曲で勝負してやる。

詩音:私、ピアノは最近はじめたから多分ほとんど知らないわよ

帆澄:・・・

響:まぁまぁこれから覚えていけばいいよ。さぁ、聞かせてくれるかい?

帆澄:・・・はぁ・・・。


―――帆澄演奏(悪魔の階段)


響:ほぅ・・・

詩音:なんだか荒々しい曲ね。タイトル当ててみましょうか!んー・・・滝!とか?

響:いや、悪魔の階段という曲だよ。そうだね?

帆澄:はい。

詩音:へー・・・だいぶ激しい曲なのね

響:本来は激しい中にもおどろおどろしい曲調になるはずだが・・・

響:君は今投げやり気味に弾いていたね。

帆澄:そうですけど。急に来て、弾かされて、心込めた演奏ができるって言う方が意味わからないです。

響:でも演奏はほぼ完璧だ。ミスタッチ10以内とはなかなかやるね。かなり難しい楽曲の部類に入ると思うが。

帆澄:・・・どうも。

詩音:どこ間違えたか全然わからなかったわ

響:・・・君。合唱コンクールの伴奏やりなさい。

帆澄:は?!

響:いままでいろんな子の伴奏を聞いてきたが間違いなく君が全校で1番上手い。君のクラスからは立候補者いなかったしね

帆澄:俺はやる気ないって

詩音:あら、自信が無いの?

帆澄:そんなことねぇよ。俺が1番ピアノは上手い。でも音楽は嫌いなんだ!

響:これを通して君は絶対音楽を好きになる。嫌いなことを続けるより、好きになった方が気持ちも楽だろう?

帆澄:そりゃ・・・そうですけど。

響:以前、栞さんと連弾をする機会があった。栞さんはおしとやかに見えて結構我の強い人だ。そう簡単に君をピアノから引き離そうとはしないだろう。

帆澄:確かに・・・

詩音:だったら好きになっちゃえばいいじゃない

帆澄:は?

詩音:あなた、嫌いでもこーんなに上手くなったんでしょう?好きになったらとんでもなく素敵な音楽を奏でられるようになるわよ

帆澄:別に俺そんなこだわりないし・・・

詩音:もったいない。

響:とにかく、C組の伴奏は君で決定だ。君ほどの逸材は久しぶりにみたよ。

詩音:さすが松山栞の息子ね!

帆澄:・・・

響:曲が決まったらまた楽譜を渡すから音楽準備室に来るように。

帆澄:・・・はい。じゃまた。


――帆澄が出ていく


詩音:ねぇ先生

響:なんだい。

詩音:どうして松山くんは音楽が嫌いなのかしら

響:そうだね。話していた感じでしかわからないけれど彼はピアノが上手いことを恥じているようでもあった。

響:私たちに聞かせてくれたのはきっと白水さんの挑発に乗ってくれたからだ。

詩音:ちょっと悪いことしたかしら・・・

響:そんな事ないよ。松山くんが殻を破るための第1段階を踏ませたんだ。流石だよ。

詩音:そんな・・・照れますわ

響:あとは、ピアノを弾いても上手いのは母親・・・松山栞の息子だからと思われるのもきっと気に食わないのだろう。

詩音:あっ・・・

響:それほどに松山栞というのは影響のある人物だ・・・彼のためにもあまり言いふらしてはいけないよ。

詩音:私・・・ひどいこと言ったかもしれないわ。

響:まぁまた近いうちに会えるのだからその時に謝ればいいさ。さぁせっかく吹部から音楽室の権限を貰ったんだ。私たちの音でこの音楽室をいっぱいにしよう。

詩音:ええ!


――場面変わって下校中の帆澄


帆澄:・・・

帆澄(M):松山栞の息子・・・か・・・確かに俺は母さんがいなければピアノを始めてすらいなかったのかもしれない。

響(M):本業はピアニストだ。

帆澄(M):あんなハンサムな先生が・・・ピアニスト・・・

詩音(M):時代は変わるものよ!

