銃6
次の日。
こんこん、と扉が叩かれて、エリーファは寝ぼけ眼で扉を開けた。
昨日は辛いことを考えたからか、身体中が重い。
それでも扉を開ける。
「やあやあ、今日は一緒にお出かけだね、エリーファちゃん。」
そう言いながらこちらに手を振るネオと、なぜか不機嫌そうな顔で立っているシャノンと、すでに合流したらしいジョシュアがいた。
「あっ…今日はよろしくお願いします…!」
そう言いつつ頭を下げるが、3人の影の間に見慣れない影を見つけて一瞬止まる。
「あの…その人は…?」
3人はあぁ…と少し気まずそうな顔をして、影の人物がこちらに見えるように道を開ける。
そこに現れたのは……
「あ、アルバート…?!」
無表情で立っているアルバートだった。
「なんか、私たちが来る前からこの部屋の前にいたわよ。一緒に来るみたい。」
シャノンは不機嫌そうな顔でそう言う。
「帰れって言ったんだけどね〜、なんやかんやで帰ってくれなくてさ〜。」
ネオは面白いものでも見るようにそう言う。
「もしかして、医療班の人に連れ戻された後、すぐに帰ってきたの?」
エリーファの言葉に、3人がえっ、と言うような顔をする。
「もしかしてアルバート、昨日も来たのか?」
とジョシュア。
「う、うん…。なんか、見張り?のためにね…。」
エリーファの一言に、シャノンとネオの2人は悟ったような顔をする。
「ダメだろアルバートくん、怪我してるんだから安静にしてなきゃ。」
ネオはは呆れたような顔をして言う。
それにアルバートはケロッとした顔をした。
「大丈夫だ。内臓は傷つけてないし、長い間安静にしてる必要はない。それに、今日の早朝まで休んだ。」
妙に堂々として言うが、実際はどの時間を早朝としたのだろう……。
聞きたい気もしたが、それで医療班の長に連れ出されて2時間後だったりしたら、こちらが呆れて疲れてしまいそうなのでやめることにした。
「なんなのよこいつ……今日はせっかくエリーファと親交を深める日だったのに……」
ぶつぶつと何事かつぶやくシャノンを制し、ネオがアルバートの手を取って先頭を行く。
「あーはいはい!じゃあ仕方ないからアルバートくんも来ようね〜!」
アルバートは咄嗟のことで驚いたように瞠目しながら連れていかれる。
その後から、シャノンとジョシュアとエリーファもついていくことにした。
「じゃあまずは、ミーティングビルのアンバーを迎えに行こうか!」
そう言うネオに、エリーファは疑問符を浮かべる。
「ミーティングビル?アンバー?なんのことですか?」
首を傾げるエリーファに、ネオはあー、そうか、と言った。
「ミーティングビルは昨日行った、ボスが居たところだよ。あそこは会議する時に使うから、よくそう呼ばれてる。」
どうやら私とジョシュアが構造にいちゃもんをつけた時の建物のことを言っているらしい。
そうなんですね、と頷く。
「セスは…ほら、ミーティングビルにいた時、僕とシャノンとボスともう1人いたでしょ?その子のことだよ。彼女は研究班長って言って、医療の研究や武器の製造をしてる。で、彼女が3番隊隊長だよ。」
あの、髪の毛と眼鏡で顔がよく見えなかった女性のことだろう。失礼だが胸が大きかった気がする。緑色の髪をしていて、綺麗だと思った。
彼女が3番隊隊長だとは驚きだ。
「ま、3番隊隊長っていっても、3番隊は全員非戦闘部員。全ての隊員が研究者に熱を入れる奴らなんだけどね。」
「そうなんですね…。」
知らなかったなあ、とエリーファは当たり前なことを呟きながら、4人で歩く。
「それにしてもアルバート、医療班の人にはどうやって許可をもらってきたの?」
とエリーファ。
アルバートは目をぐるっとして上を向くと、
「まあ、いろんな手を尽くして、だ。」
と言った。
―――そのいろんな手を知りたいんだけど…と思っていると、ネオとシャノンが呆れたような顔をした。
どんな手を使ったか大体察したらしい。
