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いつもお互いに煽り煽られイキりイキられ罵倒しあう仲のネトゲ仲間と初のオフ会をしてみたら、そのネトゲ仲間は品行方正で知られる学園一の美人先輩だった話 【短編版】

作者: tama

連載版もありますので良ければこちらもどうぞ:

https://ncode.syosetu.com/n5292ia/

深夜2時半。 俺こと神木玄人(かみき くろと)は自分の部屋で奇声を上げていた。


「は、はぁ!? 意味わからんって!!」

『か、か、かっすぅ~ww クロちゃんクソ雑魚過ぎわろたw』

「いや待て待て待てって!! それ絶対にハメだって!!」

『全然違うよ~! これは当て投げっていうちゃんとしたテクニックだからさぁ……え!? も、もしかしてクロちゃん対応出来ないの~?ww』

「いや無理無理! マジで意味わからんって!!」


―― You Lose! ――


『はいアタシの勝ち! 何で負けたか明日までに考えといてくださいww』

「ぐ、ぐぎぎっ……!」


その日、俺はネットフレンドの“ゴリ林さん”と通話をしながら格ゲーのオンライン対戦をしていた。 結果はゴリさんにボコボコにされるという圧倒的な惨敗で終わった。 あまりの悔しさに俺は装着していたヘッドセットの有線部分を噛みつきそうになった。


「いやゴリさん強すぎっしょ! そんなに強いなら先に言ってくださいよ! 何が“アタシ格ゲー弱いからなぁ”ですか! 嘘ですやん!!」

『いやだってクロちゃんがさぁ、“新作の格ゲー速攻で理解しましたわ”って言うからさぁ。 そんなこと言われたらさぁ……アタシにわからしてもらいたくなるじゃん?』

「汚いって! 本当に性根が腐ってますわ! そんなん初心者プレイヤーが普段よく言う戯言ですやん!」


そんなわけで深夜に俺が奇声を上げて発狂していた理由は、新作の格ゲーでゴリさんに何度もボコボコにされていたからだった……この恨み……絶対にいつかはらす!


『いやでもごめん、流石に今のは大人げなかったね、違うゲームやろっか?』

「はぁ!? 何言ってるんすか、勝ち逃げとか絶対に許さないっすよ! それにそんな殊勝な事言うゴリさん気持ち悪いっすわ! いつも通りずっと調子乗っといてください、そしたら俺も心置きなく叩き潰せるんでね!」

『き、気持ち悪いってクロちゃん酷くない? これでもアタシ華のJKなんですけど?』

「いやゴリさん残念な話なんすけど、自分の事を華のJKとか言っちゃう女子高生ってあまりいないと思いますよ」

『そんな馬鹿な!?』


ということで今通話をしている相手はゴリ林さん(通称ゴリさん)という女性だ。 今から2年くらい前に、トイッターの“#FPSフレンド募集”のタグでフレンドになった人だ。 ゴリさんとフレンドになってから色々とあったけど、今ではほぼ毎日通話をしながら何かしらのゲームを一緒にやるような仲になった。 ただし5分に1回のペースでお互いに煽り煽られ、イキりイキられ、罵倒しあうような仲でもあるんだけど……


そんな煽りあう系フレンドのゴリさんだけど、フレンドになった当初は至って普通の真面目そうな女子だった。 勝てば「やった!」と素直に喜び、負けたら「負けちゃった……」と悲しそうにする、本当に普通の女子だった。


それがいつの間にか勝てば「かっすぅ~w」と煽り、負ければ「殺すぞ」「はいはいクソゲー乙」が口癖の、常にイキリ散らかす煽り系女子になってしまった……って、ちょっと前のゴリさんにそれを直接伝えたら「おめぇもだろ、殺すぞタコ」って言われた。

まぁ口が悪くなるのは対人ゲーをやり続けてる人間の宿命みたいなものだから仕方ないということで。


それと、実はゴリさんは俺よりも年上なので、ゴリさんと話す時は一応敬語で話すようにしている。

俺は都内在住の高校二年なのに対して、ゴリさんは関東に住んでる高生三年の女子との事なので、一応ゴリさんの方が年上なのだ。 まぁ熱くなったら年上年下関係無くお互いに煽り罵倒しあうんだけど。


あとこれもゴリさんはよく戯言で言ってるんだけど、“私はイケてる都会のピチピチ美人JK(本人談でしかないので信憑性0)”らしい。 まぁネットの世界だから俺は話半分にしか聞いてないけど。


「でもあざす、最初にボコボコにしてくれた方が俺は燃えるタイプなんでね! だから必ず追いついてみせますよ! いつかゴリさんを叩き潰すんで覚悟しといてください!」

『ははっ、やっぱりクロちゃんは良いよねぇ、向上心の化物だ! いつでも挑戦待ってるよ。 あ、何なら……アタシに勝ったら何かご褒美でもあげようか?』

「え!? 何くれるんすか?」

『じゃあ……いつか10先でアタシに勝てたら、ご褒美としてクロちゃんの彼女にでもなってあげようか?』

「あー、チェンジで」

『おいこら待てタコ、なんで美人JKのアタシが振られなきゃいけないんだよ』

「うーん……ゴリさんのその性悪な性格が治ったら惚れようか考えますわ」

『ははっ、そりゃ一生無理だねぇ』

「ははは、そりゃそうだ」


そう言って俺とゴリさんはお互いに笑いあった。


『んじゃまぁ、アタシが初めて振られた記念にもう一勝負しようぜぃ!』

「いいっすね! やりましょう!」


こうして今日は夜が明けるまでゴリさんとゲームをやり続けていった。 明日も学校なのにね……


----


次の日。 俺は圧倒的な寝不足のおかげで死にかけていた。


―― キーンコーンカーンコーン ――


もう限界だと思ったその時、ちょうど3時限目の終了チャイムが流れた。


「じゃあ今日の授業はここまで。 日直、号令」

「起立、礼――」


日直の号令が終わり、先生は教室から出て行った。 ここから15分間の休憩時間が始まる。


「ねむ……」


俺は大きな欠伸をしながら自分の席から立ち上がった。 すると後ろの席に座っている友人が俺に話しかけてきた。


「ん? どっか行くの?」

「ちょっと自販機までな。 眠気覚ましになりそうなの買ってくるわ」

「あぁ、さっきから凄い眠たそうだもんね。 行ってらっしゃいー」


俺は教室から出て行った。 自販機は教室からすぐ近くにある購買部の隣に設置されているので、すぐに到着した。 俺はポケットからサイフを取り出した。


「小銭小銭……とっ」


―― チャリンリャリン…… ――


ポケットからサイフを取り出した時、硬貨がサイフから数枚こぼれ落ちてしまった。 硬貨は地面に落ちて、そのままコロコロと転がっていき……ポトっと近くにいた女子生徒の足元で止まった。 どうやら購買部で買い物をしていた女子生徒がいたようだ。