帆澄(M):・・・まぁ・・・合唱コンクールくらいだったらやってもいいか・・・てか断れなそうだし。・・・母さんが知ったらなんて言うだろう・・・


――場面転換。次の日、音楽準備室


SE:ノック音

響:どうぞ。

帆澄:・・・

響:おぉこれはこれは、昼休みになんて珍しいね。帆澄くん。

帆澄:え、なんで名前

響:私は仮にも先生だからね。調べればわかることだ。

帆澄:はぁ・・・

響:ここに来てくれたってことは合唱コンクールやる気あるんだね。

帆澄:まぁ・・・母さんに言ったらびっくりするくらい喜ばれて・・・引くにひけなかったんだよ。

響:だと思った。栞さんはそういう人だ。ほら。これ。C組は虹だったね。いい曲を選ぶ。

帆澄:それは委員長にいってください。俺はなにもしてない。

響:そうかい

帆澄:・・・先生・・あの

―――間髪入れずに詩音が入ってくる

詩音:(帆澄にかぶせて)せっんせぇーい!うちのクラスの合唱は時の旅人よ!!素敵でしょ!もちろん伴奏は私が勝ち取ってきたわ!超練習するわよー!!

響:いらっしゃい白水さん。

帆澄:お前・・・ノックできねぇの?

詩音:あら、いたの?えっと・・・

帆澄:松山。

詩音:ちがうちがう。えっと・・・

響:帆澄くん。

詩音:そう!ほずみん!

帆澄:・・・は?

響:ぷっ・・・(笑)

帆澄:おい。

詩音:松山くんって他人行儀じゃない?だからあだ名を考えたの!ほずみん!どう?

帆澄:いやどうって・・・

響:いいじゃん?ほずみんにしおりんってわけね。

詩音:先生うまい!

帆澄:はぁ・・・

詩音:てわけでよろしくね!ほずみん!

帆澄:いや俺は白水さんって呼ばせてもらうわ。あだ名なんて他の人に言われてるだろ。

詩音:・・・そんなことないもの

帆澄:え?

詩音:私こう見えて友達いないの。悪いかしら?友達いたらきっと今頃みんなでカフェ行ってお茶してるわよ。

帆澄:えっ・・・なんか・・・ごめん。

詩音:いいわ。別に。お茶なんて家で好きなだけ飲めるし。そうね、今日は帰ってお茶にしようかしら。ヴァイオリンの先生も来るし、じゃごきげんよう。

帆澄:えっちょっ・・・


―――勢いよく扉が閉まる


帆澄:えー・・・

響:今のはさすがにデリカシー無さすぎたね。

帆澄:だってアイツ女にも男にもモテそうじゃないですか

響:いいかい。人は優秀であれば優秀なほど人から妬みを買うものだ。

帆澄:だからなんだよ。

響:・・・君がそれを1番知っていると思ったけどね。さぁ、昼休みももう終わる。また放課後きなさい。


―――場面転換。放課後。


――帆澄が演奏している中詩音がそっと入ってくる



詩音:・・・下手くそ

帆澄:?!・・・白水か。なんだよ下手くそって。

詩音:前奏から乱暴すぎ。まるで自分が主役ですぅって言ってるみたい。楽譜かして。

帆澄:・・・弾けんのかよ。

詩音:ほらどいて。

――帆澄渋々椅子を譲る

詩音:すぅ・・・はぁ・・・(深呼吸)


――詩音、優しく弾き始める。そんな中またそっと響が入ってくる


響:・・・なるほど

詩音:先生?!

帆澄:いつの間に?!

響:いやぁいつもの荒々しさが無くなってだいぶ優しい音色が聞こえるなぁって思ってさ。君たち2人足して2で割ったら完璧な奏者になるよ。

詩音:こいつはわかるけど私も?!

帆澄:・・・

響:帆澄くんは演奏が自分勝手すぎる。ソロならそれも悪くは無いがこれは合唱曲。いわば声色とのアンサンブルだ。自分だけで演奏しているわけではないし、音量も調整しなくてはならない。それにやはり荒々しさが抜けていない。こんなに滑らかな優しい曲を弾くのには合わないと思わないか?

帆澄:・・・

響:白水さんは逆に優しすぎる。時の旅人は前奏のインパクトあってこそだと思うからね。それにこのままでは合唱に負けてしまう。この曲は合唱もメリハリのついた曲だからね。楽譜を追うのに精一杯っと言った感じかな?

詩音:うぅ・・・

響:君たち。楽譜交換してお互いに弾きあってごらん。そしたら自分の足りないものに気づけると思うよ。じゃ

詩音:えっ先生行っちゃうの?