「あんた、あんまり派手な事してるとボスに目をつけられるわよ。うちのボス怖いんだからね。」
とシャノン。
アルバートは平気そうな顔をすると、
「大丈夫だ。手は出してない。出そうとはしたが。」
と言った。
シャノンは、ハーッと息を吐き出して頭を抱えると、
「あのビビり…痛みに弱いんだから……」
と呟いた。
それにネオは、まあまあ、と宥める。
「僕も痛いのは嫌いだし、医療班長の気持ちはわかるよ。」
わかってどうするのよ、と文句を言われ、まあまあ、とネオは言う。
そんなことをしているうちに、ミーティングビルについたようだった。
入り口の前にいる男2人を顔パスで通り抜け、中の受付嬢2人に何か話を通すと、階段を登る。
「やっぱここの階段、意味わかんねえよなあ。」
とぼやきながらジョシュアがついてくる。
「そうよね、こんな構造の階段初めてだもの。」とエリーファ。
「まあ、こういう開いた階段はここだけで、あとは普通の階段に変わるんだけどね。」
そうなんですね、と返すエリーファ。ジョシュアはますます訳がわかんねえな、とつぶやく。
「あそこがボスの部屋。でも今回はこの上の階に行くよ。」
そう言ってボスの部屋に背を向け、ビロードの張られた大階段を上がっていく。
「ボスはまだ呼ばないんですか?」とエリーファ。
「うん、ボスは最後にしないと、手間取らせちゃうでしょ。」とネオ。
なるほど…と呟きながら階段を登る。
登り終えると、部屋の扉がたくさんついた壁が両隣に現れる。
そして、全ての扉が重厚に作られている。
なんだかすごく重そうな扉だなあ、と思うエリーファ。
ネオは中央の扉へと歩いていく。
そして、ガチャリと開けた。
「うわぁ、皆さん、よくいらっしゃいましたね。」
そう言いつつ、目の前の机の前に立っていたアンバー。
緑色の髪とメガネに隠れた素顔で、今は白衣を身につけている。
机の反対の壁、つまり、ネオたちの両隣の壁には、L字型に見慣れない物珍しい本たちが並べられた本棚がある。
左側と右側には大きな机が縦に置かれ、右側には薬品器具―――フラスコ?―――の中で薬品らしい液体がぐつぐつ煮立ち、左側の机には、あらゆる何かの配線が張り巡らされたり、銃や見慣れない形の武器が転がっている。
「やあ、アンバー。迎えに来たよ。新作はできた?」
ネオの言葉に、アンバーはニコニコと笑うと、はい、と銃を渡した。
「電気銃です。試作品ですが、400ボルトは出ます。打ち込んだ相手は即死か感電を免れず、しばらくスタンさせることができるはずです。」
「へー、すごいじゃん。早速今日の訓練で使おうっと。」
「ちょっと、私を殺すつもり?」
ニコニコと笑うネオに、シャノンが苦言を呈する。
「この程度で死ぬ人間じゃないでしょ?」
「死ぬわよ!当たったら!!」
「ほら、そこはちょちょっと、なんとか、ね?避けるでしょ?」
簡単に言ってのけるネオに、それはできないことはないけど……とシャノンは折れる。
「電気銃……ですか?」
それを見ていたエリーファが、物珍しそうに銃を見つめる。
「そ、銃だよ。エリーファも触ってみる?」
そう言って手渡すネオ。
受け取ろうとするも、アルバートが横から取る。
「へえ。これが電気銃か。すごいですね。」
平気な顔をして手の中の電気銃を見る。
「ちょっと、僕はエリーファちゃんに渡そうとしてたんだけど?君じゃなくて。」
ネオはそう言ってムッとした顔をする。
「そうなんですか?てっきり俺にかと思いました。」
アルバートは平気な顔でそう言うと、続けた。
「それに、こういうのには何か細工でもされてるもんじゃないですか?」
「どういう理論だよ。なんの細工もしてないってば。僕が証明して見せようか?ほら、ほら!」
アルバートの手から銃を取り上げ、ネオは頭の上で振って見せる。
「……あなたには反応しないだけかもしれない。」