「よっと……はい、これ」


その女子生徒はしゃがんで硬貨を拾い上げ、そしてそれを俺に渡してくれた。


「あ、す、すいませ……あっ」


俺は硬貨を受け取る時、その女子生徒の顔を確認した。 それは――


「さ、七種先輩……!」

「あはは。 凄い眠たそうだね、神木君」


目の前にいた女子生徒は七種千紗子(さえぐさ ちさこ)だった。 俺の通っている高校で一番の美人と名高い三年生の先輩だ。 ちなみに去年の体育祭に開催されたミスコンではぶっちぎりの1位を取っていた。


七種先輩の見た目は黒いサラサラのロングヘアでスレンダー体型、さらに成績優秀かつ品行方正で誰に対しても優しく、そして柔和な笑みを絶やす事のないその姿はまさに天使そのものだった。


俺達後輩はそんな七種先輩の事を尊敬の念を込めて“立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は千紗子様”と呼んでいたりもする。


「す、すいません、みっともない所を見せちゃって……」

「ううん。 神木君は昨日夜更かしでもしちゃったのかな?」


ちなみに七種先輩が何で俺の事を知っているのかというと、七種先輩と俺は現生徒会に所属しているからだ。 七種先輩は書記で、俺は会計で生徒会に参加している。


「え、えぇっと、実は友達とずっとゲームをしてて……」

「あーそれで夜更かししちゃったんだね。 でも熱中出来るものがあるのは良い事だよ」

「あ、あはは…… あ、せ、先輩はゲームとかはしたりしますか?」


偶然だけどせっかく七種先輩と仲良く出来るチャンスだし、俺は他愛無い話をして七種先輩を引き留めた。


「うーん……私もゲームは少しだけやるけど、全然上手くならないんだよねー。 だからゲーム好きなんだけどさ、友達とやってもすぐに負けちゃうんだ、あはは。 神木君はゲーム得意なの?」

「え? えぇまぁ一応得意な方です! 昨日も友達とずっと対戦ゲームやってたんですけど、ボコボコにしてやりましたよ」


嘘です。 朝までボコボコにされ続けたのは俺の方です。


「へぇ、そうなんだ、それは凄いね! でも駄目だよ、お友達なら例えゲームでもボコボコになんてしちゃ駄目だよ。 せっかくのお友達なんだから仲良くしなきゃね」

「あ、は、はい……そうですよね」


嘘をついた挙句、七種先輩には叱られてしまった。 でも言ってる事は正しい。 七種先輩には是非とも今の言葉をゴリさんにぶつけてやってほしい。


「あ、ごめんね。 私ちょっと同級生に呼び出されてたからもう行くね」

「あ、そ、そうなんですね。 す、すいません、俺の方こそ足止めしちゃって」

「ううん、大丈夫だよ。 これからはお金落とさないようにね。 それじゃあね」

「は、はい、お疲れさまです!」


そう言って俺は七種先輩とはそこで別れた。 七種先輩と話が出来ただけで眠気は完全に吹っ飛んだ。 今日は良い一日になりそうだと思いながら、俺は自分の教室へと戻っていった。


----


その日の夜。


「誰かいるかな?」


俺はパソコンに入っている通話アプリを立ち上げて、オンライン状態になっているフレンドを確認した。 するとゴリさんがオンライン状態になっていたので、早速チャットを飛ばした。


—暇だったらLPEXやりませんか?—

—いいよ、通話いける?—

—いつでもいけます!—


“LPEX”とは、巷で高い人気を誇っている3人組のFPSゲームであり、ゴリさんと“#FPSフレンド募集”のタグで知り合うきっかけとなったゲームでもある。


数秒後、ゴリさんから個別通話の着信が届いたのでそれを開いた。


「おつかれっすー」

『ういーっす。 今日は他にインしてる人いないね。 どする? テキトーに野良入れてやる?』

「そっすね、そんな感じでいきましょう!」

『ん、りょかい』


早速ゴリさんからゲームプレイの招待が届いた。 俺はそれを受け取ってゲームを開始した。 最初の数時間はゲームに集中していたけど、次第にお互いの集中力が切れていき、それ以降はまったりと雑談をしながらゲームをした。


『――あ、そういえばさ、クロちゃん』

「ん? どしたんすか?」

『クロちゃんってさ、デートとかしたことある?』

「あるあるめっちゃありますよ、もう毎日のようにしてます」

『嘘乙』

「嘘じゃないし!」

『へぇ? じゃあクロちゃんは彼女の1人でもようやく作れたって事なんですかねぇ……?』

「あ、ゴリさん、注射器余ってたらください」

『無視すんなし! ほら、注射器落としたよー』

「どもども、あざすー」


いや毎日一緒にゴリさんと通話しながらゲームしてる時点で彼女なんて出来てないし、デートだってしてないのバレバレなんだけどさ。


「でも、いきなりデートとかどうしたんですか? ゴリさん彼氏でも出来たんすか?」

『いやそうじゃないんだけどさ。 アタシって前にも言ったけど高三じゃん? だから大学受験が控えてるわけなんだけどさ……』

「はい」

『んでさ、毎日勉強しながら思うわけ。 あ、あれ? アタシの残りの高校生活ってもう青春するタイミング無くね? ってさ』

「はい」

『それでさ、じゃあ今までの高校生活……アタシは一体何してたんだろうって思ったわけ』

「はい」

『そしたらさ、アタシの高校生活ってさ……どっかのクソ生意気なキルパク野郎と喧嘩しながらゲームをしてた記憶しかないわけ』

「……はい?」

『だからさ、アタシ気になったわけ。 そのクソ生意気な野郎がもし……リアルでは彼女持ちでデートしまくりのヤリチン野郎で、実は青春しまくりの人生を送ってたらさぁ……ふふふ、どうやってぶち殺してやろうかなぁ? ……って考えてたわけ』

