次のかたどうぞ
「次のかたどうぞ~」
病院の診察室に、片足を引きずって犬さんがやってきました。
モルモットのモル先生は、勢いよく椅子から飛び降り足元に駆け寄りました。
「どれどれ」
「いたたたっ」
モル先生がずれた眼鏡を直しながら触ると足を引っ込め痛がりました。
「どうしたのですか?」
「フリスビーキャッチの時、着地に失敗したんだ」
「では、湿布を貼っときましょうね、スコットさんお願いね~」
後ろでカルテを持ってた立っている猫の看護師さんにお願いしました。
「はい、先生」
湿布を貼ってもらった犬さんは、元気に走って帰っていきました。
「次のかたどうぞ~」
ズシーン、ズシーン。
部屋全体が揺れました。
ミシミシミシ~。
ドアが開くと壁を少し壊しながら、象さんが入ってきました。
そしてモル先生の前の小さなイスに、
ドーン!と座りました。
「先生~指の間がチクチクして~たまらないんだよ~」
モル先生は象さんの頭が天井につかないか心配で見ていましたが、慌てて椅子から降りると、大きな指の間を眼鏡をずらして原因を探しました。
「あったー!」
そういうと、大きな指の間から象さんにとっては髪の毛ほどのつまようじを取り除きました。
「うわ~すっきりした~ありがと~うございま~す」
象さんは大きな鼻で、スコットさんと握手をし、モル先生には、くるっと鼻を巻き付け上下に振って感謝を伝えました。
それから自分の体のサイズに広げたられたドアから帰っていきました。
「今日はたくさんの患者さんがくるね~、やりがいを感じるよ~」
モル先生はフラフラになりながら、スコットさんに笑顔を向けました。
「頑張ってくださいね、先生」
スコットさんは、くすっと微笑んでモル先生の服の乱れを直しました。
「次のかたどうぞ~」
次は、のっしのっしと緑の大きなワニさんが入ってきました。
「口の中で、ひもが取れなくなったんだ」
「それは大変ですね、、、えっ、先生?」
いつの間にかモル先生は、スコットさんの後ろに隠れていました。
二人に見られたモル先生は大きく息を吐くと、ほっぺたをムニムニしてパンっとひと叩き。 そばにあった忘れ物の杖を持つと、恐る恐るワニさんのそばに近づいていきました。
下から見上げると、金色の瞳がモル先生を見下ろしています。
モル先生は震えながらスコットさんに振り返りました。
「先生~、頑張って~!」
スコットさんは、胸の前で両手を握りしめ祈っています。
それを見たモル先生は、もう一度ワニさんに向き直り、大きく息を吸うと、ワニさんに足を掛けました。
硬く尖った鱗でしたが、お陰で思ったより登りやすく、口まで早くたどり着きました。
「お、大きく口を開けてくれる~」
お願いすると、ワニさんはモル先生が立ったまま入れるほど大きく口を広げました。
モル先生は持ってきた杖をワニさんの口が閉じないように奥に立てると、恐る恐る中に入っていく。
「あった~!」
そういうと奥歯に挟まっていた長いヒモを取り、タイミングを見計らって、
「えいっ」と外し、転がるように降りてきた。
「とれたよ」
ワニさんに向かって高々とひもを差し出すと、
「ありがとう先生!あ~お腹すいた」
先生は、まだドキドキが止まりません。
「先生、よかったら一緒に食事でもどうです?」
ワニさんは、舌なめずりしながらモル先生に伺いました。
「先生、それはやめたほうがいいと思います、、」
スコットさんの助言を聞いて行くのはやめました。
「次のかたどうぞ~」
年老いたヤギが杖をつきながらやってきました。
「どうしたの~」
「最近、目がかすむんじゃよ」
先生は少し考えて。
「じゃー、眼鏡かけてみる~?」
モル先生は、自分かけている眼鏡をかけてあげました。
「ああ、よく見える。ありがとう先生」
そう言うと、お辞儀をして退出しました。
ドアが閉まると、
「よかった~、ぼくが机の上に忘れていた眼鏡を持っていたから、彼を治す事ができたよ~」
「そうですね」
それは、きっと置いていただけです。と、スコットさんは言いかけましたが、胸の奥にしまっておくことにし、代わりに優しくモル先生に声をかけました。
「先生疲れたでしょう。ちょっと休憩しましょうか?」
「そうだね、ちょっと休もうか~」
そういうとモル先生は、椅子を倒して丸まって目をつぶりました。
スコットさんは、軽く会釈をしロビーに向かって歩き出しました。到着すると先程までの患者さん達が集まっていました。
「スコット先生お疲れ様です」
犬さんにそう言われたスコットさんは帽子をとりました。中からは栗色に輝く長い髪が現れました。
「先生方はどう診られました?」
犬先生と象先生とワニ先生は、
「私たちは以前よりずっと良くなっていると思いましたよ」
そう言い、みんな一斉にヤギ先生の方を向きました。
ヤギ先生は戻ってきた眼鏡を拭きながら、
「生き甲斐を見つけて体調も良いみたいですね。このまま続ければ精神も安定していくでしょう」
そう言うとみんな笑顔になりました。
「では、仕事に戻りますね」
スコット先生は帽子をかぶり直し、診察室に戻っていきました。
「では、次のかたどうぞ」
「早くお入りください」
「キョトンとしてないで、あなたですよ、そう、あなた」
おわり