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第83話 級友

「じゃあ、私、行くね。部活頑張ってねー」


 手をひらひらさせて、陽気な笑顔で教室を出て行く雪華を、牡丹と紅葉の二人は半ば呆気にとられながら見送った。

 それから二人はお互いに顔を見合わせて、それぞれ、眉間に皺を寄せたり首を傾げたりして見せる。


「明らかに、よねぇ」

「明らかに、だねぇ」

「明らかに、だなぁ」


 そこに、少し前に席が近くなった蔵人も加わった。


「ナチュラルに入ってくるわね、蔵人」

「春の体育祭で一緒に走った仲だから、まぁ、これくらいは許してくれ」

「私は参加してないけど」


 紅葉がそう言いながらも、口元には笑みが浮かんでいる。

 授業の中で何かと交流する場面が多く、紅葉の男子生徒への態度、とりわけ蔵人への姿勢は軟化していた。


「まぁまぁ、そう言わずに。で、真木のあのあふれ出るリア充感は、そういうことなのか?」

「う~ん……」


 蔵人の問いに、牡丹が腕を組む。


「そういうことだとは思うんだけど、いつ聞いても、付き合ってるわけじゃないよ、としか言わないんだよね、雪華あのこ

「友達以上恋人未満、というやつね」


 紅葉がしたり顔で深く頷く。


「もうとっくに付き合ってて、それを言うのが恥ずかしい、ってことは?」

「ない! それはない!!」


 教室の前にいた藤助だった。

 同じく教室に残っていた生徒が、何事かと藤助を見る。

 藤助は、近くにいた帝、纏、舞、栞をそのままに、ズカズカと牡丹達に近づく。


「俺の雪華ちゃんが、そんなホイホイ彼氏を作るはずがない!」

「あなたの雪華じゃないでしょう」


 紅葉が鋭く藤助を睨む。

 やっぱりあの集団に対しては、敵対心が消えていないんだなぁ、と牡丹は感じた。


「彼女は私にとって尊敬すべき友人だから、冗談でも軽々しく扱わないでほしいわ」


 紅葉に言い放たれて、藤助がぐっとなる。


「まぁ、藤助の妄言は置いとくとして、実際のところはどうなんだろうな」


 蔵人が言う。


「例のボランティアには、ずっと行ってるのか?」

「みたいよ。ボランティアが目的なのか、例の丹下くんが目的なのかは分からない……っていうか、本人にもよく分かってないんじゃないかな」

「というと?」


 紅葉に促されて、牡丹が口を次ぐ。


「今まで彼氏が出来たことないらしい……どころか、異性を好きになるっていうのがよく分からないって言ってたんだよね」

「あ、それは俺も聞いたぜ」


 藤助が継ぐ。


「結構前に、恋愛感情が分からないってな。それで俺は雪華ちゃんを水族館デートに誘い……」

「何も進展せずに終わった、っていう話だったな」


 蔵人に締められ、藤助がまた言葉を失ったが、さらに身を乗り出して言葉を発する。


「彼氏が出来たことがないってのは、俺も聞いてるぜ。雪華ちゃんの親友の桜ちゃんって子から、ちゃんと聞きだしてるからな」

「桜ちゃん?」


 紅葉が首を傾げる。


「おぉ、雪華ちゃんの幼馴染の子さ。この子がまた、ルックスもスタイルもよくって、魅力的なんだな、これが――」


 言い終えて、牡丹と紅葉の冷え切った視線を浴びせられた藤助は、思わず数歩後ろに下がった。


「まぁ、親友の証言もあるのなら、そうなんだろうな」


 蔵人が腕を組んで言った。


「じゃあ、その丹下が初カレか。いいなぁ」

「おっ、衝撃発言……蔵人って、もしかして雪華のこと……?」

「まぁ、いいなとは思ってたけど」


 蔵人が、言ってから息を長く吐く。


「友達止まりだろうな、俺は」

「なんだなんだ、情けねぇ。俺は友達のその先に行くぜ、雪華ちゃんと! そう、喩えるならば、終業式の後の夏休みのような……」

「それは何もしなくても自然とそうなるものでしかないでしょ」


 教室後方で騒ぐ藤助達を見ながら、纏が呆れたように息をついた。


「部活にもいかず、何を騒いでいるのだか」

「まったくですよね、文武両道が聞いて呆れます」


 栞がこくこくと頷いて纏にひっつく。


「真木のこととなると、ああして人が集まる」


 帝が呟いた。


「人徳、なのだろうな」

「帝サマも、ちょっと惹かれてましたもんね」


 舞がにやりと笑い、それから視線を纏へと移す。


「もっとも、今はしっかりと纏サマの方を向かれていて、一安心ですけども」


 視線を受けて、纏が少し顔をしかめた。


「舞」

「えぇ、えぇ、分かってますって。纏サマ自身が女を磨いて、婚約者フィアンセの気持ちを自らに留めようと努力なさっていることは。だから、実際に帝サマだって、あの女が唐突に言ったゲームについて一応は調べてましたけど、以降は何もアクションなさっていないわけですし」


 舞と纏の視線を受け止めて、帝が腕を組む。


「あれは藤助まで付き合わせてしまったからな。その埋め合わせもしなければならんし、それに、真木にも渡さなければならんものがある」

「真木さんに?」

「ああ。それについては、少し、纏にも知恵を借りたい」


 帝の言葉に、纏が頬を赤らめる。


「おい、お前ら部活いかなくていいのかぁ?」


 一度教室を出て行ったはずの担任が戻ってきて、声を上げた。

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