「物騒な事考えてますやん!」

『でも毎日話してて思うけど、やっぱりクロちゃんって女の子にモテる要素無いから安心するわ。 これからもそのままのクロちゃんでいてね』

「ちょくちょく俺ディスるのやめてもらえますか?」


結局今日も最終的には俺がディスられる方向の話になっていた。この脳筋ゴリラ許せへん。


「でも意外っすね。 ゴリさんって青春したい願望とかあったんすか?」

『あるに決まってるじゃん! アタシだって清楚で可憐な乙女なんだけど?』

「嘘乙」

『あ゛?』

「……い、いや何でもないっす。 でもそれなら何で彼氏とか作らなかったんすか? 今までも何度か“今日告白されたわー”って俺にマウント取ってきてたじゃないですか」

『あー……うん、まぁそんな時もあったけどさ』

「その人達とはどうだったんですか? 結局お付き合いはしなかったんすか?」


そういうとゴリさんは少し気まずそうにこう言ってきた。


『……いやだってさ、彼氏作って外で遊ぶよりもさ、家に籠ってLPEXしてる方がアタシにとっては至高の時間だったんだもん』

「……あはは、そのゲーマー魂が抜けない限りゴリさんには彼氏作るの無理じゃないっすか?」

『ぐぬぬ……! いや、でもさぁ、仕方ないじゃん。 テキトーに彼氏作って外で遊ぶよりも……クロちゃんとこうやってしょうもない話しながらゲームしてる方が楽しいに決まってるんだからさ!』

「な、な、なんすかいきなり!? 唐突ゴリさんがデレるとか気持ち悪いんですけど」

『んー? そっちこそ声裏返ったけどどうしたん? ふふふ、もしかしてアタシに惚れたのかい?』

「キルパクしてもガチギレしないようになってくれたら一瞬で惚れます」

『あはは、それは100%無理だ!』


そう言ってゴリさんは大きな声で笑った。


『うーん、でもなぁ……制服デートとかは1回位はしてみたかったなぁ。 それだけが高校生活の心残りになりそうかも』

「あー、確かに高校卒業しちゃったら、もう学校の制服を着る事なんて滅多になさそうですもんね」

『そうなんだよねぇ。 だからしょうがないからさ……イケメンな後輩彼氏との下校デートを授業中に妄想してたんだけどさ……なんだか虚しくなっちゃって』

「ちょ、ちょい待って一体何やってるんですかゴリさん!」

『え? いやなんかさぁ、勉強しなきゃなって思ってたらだんだんと現実逃避に妄想とかしちゃわない?』

「ま、まぁ確かに、彼女が出来たらなぁ……っていう妄想は男友達としたりしますけど」

『でしょー? アタシ達女子だってそういう妄想はするもんよ。 あ、じゃあさ、クロちゃんが初めてデートをするとしてさ、“どんな事”したいとか当然妄想したことあるでしょ? どんな事したいか教えてよ!』

「“どんな子と”したいか……ですか?」

『そうそう!』


俺は腕を組んで少しだけ悩み……そして悩んだ末に俺はこう答えた。


「うーんあれですかね。 こう、なんというか……黒髪の三つ編みおさげでメガネをかけた、図書委員長とか文学少女みたいな感じの女の子がいいっすねー」



『……は?』

「え?」



『……あ、あぁ! そう言うことね! ぷ、ぷぷ、ぷはははっ!』


一瞬の沈黙が流れたあと、突然ゴリさんが笑いだした。


『ぶっ! ぷぷ、ぷはははは! クロちゃんそれ、違うって! あははは! 急にクロちゃんが自分の性癖を語りだしたのかと思ってビックリしたじゃん!』

「え!?」

『しかも割と古風というか、アニメの見すぎというか、クロちゃんの意外な性癖を覗いてしまった気がするよ』

「え? え? ど、どういうことっすか?」


俺はまだ自分の間違いに気が付かなかった。ゴリさんは笑い続けながらこう言ってきた。


『あはは! いやあのね、どんな女子とデートしたいか? じゃなくて、どんなデートがしたいかをアタシは聞きたかったんだよ。 誰もクロちゃんの性癖なんて聞いてないって! あははは!』

「え?……あっ!?」

『そもそもアタシは制服で下校デートがしたいって言ってるのに、何でクロちゃんは三つ編みメガネの図書委員ちゃんと付き合いたいっていう話をしてるん? ぷははは!』


そう言われて、俺の間違いにようやく気が付く。


「そ、そういうことか……って、ちょっと待って俺めっちゃ恥ずかしいんですけど!!」

『ぷはは! か、可哀そうだから、いつかクロちゃんと会う事があったら……うん、そん時はしょうがないなぁ! 三つ編にメガネをかけた文学少女スタイルで会ってあげるわ、あはは!』

「よ、余計なお世話だい!」


こうして今日も夜は更けていくのであった。


----


それから数日後。

今は昼休み中だ。 今日は生徒会の打ち合わせがあるので、俺は生徒会室でご飯を食べていた。 そして俺の隣の椅子には七種先輩が座っていた。 先輩も打ち合わせ前に生徒会室に来てお弁当を食べていた。


今生徒会室にいるのは俺と七種先輩の2人だけなので、俺にとってはかなり幸せな時間だ。 まぁ憧れの先輩と2人きりなんてメチャクチャ緊張するから上手く喋れないのだけど……


「はぁ……」

「ど、どうしました先輩? 大きなため息でしたよ?」

「あ、ごめんね、うるさかった?」

「い、いえ、そんなことはないです。 でも一体どうしたんですか?」


憧れの先輩がとても大きなため息をついていたので、俺は気になって尋ねてみた。


「いや実はね……ここ最近、告白が続いてるんだ」

「ぶはっ!?」


そんな憧れの先輩からまさかの回答が飛んできて俺は弁当のご飯を噴き出しそうになった。


「だ、大丈夫?」

「ごほっごほっ! す、すいません……」


七種先輩は心配そうに俺の背中をさすってくれた。 他の男子に見られたらとてもヤバイ光景だと思う。 でも今はそんな事考えてる場合じゃない。 もっとヤバイ発言が飛んできたのだから。