響:今日こそは吹部を見てあげなくては。君には帆澄くんといういい先生もいるしね

帆澄:俺が・・・先生?!

響:じゃあね〜

帆澄:えっちょっ・・・まて!!!

―――響が出ていく


詩音:行っちゃった・・・

帆澄:・・・まぁとりあえず・・・交換して弾いてみる?

詩音:え?弾けるの?初めて見るでしょ?

帆澄:そりゃ多少はね。舐めてもらっちゃ困る。有名ピアニスト松山栞様の息子だぞ。

詩音:・・・ごめんなさい。

帆澄:え

詩音:それ・・・気にしてたのね。松山栞の息子だからピアノが上手いって。自分が努力したのに。だから、ごめんなさい。

帆澄:・・・別に。半分はホントだし。白水さんも虹初見で弾けてたじゃん。結構初見奏は出来ちゃうもんだよ。

詩音:初見奏じゃないわ。私は練習したもの。

帆澄:なんで?

詩音:好きな曲だから。

帆澄:どこが?

詩音:曲調も、歌詞も大好き。私これがやりたかったわ。

帆澄:俺はそっちのが好きだな。合唱練習中少し聞いたけどすぐ弾くイメージが湧いた。

詩音:・・・ちょっと先生が言ってた意味がわかったわ。

帆澄:・・・俺も。

帆澄:てか、白水さん。ピアノ弾けたんだな。

詩音:少しね。せっかく先生がいらしてるんだからヴァイオリン以外も習っておきたかったの。専攻はヴァイオリンだけどピアノも嫌いじゃないわ。

帆澄:・・・ふぅん。

詩音:なによ。

帆澄:いや、なんかヴァイオリンって男のイメージだから。

詩音:・・・なんか前にも似たようなこと言ってたわね。私そんなこと気にしたことないから分からないわ。さっ早く練習しましょ。日が落ちちゃう。

帆澄:おう。


―――詩音、帆澄がピアノを弾いている


響(N):それからというもの、毎日のように2人の音色が放課後の音楽室を満たしていた。お互いの足りないところを補うように、はたまた気晴らしのように。私もたまには顔を出したが、指導は何一ついらないと感じた。実際、2人の研鑽を遠くから眺めるだけで充分だった。

響(N):性格も、足りないところも真逆なのにどこかこの2人は似ている。本人たちは気づいていないだろうがこれを青春と呼ぶのだろうと思うと、背中がこそばゆくなった。


―――場面転換、第二音楽室


響:さぁ諸君。明日が本番です。最後になにか聞きたいことはないかい?

帆澄:ないっす。完璧なんで。

響:さすがだね。白水さんは?

詩音:きっ緊張のほぐし方を教えてくださいっ・・・

響:ガッチガチだねぇ〜

帆澄:ゴリラも緊張するのか・・・

詩音:誰がゴリラですってぇ?!

響:こらこら。んー緊張のほぐし方かぁ・・・

帆澄:無難に深呼吸とか?

詩音:そんなんで落ち着いたら世話ないわよ・・・。

響:頭の中でイメージトレーニングをずっとすることかな。もちろん完璧に弾ける方のね。あとナッツを食べると落ち着くとも聞いたなぁ・・・

帆澄:そういえば俺の母さんコンクール前とかはバナナスムージー作って飲んでたぞ。参考になるかは知らないけど。

詩音:・・・やってみるわ。

響:それじゃ君たちの健闘を祈るよ。私は明日の準備をしてくる。まだ時間あるから最後の追い込みに練習しておいで。

詩音:はい!

帆澄:はーい


―――響が教室を去る


詩音:さっ最後の追い込みやりますか!

帆澄:・・・

詩音:?どうしたの?いつもならいの一番に飛び出していくのに。

帆澄:詩音。

詩音:?!・・・あはは・・・何いきなりビックリするんだけど!

帆澄:いや・・・友達いないって言ってたから。あだ名で呼ぶのは勘弁だけど。

詩音:・・・ビックリして緊張吹っ飛んじゃったわ。ありがとう!あの時のこと気にしてくれてたの?

帆澄:まぁ・・・ね。だから、その・・・ごめん。

詩音:いいの!それに今すっごい幸せ!明日上手く行きそうだわ。ありがとう帆澄。

帆澄:・・・ほずみんじゃねぇの?

