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第13話 告白

「藤助くん」

「やほ」


 藤助がひらひらと手を振って、帝の横を通り過ぎ、ちょうど二人の間くらいの位置に立った。

 雪華よりも帝のほうが若干上背があり、藤助はそれよりもさらに大きい。

 癖のついた、明るい色の髪を軽く撫でながら、藤助が高いところから口を開く。


「一部始終をのぞき見させてもらったけど、こりゃ、雪華ちゃんの勝ちだわ」

「雪華『ちゃん』?」


 耳慣れない言葉をつけられて、雪華はつい眉間に皺を寄せてしまった。


「ああ、気にしないで。俺、基本的に女の子はちゃんづけで呼ぶことにしてるんだ。だって、世の中の女の子ってのはみんな可愛らしい生き物で、それを呼ぶためには『ちゃん』が一番ふさわしいからさ」


 腕を組み、うんうんと頷きながら藤助が続ける。


「でも、2年生になってからの雪華ちゃんはとりわけ素敵だね。誰に対しても啖呵を切るその感じは、喩えて言うなれば、そうだな……」


 言って目を閉じ、藤助が沈黙する。

 つい、雪華も帝も、彼の次の言葉を待ってしまう。


「え~と……歯磨きをするライオン?」

「……」

「……」


 雪華の頭に、歯ブラシを持って牙を磨こうと苦戦するライオンのイメージが浮かぶ。

 可愛らしいとは思うが、今の「誰に対しても啖呵を」というのとは結びつかない。


「藤助。やはり、お前の喩えは分かりにくいぞ」

「というか、そもそも喩えになってないような……」


 たはは、と頭を掻いて藤助が笑う。

 雪華は、先ほどまでの剣呑な雰囲気が急に緩んだのを感じた。

 場を修めるために狙ってやったのだとしたら、道化を通り越して相当の切れ者だ、と思った。


「やっぱり、変に回りくどく言うと分からなくなるもんだよね」


 うんうんと頷きながら、藤助が雪華の方に向き直った。


「何事もストレートかつシンプルに。雪華ちゃんも、そう思わない?」

「まぁ、それは分かる……かな」


 そう言う雪華の頭に浮かんでいたのは、先ほどのライオンが歯ブラシを放り投げてシマウマに襲い掛かっているシーンだった。

 ごほん、とひとつ咳ばらいをして、藤助が口を開く。


「雪華ちゃん。彼氏いる?」

「それは、有無を聞いてるの? それとも、必要としているかって意味?」

「まずは前者で」

「居ない」

「後者は?」

「要らない」


 雪華が素っ気なく言うと、藤助は「それは残念」と大袈裟に肩を落とした。


「藤助、お前、何を……」

「まぁまぁ。お前さんは、このまま蚊帳の外にいてくれ」


 口を開いた帝を即座に制し、藤助が続ける。


「雪華ちゃん。前者の状態が続いて、後者の答えが変わったら、俺を候補にしてよ」


 表情には変わらず不敵な笑みを浮かべてはいたが、雪華から見て、藤助の目は本気だった。


「俺、雪華ちゃんに惚れちゃったから」


 雪華の視界の端で、纏が目をひんむいて驚いているのが見えた。


「冗談で言ってるわけじゃないぜ。帝に聞いても纏ちゃんに聞いても分かることだけど、俺、女好きを公言してはいるけど、『好きだ』って伝えることはまずないんだ。だから、本気」


 ちらっと帝を見ると、困惑した表情を浮かべていた。

 そして雪華の視線に気づくと、帝は思わず頷いて見せた。

 つまり、藤助の言った言葉は本当だということか。

 藤助は帝を一瞥し、その顔を見て、また笑った。


「なにを意外そうな顔してんだよ。考えてみ。あの纏ちゃんには物怖じせず、コソコソしてる奴にはぴしゃりと言い放ち、金持ちが服着て歩いているようなお前さんにも媚びないんだぜ。これぞ俺の憧れ、まさに『ヒロイン』さ。こんな素敵な子、ほっとく方がどうかしてるだろうが」


 藤助が流々と言葉を紡ぐのを、帝は呆然としたまま黙って聞いていた。


「でも、まぁ……雪華ちゃんを振り向かせるには、認めてもらえるほどの男っぷりを見せにゃならんのだよね?」


 藤助が朗らかな表情のまま、視線を雪華に移す。

 雪華は、隠しきれない当惑をわずかに浮かべながら、慌てて小さく頷く。


「それじゃ、まずはこの迷惑男を、君から引っぺがすところから始めるとしよう。ほれ、帝くん、きたまえ」


 帝よりも藤助の方が、身長はだいぶ高い。

 首の後ろから腕を回して、藤助は帝の体を引きずっていった。


「まず帝くんがフラれて、藤助くんが告ったってこと?」

「でも、真木さんは何も言ってないよね……」


 同じようなささやき声が、廊下のあっちからこっちから耳に入ってくる。

 注目されることに慣れていないわけではなかったが、どうにも居心地が悪い。

 視界の端にいたはずの纏は、いつの間にかどこかにいなくなっていた。

 廊下の人が流れ始め、視線と声を気にしないようにしながら、雪華は校舎を出た。

 外靴にはなんの異変もなく、自転車のタイヤには何も刺さっていなかった。

作者の成井です。

今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

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それでは、また次のエピソードで。

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