「ふ、ふぅ……も、もう大丈夫です。 すいません先輩」

「そ、そう? それならよかったけど」


俺は呼吸を整えて、先ほどの七種先輩の発言をもう一度聞き直した。


「い、いえ、そ、それで……? こ、告白って……? だ、誰かとお付き合いされる感じなんですか……?」

「え? あ、あぁいや、告白は告白なんだけど、付き合ってほしいっていう告白じゃないんだ。 告白というよりも報告? みたいな感じだね」

「え? 報告?」

「うん。 ほら、私ってもう三年生だし、近い内に卒業でしょ? だから、最後の思いで作りって訳じゃないんだろうけど、“一年の頃から好きでした、お互いに受験頑張りましょう!” っていう……なんだか報告じみた告白がずっと続いてるんだ」

「そ、そうなんですか、なるほど」


七種先輩は正直メチャクチャモテる。 去年、体育祭のミスコンで1位を取った時は尋常じゃない数の告白を受けていたのを俺も遠くから見ていたし。


「という事で最近は記念受験みたいな軽いノリで私に告白してくる男子がちょっと多くてね。 もっと本気で告白してくれれば私も嬉しいんだけどなぁ……」

「え? で、でも……本気で告白したとしても、七種先輩はお付き合いはされないんですよね?」


先輩の七不思議の1つにこんなものがあった。


“七種千紗子は決して誰とも付き合わない”


これは七種先輩が入学してから今現在まで、どんな告白も受け入れた事が1度も無い、という逸話から生まれたものだ。 だから軽い感じの告白ばかりになってしまうのも何となくわかる。 七種先輩を攻略する事は不可能なんだと、男連中は全員そう言っているんだから。 当然俺もそうだと思っているし。


「え、なんで? そんなこと無いよ?」

「……え……?」


だから、七種先輩のその発言はかなり衝撃的すぎた。


「ど、どうしたの? 神木君、急に固まっちゃったけど」

「い、いやちょっと待ってください、頭がショートしそうで……! あ、ち、ちなみになんですけど、告白を受け入れる条件とかはあるんですか?」

「うん、それはもちろんあるよ。 条件は “私と趣味が合う人!” それだけかな」

「趣味が合う人ですか? あ、あれ? そ、そういえば七種先輩の趣味って……一体何なんですか?」

「ふふ、それを簡単に教えちゃったら条件を付ける意味が無いでしょう?」


七種先輩は柔和で優しい笑みを俺に向けながら、こう語りかけてきた。


「まずはお友達から初めて、私の事を色々とゆっくり知ってもらってさ。 それで趣味が合ってたら、そこから二人で遊ぶようになっていって、そしてゆくゆくはお付き合いを……っていうのが私の理想なんだ。 だから私の顔だけで告白してくる人はちょっとね」

「な、なるほど……」

「まぁそれに、私って趣味とかに使う時間の方が多いからさ。 だから、彼氏を作って遊ぶよりも、趣味のために時間をつぎ込みたい! って思っちゃうタイプなんだよね、へへ」


七種先輩はそう言うと少し照れくさそうに笑った。 やっぱり美人は恥ずかしそうな顔をしても美人だなと思った。 それと――


「……はは」

「うん? どうしたの?」


それと、なんか似たような話を少し前にゴリさんとしたなぁ……って思ったら、少しだけ笑ってしまった。


「あ、い、いえ。 俺の友達も似たような事を前に言ってたなぁって思い出しただけです」

「へぇ、そうなんだ! ふふふ、その神木君のお友達とはなんだか話が合いそうだなぁ」

「うーん、どうですかね、あの人と先輩は性格が完全に真逆ですし」

「え、そうなの? 私とは完全に真逆の性格をしてるなんて……それはそれで面白そうなお友達だね、ふふ」


そんな感じで、今日のお昼休みは七種先輩と話しながら楽しいひと時を過ごすことが出来た。


----


その日の夜。


『ん? クロちゃん何かあった?』

「え? どうしてですか?」


その日もいつも通りゴリさんと通話をしながらゲームをしていた。


『うーん、なんというか……いつもより機嫌良さそうな感じがするなって』

「そ、そうっすか? というか何でゴリさんにそんな事がわかるんですか?」

『いやぁ、毎日クロちゃんと話てるからさ、何となくだけどクロちゃんの感情の機微はわかるんだよね』

「え、何それすごい、ゴリさん俺マニアじゃないっすか!」

『何それ普通に要らない称号なんだけど』


ゴリさんに送ったマニア称号は要らないと一瞬で捨てられた。


『んで? 何か良い事でもあったの?』

「う、うーん……あっ! そういえば確かに、今日は良い事はありましたわ」

『でしょー、やっぱりね。 それで? 良い事って何よ?』

「実は今日なんですけど、尊敬している人と一緒にお昼ご飯を食べたんですよ」

『え!? なになに!? もしかしてクロちゃんの好きな人?』

「い、いや……好きな人っていうわけではないんですけど、まぁ気になってる先輩というか」

『へぇそうなんだ、なるほどなるほど学校の先輩なんだね! それで? その先輩ってどんな人なの?』

「えぇっと……まず見た目はメチャクチャ美人の先輩で――」

『あーそりゃクロちゃんには無理だ諦めよう』

「酷すぎるっ!」


ゴリさんは速攻で諦めろと勧告してきた。


「いや、まぁでも……ぶっちゃけその先輩と話す時いつも緊張しちゃって、上手く喋れないんですよね」

『え、何それ? その先輩があまりにも美人すぎて緊張するってこと?』

「まぁ、恥ずかしながらそうです。 その先輩去年のミスコンでぶっちぎりの1位を取るくらいには美人ですからね」

『へぇ、そりゃあ凄いね。 でもさぁ、美人相手に緊張して上手く喋れなくなるってクロちゃん小学生じゃないだからさぁ……』

「グゥの音も出ないっす……」

『はぁ。 そんな感じだと、もしクロちゃんがアタシの顔見ちゃったらきっと緊張して何も喋れなくなるかもね、くすくす』

「ははは寝言は寝て言ってほしいっす」

『ははは殺すぞタコ助♪』


今日もお互いに煽り散らかす時間が始まった。


『いやあのさぁ、クロちゃん。 これ前々から言ってるけど、アタシもそれなりに顔良いJKだからね?』

「例えゴリさんが超絶美人な女性だったとしても内面が圧倒的にひど――」

『あ゛ぁ゛ん゛!?』

「い、いえ何でもナイデス……」


ゴリさんの圧が半端なかったので途中で言うのをやめた。


「で、でも、美人とか綺麗とかの誉め言葉って、自分で言う事じゃないっすよ。 それなのにゴリさんは自分で自分の事を綺麗だとか美人だって自画自賛してるからちっとも信じれないんすよ。 ってか、なんでそこまで自分に自信を持てるんすか?」

