第21話 選抜
「なんたって、A組は特待生集団だしな~、っと……」
藤助が立ち上がり、教室を見回す。
じっと下を向いたままの生徒が多い。
それはそうだろう、もとの『雪華』でもそうしているはずだ。
そんな中で、顔を上げたままの生徒も少しだけいた。
「クラウド! お前さん、どうよ?」
藤助が声をかけたのは、2年A組で最も長身の男子だった。
濃いブラウンの髪は無造作に伸ばされているが、よく似合っている。
いかにもスポーツをこなせそうな体格は、雪華のそれとはまるで違う。
彼は藤助、そして級長へと視線を移す。
全員がその挙動に注目するが、そうでなくても、元々彼は目立ってはいた。
「……」
彼は無言のまま深く頷き、藤助はニッと笑った。
「決まりだな」
「では、津軽 蔵人くんも出場、ということで……あと、二人です」
蔵人と同様に、指名されればまんざらでもない、という雰囲気の生徒が数人いるように見えた。
雪華としては、それならさっさと名乗り出ればいいのにと思うのだが、どうもそういうわけにはいかないらしい。
講堂の席が後ろから埋まっていくのと同様に、どうにもこの世界の民は奥ゆかしいようだ。
さて、どうなることやらと成り行きを見守ろうとする雪華の目に、纏の姿が映った。
すぐそばのふたりに、何事か耳打ちをしている。
悪だくみであることは明らかだったが、周りはなるべくそれを見ないようにしている。
「このふたりが出るそうですわ」
そら、来た。
「宮之 舞さんと、鎌倉 栞さん……間違いないですか」
級長の確認に、二人は小さく頷いた。
返事くらいしなさいよね、淑女のたしなみでしょうが。
「では、確認します。男子から、帝くん、藤助くん、蔵人くん。女子から雪華さん、牡丹さん、舞さん、栞さん。この7人が春の体育祭の参加選手です」
クラスでの話し合いは、それから応援の仕方や円陣の組み方の話に移っていった。
選手は選手で作戦会議をしていていい、ということになり、おのずと7人が集まる形となった。
「んじゃ、雪華ちゃんがキャプテンってことでいいよな」
開口一番、藤助が言った。
蔵人は相変わらず黙ったままだが、静かに頷いて応えている。
「陸上をやってる牡丹さんの方がいいんじゃないかしら」
言ったのは、舞だった。
宮之 舞――加賀グループ傘下の会社の令嬢で、幼い頃から纏と親交があるらしい。
実際、纏と舞はいつも一緒にいる。
ただ、その関係は帝と藤助のような対等に近いものではなく、明らかに纏が上、舞が下だった。
雪華と同じくらいかそれよりも小柄で、いわゆるツインテール。
幼稚な見た目だ。
とても、運動を得意としているようには見えない。
もっとも、その隣の栞は暗い表情に眼鏡を曇らせているから、体を動かすのはこの中で一番不得手だろうという風に見えた。
牡丹が私を見る。
少し、不安そうな目をしていた。
「人を薦めていいのは、自分でもやる覚悟がある人だけよ」
雪華は舞を見て、それから藤助を見た。
「と言いながら、私は別にやぶさかじゃないんだけど。ちなみに聞くけど、どうして私を推すの?」
「そりゃもう、俺の雪華ちゃんがキャプテンとして活躍するところを見たいからさ」
「誰が『俺の』なのよ……誤解されていくから、よしてよね」
「いやいや、それこそが狙いだったりして。誤解から始まる本当の恋、そう、言うなれば……」
6人が次の言葉を待つ。
「飛び出す新聞?」
さも自信ありげな顔つきの藤助を見て、雪華は力が抜ける感じがした。
「私がキャプテン。異論があればこの場で言って。後で言うのはナシにして」
雪華は静かに、しかし力を込めて言った。
懐かしい言い回しだな、と自分で思った。
これは、前世でよく口にしていた言葉だ。
「構わん」
帝が不愛想に言う。
その隣で、蔵人が無言で頷く。
コミュニケーションがとれるかどうか、心配になる。
その横で、牡丹がこくこくと頷く。
どこか小動物のようなかわいらしさだ。
纏のターゲットになったのは、この容姿も手伝ってのことだろう。
その纏が送り込んだのであろう舞と栞のふたりは、ちらと視線を合わせてから、小さく頷いた。
「んじゃ、決定ってコトで」
ポンと手を合わせてまとめる藤助に向かって、雪華は口を開いた。
「藤助くんが副キャプテンね」
「え、マジ? やっぱり、俺が隣にいた方がやりやすいってコト?」
驚きながらも笑顔を作り、藤助が言う。
「人を推した責任を取りなさいってこと」
「いやぁ、責任を取れだなんて、誤解されちゃいそうで、藤助くん照れちゃうなぁ」
やれやれとため息をひとつついて、雪華は纏を探した。
向こうの話し合いにはまるで興味がないようで、じっとこちらの様子を窺っていたらしい。
自分の手下を二人とも送り込んで何を企んでるのか知らないけど、思い通りにはさせないわ。
雪華は、剣の柄に手をかけたような、臨戦の心持になって不敵に笑った。
作者の成井です。
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それでは、また次のエピソードで。