「はーっ?!なんなのお前?!敏感すぎやしませんか?!」
アルバートの返答にすこしカチンと来た様子のネオ。
叫ばれるも、アルバートは平気そうな顔でそれを見つめる。
前傾姿勢でアルバートに仕掛けるネオを、ま、まあまあ!とジョシュアが押し戻した。
「こいつ過保護すぎるところがあるんですよ!過保護ってか、敏感っていうか?初めて俺らの町に来た時も、こんな感じでなんでも疑ってかかってて……」
「はー?!町でもそんな感じだったの?!」
信じられない、と言った様子のネオに、ジョシュアはええ、まあ、と頷く。
「しばらくして、慣れてきたらこんな疑いもしないはずなんで……」
「ナニソレ面倒くさー!!」
許してください……というジョシュアをわき目に、ネオは悪態をつく。
それを聞いてもアルバートはどこ吹く風だ。
「あ、アルバート!ダメでしょ、ネオさんを困らせちゃ!!」
めっ、と叱ると、アルバートも少し何かを感じた顔をする。
それをそのままにさせない、と思ったエリーファは、さらに言い募った。
「仮にも私たちはこの人たちの住処に住まわせてもらうのよ!?しかも助けてもらった。その恩を無下にするつもり?」
アルバートが何か考え直したような顔をする。
そして、
「す、スミマセン……」
と、ネオへ謝った。
ネオはへへん、とした顔をすると、
「ま、許してやろうじゃないか。」
と言った。
アルバートの背中が一瞬殺気を帯びたので、あっ、あー!と訳のわからない言葉を掛け声に、示し合わせた訳でもないのに、ジョシュアとエリーファが別の話題へ移る。
「そ、それにしてもここの蔵書すごいわね〜。何か一つ読んでみようかしら、ね!」
「この電気銃、ホントすごいですね!見たことないなあ!」
2人してあ、と顔を見合わせると、アンバーは嬉しそうな反応を示す。
「ええ、その電気銃は私の発明ですからね!ジョシュアさんも使っていいですよ。」
そう言ってジョシュアに。今度は向きを変えてエリーファに。
「ここの本はなんでも揃えてあります。エギルロンド王国の蔵書もあるんですよ!」
その言葉に、アルバートがぴくりと反応する。
「エギルロンド王国の蔵書…?なんでそんなものが?」とアルバート。
「それは……ボスの許可がないと言えませんが…まあ、裏ルートです。」
アンバーがにこりと笑う。
「人体の解剖学やドラゴンの性質!王国の歴史まで、すべて取り揃えているんです!」
その言葉に、アルバートがまたも反応する。
「ドラゴンの性質……」
この話に興味を持ったのを機と捉えたのだろう、ジョシュアが深掘りするように言う。
「ドラゴンってあれですか?魔法が効かなくて、北の谷に住んでいて、エギルロンド国にも、ボブラフトにも害をなすってあの?」
「はい、火を吹くドラゴンです。自身は魔法を使うのに、魔法を効かない鱗を纏っているために、もしエギルロンド国に害をなした場合には、ものすごい被害を及ぼすそうですよ。」
ジョシュアの言葉にアンバーが頷く。
「へー、それも本に書いてあったんですか?」とエリーファ。こちも話を逸らすために必死だ。
「はい。ドラゴンについて、詳しく書いてありました。」
「そんなに詳しく書いてあるなら、私も詳しく読んでみたい……」
「どうぞどうぞ!好きに取って読んでください!」
そう言われて、エリーファはタイトルも見ずに本を引く。
そして開いた。
「――――えー、なになに?……ん?これって…。」
そう言って、エリーファは固まる。
偶然開いたページだった。
ただこの場を穏便に済ますために開いたページ。
しかし、そこには驚くべきものが書かれていた。
エリーファが覚醒した時、手に浮かび上がった紋章が、その本にそっくりそのまま書かれていた。
びっくりして内容を見ようとする。
『この紋章が浮かび上がる者は―――』
今まで土日に投稿していましたが、リアルの事情で不定期投稿になります。一ヶ月、三ヶ月空けることもあるかもしれません。