『え? だって……アタシも取った事あるもん』

「取ったって? 何を?」

『高校で開催されたミスコンの1位』



「……え゛っ゛?」



あまりにもビックリしすぎて一瞬意識が飛んでしまった。 おまけに変な声で返事をしてしまった。


『おいこら今の反応アタシに対して失礼じゃない?』

「いやだって絶対に嘘でしょ!!」

『んなしょうもない嘘つかんて。 なんなら、ミスコンの時の写真送ってあげてもいいよ? クロちゃんは悪用するような人じゃないのわかってるし』

「う゛ぇ゛っ゛!?」


ゴリさんの写真!? しょ、正直めっちゃ気になる……気になるけど……!


「ぐぎぎ……い、いや……やめておぎまず……!」

『あら要らないん? 別に遠慮しなくてもいいのに』

「いやでも……個人情報を電子データでやり取りするのは意図せずとも流出してしまう危険だってありますし……そういうのは送っちゃ駄目なんです!」

『……はは、確かにその通りだね。 うん、じゃあ送るのはやめておこうか』


俺がそう言うと、ゴリさんは納得した様子だった。


『ふふ、クロちゃんは今時には珍しい硬派な男子だよね』

「それ褒めてるんすか?」

『褒めてるよ、めっちゃ褒めてる』


まぁそういうならいいけど。


『まぁでも……もうクロちゃんとの付き合いは二年以上経つし、もうそろそろオフ会とかしてみたいよね』

「確かにそうっすね。 ゴリさんとの付き合いこんなに長いのに、ゴリさんとはまだ一度もオフ会してませんよね」

『……よしっ! じゃあやるか! オフ会!』


ゴリさんによるオフ会の提案が急に始まった。


「と、唐突っすね!?」

『いやぁ、こういうの思い立ったが吉日っていうしね! それにもうすぐしたら本格的に受験勉強をしなきゃいけなくなるから、遊ぶ時間も無くなるだろうしね。 だからそうなる前にオフ会をしたいなって思ってたんだ』

「確かにゴリさんは受験生ですもんね。 そう思うと何だか少し寂しくなりますわ……」

『大丈夫、すぐに志望校合格してゲーム三昧に戻る予定だから安心しとき! それで、クロちゃんはこの土日はどっちか空いてる?』

「えーっと、土曜なら空いてますね」

『了解、じゃあ土曜日に決行しよう! クロちゃんは何処か行きたい所ある?』

「行きたい所ですか? うーん……」


行きたい場所について俺は考えてみた。 俺とゴリさんの繋がりと言えばゲームとかパソコン関係かな。 あ、そういえば俺……あそこに行った事一度もないな。


「あっ! じゃあ秋葉原に行ってみたいっす!」

『秋葉原? いいけど、クロちゃん何か見たい物でもあるの?』

「いや実は秋葉原に行った事一度もないんで、これを機に行ってみたいなって。 んで、ついでに色々とパソコン関連で買い物もしたいなぁって」

『そかそか。 そういえばアタシも買いたい物あるし、それなら秋葉原集合にしようか!』

「了解っす!」


とんとん拍子でオフ会の詳細が決まっていった。


「じゃあ今週の土曜日楽しみにしてますね!」

『アタシも楽しみにしてるよ! 緊張して喋れなくならないでねぇ、くすくす』

「いや絶対にならんから!」

『どうだろうねぇ……あ、そういえば! ふふっ! クロちゃんのためにちゃんと“約束”を果たしてあげるからね!』

「や、約束って……? 何かしてましたっけ?」

『ふふふ、当日を楽しみにしとき! んじゃあ今日はもう寝るね、乙ー』

「あ、はい、了解っす。 お疲れさまですー」


約束って何のことだろう? まぁ忘れてるって事はそこまで大した事では無いだろう。 いやそんな事よりも……今の俺には新しい問題が1つ生まれた所だった。 それは――


「やべぇ……来て行く服……どうしよう……」


----


数日後の金曜日。

今日も昼休みに生徒会の打ち合わせがあるため、俺は早めに生徒会室に来て昼ごはんを食べていた。 今、生徒会室にいるのは俺一人だけだった。


「うーん、どうしたもんか」


俺はスマホで「男性 服装 オシャレ」と検索をかけて表示された画面を眺めていた。 俺は明日の服装について未だに悩んでいた。


いや、相手はゴリさんだし、気を遣うような間柄の相手ではないけど。 でも俺、女子と二人きりで遊ぶのって今回が生まれて初めてだし……ちゃんとオシャレをした方がいいのか? い、いや……うーん……


