第9話 魔力操作
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かくして、最後の言葉通り翌日も来たハクマ。何か気に入りでもしたのかそれから7ヶ月たった今も毎日欠かさずここに来ている。
「―――もう少しゆっくり流さないとまた制御を失うよ」
何故か私に魔法の指導しながら。
あの失敗のあと、私は前世の知識を活かしながら何が悪かったのか考えた。その結果、魔力のコントロールができてないのではないかという考えに至った。
だが、ならばどうやって魔力をコントロールするのかと言う答えは出なかった。またいきなり魔法を使おうとして身体中に熱湯が入り込むようなあの感覚はもう御免だし、だからといってあれ以外に魔力とやらを引き出す方法もわからない。
そう悶々としていたらいつの間にか一日が過ぎていたらしく、再びハクマがやってきた。今日と同じくユリスのベッドに移動して考え込んでいたらいきなり「何考えてるの?」と声をかけられたのでかなり驚いた。自ら大精霊と名乗っているやつがいるのならこれ幸いとばかりに魔法の使い方を聞いてみたら始まったのがこの授業だ。
曰く、魔法とは魔力というエネルギーを使って現象を起こすことである。
魔法や魔力とは総称なだけで呼び方は別になんでもいいらしい。場所によっては呪いや御業などと呼ばれているそうだ。多少やり方は違えどやってることは同じだそうだ。
曰く、何事も基礎無しには失敗するのみである。前日のあれは準備運動も何もしていない人が急に走り出して足をつったようなものらしい。それは怪我もする。
故に―――……
「魔法を使いたーいって言うならまず基礎だよね」
ということで、その日に魔力の動かし方を習ってそれ以来毎日魔力操作の練習をしている。ハクマのドヤニヤ顔はうざかった。
朝起きたら、ユリスのベッドに移動して顔を眺めながら、魔力操作の練習をするのが最近の日課だ。人が来たときはユリスに抱きついて寝てるふりをするので、他の人は誰かが移動させたのだろうと特に私がベッドを移動していることを気にしていなかった。それにしてもユリスマジ可愛い。
最初は一人では魔力を動かせずハクマの力を借りていたが、今では一人でも魔力操作の練習が可能になっている。身体の中心から暖かいものが溢れるイメージで魔力を動かす。これを行うことで全身にある魔力を通す道? 血管のようなもの? 通るの魔力だし魔管? を丈夫にしていくのだそうだ。私が前したことはようは全然運動していない人が急に身体を動かして全身筋肉痛になったようなものなのだと。身体の中を巡る魔力量の調節までできるようになればその後の魔法の習熟速度がこれをやったときとやってないときで全く違うらしい。
なにもやることなない赤ん坊の身では暇で暇で仕方がなく、意識のある時の殆どはこれを行っている。魔力を動かすというのも存外体力を使うらしく、お昼寝も夜もぐっすり眠って毎日快眠だ。
魔力操作に慣れてきた最近はどれだけ微量の魔力を安定して巡らすことができるかということにはまっている。ドバッと大量に魔力を巡らせるのも楽しいがすぐに疲れる。寝る前にはそうして入眠しているが昼間にそんなことをして夜眠れなくなったり無駄な時間を過ごしたくはない。
ので、昼間は繊細な魔力操作の練習という訳だ。これが存外難しく、少なく動かすと言うなら簡単だが一定となると途端に難易度が跳ね上がる。水差しを傾けて水を流すのを想像してみて欲しい。流す量を限りなく少なくしかし絶え間なく一定に流すのを。水道だったら蛇口を少しひねるだけなので簡単だが、あれを人力で行うと思ったら難易度が跳ね上がるだろう。ああいう感じだ。
自由に行動できたらこんなちまちま作業などすぐ飽きただろうが、いかんせんこの身体では時間が有り余りすぎる。のでどうせだったら極めてやろうじゃねぇか、魔力操作。というノリで今の訓練に至っているわけである。
ちなみに意外と楽しい。
「にしてもよく続けられるねぇ、これ」
つまんなさそうな顔をしながらハクマが言った。本当につまんないのかふわふわ部屋の中を飛びながら指先…前足の先?を眺めている。
……人が頑張ってるのに水を差さないでもらえますかねぇ?