詩音:ほずみんがいいの?

帆澄:やだ。

詩音:でしょ!だから譲歩よ

帆澄:譲歩て・・・

詩音:ほらっ早く行くわよっ!日が暮れちゃう!

帆澄:・・・おう。


―――2人とも第二音楽室を後にする


―――場面転換。コンサートホール


詩音(M):当日。演奏は散々なものだった。前奏からちょけるし金賞は私のクラスでも帆澄のクラスでもなく他のクラス。ピアノで争っているわけじゃないけどやっぱり悔しかった。

詩音:私は前奏でこけたけど帆澄は今までで1番丁寧で綺麗な伴奏だった。ついついピアノにだけ耳が惹かれてしまったもの。

響:どうやら金賞には届かなかったみたいだね2人とも。

帆澄:・・・

詩音:・・・

響:そんな沈んだ顔しないの。君たち、なんで賞貰えなかったかわかるかい?

詩音:前奏でコケたから・・・

帆澄:審査員の耳が悪い・・・

響:両者とも不正解。君たち気合い入りすぎて審査員の耳が伴奏しか覚えていなかったからだよ。

詩音:・・・でも失敗したわ。

帆澄:・・・それって合唱ひきたてられてないって事だし・・・

響:2人にはビックリするくらいピアノの才能があると言うことだよ。長年聞いている校長先生だって今年の伴奏は心に残りすぎるって言っていたんだ。そこまで人を唸らせる演奏が出来ることは誇らしいことだと思わないかい?先生はそっちの方が嬉しかったくらいなんだ。

詩音:響先生・・・

帆澄:・・・

響:2人とも。いい演奏だった。

詩音:ぐすっ・・・

帆澄:・・・泣くなよ。

詩音:帆澄も泣いてるじゃん・・・

帆澄:泣いてねぇもん。

響:君たちを私のスクールに持ち帰りたいくらいだよ。名残惜しい。

帆澄:学校行けば会えるじゃんか。

響:・・・あれ

詩音:・・・もしかして先生

響:・・・言ってなかったっけ?

帆澄:(首を振る)

響:あー・・・私。今日までです✩

詩音:・・・え

帆澄:・・・え?

響:・・・てへ

詩音:えええええええええええええ?!

帆澄:うるさっ・・・

詩音:嘘・・・嘘でしょ先生・・・?!!

響:ホント。言っただろう?臨時講師って。本当は1週間前の定期演奏会までだったのを無理やり伸ばしてもらったんだ。

詩音:嘘だァァ・・・先生がいなくなったら私・・・!

響:白水さん。今の君には帆澄くんがいるだろう。それに、また会いたいのであれば私のいるステージまで這い上がっておいで。ヴァイオリンでも、ピアノでも。

帆澄:余裕。

響:さぁどうかな?帆澄くんでも難しいと思うけど。

帆澄:余裕です。

響:はははっ流石だ。また会えそうな気がするよ。

詩音:私もっ・・・私も行きます!帆澄!帰ってアンサンブル曲探すよ!!!

帆澄:・・・え?

詩音:やっぱり私ヴァイオリンの方が好きだしアンサンブルと言えばピアノとでしょ!私を帆澄が居れば百人力だわ!!

帆澄:・・・まじ?

詩音:さぁ!いくわよー!

帆澄:切り替えはやいなぁ・・・もう・・・

響:いいじゃないか。サッパリしてて。

帆澄:・・・先生。あの。

響:ん?なんだい。

帆澄:・・・ありがとうございました。

響:・・・

帆澄:先生のおかげでちょっとだけピアノと向き合えた気がします。俺。

響:そうかい?それは嬉しいね。・・・そうだ。


―――響が帆澄に錆びたピアノのチャームが着いたキーホルダーを渡す


響:これを君に。

帆澄:・・・キーホルダー?

響:いつかまた私たちが会えるようにだよ。帆澄。

帆澄:・・・絶対追いつくんで。

響:おー怖い。栞さんに教えてもらうならもしかしたら追いつかれるかもしれないな。私もうかうかしてられない。

帆澄:俺、全力でやるんで。

響:・・・いい目だ。待っているよ。松山帆澄。

帆澄:はい。待っててください。響さん。




0:FIN-







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