「こんにちはーってあれ? 神木君だけ?」

「え? あ、七種先輩、お疲れさまです。 は、はい、俺だけです」


俺がうーん……と悩んでいると、ちょうど七種先輩が生徒会室に入ってきた。


「うん? 神木君どしたの? 眉間にしわが凄い寄ってるよ?」

「え? あ、本当だ……」


俺は自分の眉間に手を当てて確認してみた。 確かにしわが凄い事になっていた。


「ふふ、そんな眉間にしわを寄せながらスマホを凝視しちゃってさ……一体どんなえっちぃ画像を見てるんだい? ちょっとお姉さんに見せてみよっか」

「えっあっちょ!?」


そう言うと七種先輩は俺のスマホ画面を覗き込んできた。


「なになに、今時男子のイケてるファッション特集……ってなに? 神木君、デートでもするの?」

「え゛!? い、いや違うんです!! こ、これは、その……え、えぇっと……女子友達と2人きりで出かける事になったんですけど……」


俺が観念してそう言うと、七種先輩は目を輝かせてこちらを見てきた。


「ほうほう! それは青春だね! その子は神木君の彼女なの? それとも好きな人とか?」

「い、いや本当にそういうのじゃなくて! な、なんというか悪友というか腐れ縁というか……本当にただの友達なんです!」

「ふぅん、そうなんだ? でもさ、じゃあデートじゃないのになんでファッションサイトなんて見てるの?」

「そ、それはその……実は女子と2人きりで出かけるのって初めてなんです。 だ、だから、こういう時の服装ってどうすればいいのかなって思って調べてました……」


先輩にこんな事を言うのメチャクチャ恥ずかしいんだけど……

でも先輩に嘘つくと後々しっぺ返しを食らう事が最近あったから、俺は先輩には素直に言う事にした。


「へぇ、女子と2人きりのお出かけは初めてなんだね。 なるほどなるほど! じゃあさ……私がアドバイスしてあげるよ。 スマホ貸して貸して!」

「え!? そ、そんな! わ、悪いっすよ」

「何言ってるの。 可愛い後輩の悩み事だよ? それを助けてあげるのが優しい先輩の役目だからね。 ふぅん、どれどれ……」


そう言うと、七種先輩は俺のスマホを拝借し、画面を上下にスクロールしていった。


「なるほどなるほど……うーん、でも神木君はここのサイトに乗ってるような、いかにも! ……って感じのファッションはまだ似合わないんじゃないかな? もうちょい大人になったら似合うかもだけど」

「そ、そうですよね。 まぁ、自分もそんな気はしてましたけど」

「それよりも、神木君はもっとシンプルな服装の方が私は似合うと思うよ。 ほら、ちょっと前の生徒会の打ち上げでさ、休みの日に皆で集まった時の神木君の服装とかさ」

「あぁ、懐かしいですね。 って、あれ普通のデニムにジャケット羽織っただけなんですけど!?」

「はは。 まぁでも、普通に友達と遊びに行くだけなんでしょ? ならそれこそシンプルな方がいいと思うよ。 それに……」

「それに……?」

「私はチャライ服装な男子よりも……シンプルな服装を着てる男子の方が好きだよ、ふふ」

「なっ!?」


そういうと七種先輩は柔和な笑みを浮かべながら俺の事を見てきた。


「ふふ、でもその友達の女の子が羨ましいなぁ」

「え? な、何でですか?」

「だってさ、別にデートでも無いのにさ、相手の子のために服装を一生懸命考えてあげるなんて……神木君はその子の事がよっぽど好きなんだね!」

「え゛っ゛!? い、いや本当に違うんですって! だ、第一俺の好きな人って――」


よく考えたらこの状況俺にとって最悪じゃないか。 好きな先輩相手に大きな誤解を与えてしまっているんだから!


「大丈夫大丈夫! 私だって同じなんだよ? 気になる人とか、好きな人と出かける時はさ、私だってその人の事を一生懸命考えて服装とか髪型を選ぶからね。 こういう髪型が好きかなぁ? こういう服装は好きかなぁ? ってね」

「え!? せ、先輩……で、デートとかしたこと、あ、あるんすか……?」

「ふふふ、乙女にそういう事を聞いちゃ駄目だぞ」


肝心な所の答えは先輩にはぐらかされてしまった。


「ふふ、それじゃあ初デート頑張ってね、神木君!」

「え、い、いや! だから違うんですこれ本当にデートじゃ――」

「お疲れさまです!」「こんにちはー」「お疲れー」


先輩の誤解を解こうとしたけど、ちょうどその時、生徒会のメンバーが続々と生徒会室に入ってきてしまった。 結局その日は七種先輩に誤解を解く事は出来なかった。


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学校から家に帰宅した俺は、そのまま明日の用意を始めた。 服装は七種先輩に言われた通り、気負わずシンプルな服装で行くことにした。


「初めて会うし、ちょっと緊張するけど……でもやっぱり楽しみだな」


そりゃ相手は女子だし、初めて会うのだから当然緊張はすると思う。 でもゴリさんとはもう長い間一緒に遊んでる友達……いや、仲間みたいなものだ。 だからゴリさんに会えるのは純粋に楽しさの方が上回ってる。 それに……


「秋葉原行くのも初めてなんだよなー」


これも俺にとっては楽しみの1つだった。 今俺が使っているPCは兄のおさがりの物だった。 だからいつかは自分用のゲーミングPCを買いたいと思っていたので、今の内にスペックとか値段を調べに行きたい。


あとは周辺機器だとヘッドセットやマウスは2年以上使ってきてるし、モニターもそろそろ良い物を買いたいな。 それと、正直これが明日買いたい物のド本命なのだが……ゴリさんを叩き潰すためにも……


「……アケコン買うぞ!」


つい先日、格ゲーで投げハメされた恨みは当然忘れていない。 ゴリさんを叩き潰すためにも、アケコンを買って練習するんだ。 そしていつか必ず10先で勝ってやる……!


「よし、とりあえず行きたい所はあらかた調べたかな」


俺は明日行きたい所のショップや家電量販店の場所を調べ終えたので、今日は早めに就寝する事にした。


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土曜日。 時刻は10時20分。


俺は集合場所の秋葉原駅前に到着した。 集合時刻の10分前に到着した俺は、辺りを見渡すしたが……ゴリさんらしき人はまだ着いてないようだ。


「ふぅ……」


ゴリさんとは2年以上もの長い付き合いがあるし、煽り煽られ罵倒しあうくらいには気心の知れた仲の良い友人だと思う。 それでもやっぱり実際に会うのはこれが初めてだから多少は緊張はする。 それに女子と2人きりで会う事自体も初めてなわけだし。 まぁそれでも――


「はは、楽しみだな」


昨日の夜も思ったけど、やっぱり楽しみな気持ちの方が圧倒的に上回っている。 そんな事を思いながらゴリさんの事を待っていたらLIMEにメッセージが飛んできた。


『着いたよ。 声かけたるから服装教えて』


俺はゴリさんに自分の服装をメッセージで伝えた。 それからすこし経つと、こちらに近づいてくる女性が1人いた。


「……あっ!」


そしてその時、ゴリさんが前に言ってた“約束”が何の事だったのかようやくわかった。


―― いつかクロちゃんと会う事があったら……そん時はしょうがないなぁ! 三つ編にメガネかけた文学少女スタイルで会ってあげるわ、あはは! ――


まさにそんな特徴の女性が俺の方に近づいてきた。

その女性は黒髪ロングでオシャレなサイド三つ編みヘアにし、大きめのオシャレな丸いメガネをかけていた。 服装はシックな雰囲気で、全体的にとても大人っぽい雰囲気を出していた。 そして確かに、ゴリさんが毎回言ってたように……その女性はかなりの美人だった。


「すいません、クロさん……ですか?」

「は、はい! そうで――」



「……え゛っ!?」



俺が喋ろうとしたら、その前に女性が先に大きな声を出してきた。 いや、というか……あ、あれ? この人どこかで見た事があ――



「あ゛っ!?」



いやどこかで見た事があるどころじゃない!! ほぼ毎日学校で見かけてるじゃねぇか!!