「いやいや、褒めてるんだよ? ボクはこれを一週間以上続けるとは思っていなかったからね。二、三日で音を上げて魔法を教えろと騒ぎ出すものかと」
………
不意を突かれたようだった。いや、心情的な面で言えば突かれていると言える。
本音を言えばこれに飽きなかったかといえば嘘になる。実際、練習を初めて十日程経った頃そう言おうかとも考えた。
だが、思ったのだ。今魔法を使えるようになったところでどうするのかと。
基礎すら半端な段階で、赤ん坊の身体で。ベッドを移動することはできてもこの部屋を出ることはかなわない。そんな状況でなにか事故を起こしてしまったら。
自分ひとりならまだいい。痛いのは嫌だが自業自得だ。だが、他人を巻き込んでしまったら、ユリスを巻き込んでしまったら。殺して、しまったら。ぬくぬくと平和な日本で生きてきた私だ。目の前で人が死ぬという事実にも、私が殺したという事実にも、耐えきれないし責任などとりようもない。
それに―――
「それに?」
首を傾げながら続きを促してくるハクマ。きっと私の考えていることをわかってやっているのだろう。質が悪い。
私は誰かに責められたくない。良い子でいたい。悪口を言われたくない。嫌われたくない。自発的になにかをやってそれを失敗したらそれは自分の責任だ。だが、人に言われたことだけをやっていれば、ある程度のレベルをキープしていれば、私は悪い子じゃない。良い子にはなれなくても、普通の、平凡な子だ。
……責任を自分で負うより誰かに押し付けたいと考えてしまう、薄汚い、私の性根。
だから、私は自分で責任を負わなきゃいけないようなものは石橋を叩きまくって絶対に安全な保険と保証をかけて歩きたい。
「臆病だねぇ、そんなに叩きすぎたら渡れたはずの橋が壊れてしまうかもしれないよ?」
叩いて壊れるくらいの橋なら渡れなくて結構。渡れたはずだとしても、壊れる可能性があるなら渡りたくない。
あと一つ付け加えるならば、せっかくの二度目の人生なのだし、適当に物事をこなしてきた前世よりも何事にも真剣に打ち込んでみたい。
と、いう理由はどうかな?
強張っていた顔をへにゃりと崩しながらハクマに向かって小首をかしげると、ハクマは少し驚いたような顔をしていた。
「驚いた。もう少し誤魔化すかと思っていたよ」
隠したところで心が読める相手にそんな事をしたところで意味がないだろうに。
「そうでもないよ、相手の考えていること全部がわかるわけじゃない。誰かに聞かれてもいいような垂れ流しの声だけさ」
つまり私は垂れ流しの考えしか持ってないと。
喧嘩売ってんのか、てめぇという気持ちを込めて半目になってハクマを見ると何が面白いのかくっくっと笑うように足先を口元に持ってきていた。そして徐ろに近づいてくる。
「最初はね。おかしな赤ん坊だなーって近づいてみたら垂れ流しの本音がぼろぼろ聴こえてきたとも。けど今ではボクに対して伝えたいと君が思った考え以外はほとんど聞こえないよ」
こういった心の制御って難しいんだけど、成長したね、と頭を撫でる。
いつもは小憎たらしくニヤニヤとした嘲笑を浮かべるハクマが突然の飴。驚いて呆然と固まってしまう私を尻目にハクマは続ける。
「魔力操作の方もだよ。もともとの筋も良かったんだろうね。かなり上達してるよ。初心者向けの魔法を少し練習するならまず失敗なんてしないだろうね。やってみるかい?」
ウインクをしながら顔を覗き込むハクマ。良い雰囲気だったのに。あれを保てないのだろうか。それに答えなんてわかりきっているだろうに。
……やらないよ。こうなったら、同年代が習うまでかハクマが尊敬できるぐらいのレベルになるまで魔力操作が上達するまでこれを極める。
「言うね。ならボクを驚かせれるくらいまで頑張ってよ」
ハッと鼻で笑って、いつものハクマの雰囲気に戻る。
甞められたままではいたくない。限界まで頑張ってやる。
読んてくださった方ありがとうございます。
これからも頑張るので応援していただけると嬉しいです。
また、作者の心が死ぬので引火、炎上などはやめてほしいですm(_ _;)m