「か、神木君!?」

「さ、さ、七種先輩!?」


目の前の美人な三つ編みメガネ女性の正体は……俺の学校に通っている俺の尊敬する先輩だった。


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ゴリさん……もとい、七種先輩と合流した俺は、そのまま近くの喫茶店に入った。 そしてつい先日、学校で七種先輩と喋った内容についてを思い出しながら話した。


「……なんすか、私ゲーム下手なんだよねぇって。 あれメチャクチャ嘘じゃないっすか!」

「いやだってゴリゴリに強い煽り系ゲーマー女子よりも、ゲームとか怖くて全然出来ない系女子の方が可愛いっしょ? それにアタシ嫌だよ、格ゲー初心者相手に当て投げでハメて気持ち良くなってる女とか怖すぎて友達になりたくないもん」

「あ、あんたって人は……!」

「まぁまぁ。 あれ? でもさぁ……」


突然、七種先輩はニヤニヤと笑いだしながら俺の方を見てきた。


「あれぇ? 確か君はゲーム得意なんじゃあなかったっけ? 確かあの時の前日も友達ボコボコにしたらしいねぇ? へぇ? そうなんだぁ、知らなかったなぁ。 アタシ……クロちゃんにボコボコにされた記憶無いんだけどなぁ、へぇえ」

「ぐぎぎ……」


駄目だ、この問答は10:0で俺に分が悪い。 俺は話をそらす事にした。


「そ、そういえば、先輩の言ってた“約束”ってそれの事だったんすね」

「ふふ、いいでしょ? クロちゃんが所望した三つ編みヘアのメガネスタイルを今風っぽくしてみたよ。 どうよ、クロちゃん?」

「はい……めちゃくちゃ似合ってますよ……!」


いつもの七種先輩のサラサラな黒髪ロングヘアも好きだったけど、こういうアレンジも最高に似合っていた。 そして好きな先輩がいつもと違う髪型をしているというのは破壊力が相当にヤバイ……


「今日はやけに素直だねぇ。 ふふふ、もしかして惚れたのかい?」


その言葉は普段からゴリさんが俺に対してよく言ってくる言葉だった。 いつもは軽く受け流してたけど……流石に今回はヤバイ。 それでも何とかギリギリ踏みとどまってみせた。


「……無線環境のネット対戦をゴリさんにしかけてもガチギレしなければ惚れますわ」

「いや待ておまっ! それは戦争だろ!」


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「……さて……どうしよっか」

「ん? 今度は何ですか?」


色々と話をし終えて喫茶店から出たところで、ゴリさん……いや、七種先輩は俺にそう聞いてきた。


「いや、何だかんだ言ってさ……私といるの気まずいんじゃないかなぁ……って思ってさ」

「い、いやそんな事はないっすけど……」

「いやそんな事あるでしょ! 私だって今平然な顔を装ってるけど、内心バクバクしてるんだからね! まさかリアルの私を知ってる人だなんて思ってなかったし! 何で今まであんなイキリちらした事言っちゃったんだ……って内心で物凄く後悔してるんだからね」

「いやそれはちゃんと後悔してください」

「はい……」


七種先輩はしょぼんとした顔をしながら続けてこう言った。


「それに前にもさ、神木君は私の前だと緊張して上手く喋れないって言ってたじゃない? だから……こんな感じだと、もう今日は楽しめないのかなぁって思ったりしてさ……」


どうやら七種先輩は、俺が先輩への緊張感+気まずさのコンボ技で今日はもう楽しめないのでは? と思っているらしい。 先輩の声はどんどんと小さくなっていき、元気も無くなっていってた。

ゴリさんが七種先輩だったという事で俺の頭はバグったけど、それでもやっぱりこの人は素で優しい人なんだ。 だから今も俺の事を心配してくれているんだ。


「だからさ……今日はその……このまま解散する?」

「は、はぁ!? 何言ってるんすか!」

「え? な、なに?」


だから俺はそんな優しい先輩に伝えたい事はちゃんと口にすることにした。


「確かにゴリさんが七種先輩だったのはビックリしたし、今まで尊敬する先輩相手に煽りまくったりイキりちらした事を思い出して、俺も内心バクバクしてるんですよ!」

「じゃ、じゃあっ――」

「でも俺は今日、尊敬してる先輩の七種先輩と遊びに来たわけじゃないんです! 普段から口が悪い煽り仲間のゴリさんと遊びに来たんです。 なのに、なんでゴリさん気まずくなってるんすか! いつも通り傍若無人にイキリちらしてくださいよ!」

「……おいコラ」


先輩はまだ気まずそうな顔をしているけど、それでもちゃんといつも通りツッコミを入れてくれた。


「それに俺の事を心配してますけど……大丈夫っすよ。 そりゃあ確かに七種先輩相手にはいつもガチガチに緊張しますけど、ゴリさんにはそこまで緊張しませんから! いや多少は緊張してますけど、それでもいつもの七種先輩相手に比べたら全然です!」

「神木君……」

「だってゴリさんは俺にとって最高のゲーム仲間ですから! 仲間相手にガチガチに緊張なんてしませんって! キレそうになる事は常日頃沢山ありますけど!」


俺がそう言いながら親指をビシっと立てると、ようやく七種先輩は少しだけ笑ってくれた。


「……はは、そりゃわた……ううん、アタシだってクロちゃんにキレそうになる場面は沢山あるからねぇ? 意味不明な所でダウンしたり、確キルされたり……ふふふ、あぁ、今思い出してもキレそうだわ」

「いやそれ普段からガチギレしてるやつじゃないっすか! “変な所で死ぬんじゃねぇ100万回殺すぞタコ助”って一昨日も罵倒されたんですけど!?」

「……てへっ」


最初はやっぱり緊張感+気まずさがあったけど、ちゃんと話をしたらそんな気持ちは消えていった。 俺の目の前にいる人はゴリさんなんだ、今日は七種先輩ではないんだ。


「それに俺初めての秋葉原なんすよ? 気まずさより楽しさの方が勝ってますって、買いたい物だって一杯ありますし! 新しいヘッドセットに有線マウス、調べてたら湾曲モニターってのも気になるし! あと……ゴリさん叩き潰すためにアケコンも買わないとだし……!」


だから俺は、今日という日をとても楽しみにしていた事をちゃんとゴリさんに伝えた。


「だからつまり! 俺は今日ゴリさんと会うのも秋葉原に行くのもすっごく楽しみにしてたんです! だからゴリさんも気まずくなんかなってないで、ほら……さっさと行きますよ!」


俺は真面目な顔でゴリさんにそう伝えた。 ゴリさんは少し黙ったままだったけど、すぐにぷっと笑いだした。


「……ぷ。 ぷはは、うん、そうだよねぇ……やっぱりそれでこそクロちゃんだよねぇ」


そう一言だけいうと、ニヤリと笑いながら俺の提案を受け入れてくれた。


「オッケー。 んじゃまぁ、とりあえず買い物……の前にゲーセン行こっか!」

「ん? 別に良いですけど、何かやりたいゲームあるんすか?」

「いやぁ……神木君、じゃないや。 クロちゃんがさぁ、いつも通りのアタシになれって言うからさ。 ならさぁ……ふふ、いつもみたくクロちゃんをボコボコにしなきゃ本調子に戻らないじゃん?」

「は?」

「良し! というわけでゲーセン行くよ! ほらっ!」

「え? あ、ちょっと待――」


ゴリさんは俺の手をぎゅっと掴んで、そしてそのまま駅前のゲームセンターへと連行されていった。


----


気が付けば夕方になっていた。

ゲーセンの格ゲーでボコボコにされた後は、行きたかったPCショップで目当ての品を物色した。 それが終わるとまたゲーセンに戻って今度は協力プレイが出来るゲームで一緒に遊んだ。 一通りゲーセンを楽しんだあとは、駅前の家電量販店に行き、ゴリさんにオススメされたアケコンを購入した。


「いやぁ、遊んだ遊んだ! クロちゃんは楽しめたかい?」

「もちろん! 初めてのオフ会も秋葉原もどっちも楽しかったですよ!」

「そかそか、それなら良かったよ」


最初はなんやかんやあったけど、それでも結局最後にはお互い楽しんでいた。

やっぱり二年以上、ほぼ毎日のようにネットで遊んできた相手だし、気心が知れた人と出かけるのはとても楽しかった。


「今日は本当に良い買い物が沢山出来ましたよ!」

「はは、クロちゃん、荷物凄い事になってるよ」


沢山の商品が入った紙袋が俺の両手にぶら下がっていた。 ゴリさんはそんな俺の大量の荷物を指さして笑った。


「全部必要な物だからいいんです! バイト代3ヵ月分くらい吹っ飛びましたけど」

「それはそれは……また稼がないとだねぇ」

「はい、明日もまたバイト行ってきます。 それで……ゴリさんはどうでしたか? 今日は楽しめましたか?」

「アタシ? アタシはねぇ……あはは! うん、最高に楽しかったよ!」


そういうとゴリさんは満面の笑みを俺に向けてくれた。


「っ……!?」


ふと、そのゴリさんの笑顔に俺はドキッとしてしまった。 そりゃそうだ。 忘れてたけどこの人は七種先輩なんだから。 よくよく考えたら、学園一の美人な先輩と一日中ずっと一緒にいたと思うと……なんだか顔がどんどんと赤くなってきてしまった。


「うん、どうしたの? ふふふ、もしかして惚れたのかい?」


そんな俺の顔を見ながらゴリさんはそう言ってきた。


「……不覚にも、生まれて初めてゴリさんにドキっとしてしまいました」


いつもは軽く流していたけど、今回はゴリさんに敗北した事を素直に受け入れる。 でも恥ずかしいからプイっとそっぽを向きながらそう言った。


「あはは、今日のクロちゃんは本当に素直だねぇ。 まぁ……クロちゃんならアタシも良いけどね」

「え!? そ、それって……?」


ガバっと顔を上げると、ゴリさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。 それはいつもの七種先輩がしてくれる優しくて柔和な笑みなどでは決して無い。 変な悪戯を仕掛けてこちらの動きを見て楽しんでいるような……そんな感じの小悪魔的な笑みだった。

でも……悔しいけどいつも見てる七種先輩の優しい笑みよりも、今の小悪魔的な笑みの方がゴリさんらしくて……俺はこっちの方も好きだった。


「んー? どうしたのクロちゃん? いきなり黙っちゃってさぁ?」


ゴリさんはニヤニヤと笑いながら俺の事を見続けてくる。

今ゴリさんが俺に求めている答えなんて当然わかる。 だってこの人とは2年以上、ほぼ毎日遊んできたゲーム仲間だから。 だから、ゴリさんが今欲してる答えなんて当然わかる。


「……いつか必ず、10先で勝ってみせるんで。 だから、首洗って待っててくださいよ……ゴリさん!」

「……ふふ、やっぱりクロちゃんは最高だねぇ! でもいいのぉ? クロちゃんがアタシに10先で勝つなんてさ、一体いつのことになるんだろうねぇ? くすくすっ!」

「大丈夫っす、ゴリさんを追いかけるのには慣れてるんで! それに今日の買い物だって……はは、ゴリさんをブチ倒すために買った物ばかりですしね!」


俺は必ず勝つから……それまで俺の事を待っておけ! と、ゴリさんに宣戦布告をかました。


「ふふふ、言うようになったじゃん。 あーあ、昔はもっと可愛げのある良い子だったのになぁ……こんなクソ生意気な事言うようになってお姉さん悲しいよ」

「可愛げある後輩には学校に行けばいつでも会えるんだからいいでしょ? それにゴリさんだって昔は凄い丁寧で優しい大人の女性だったのに……今じゃ殺すぞタコ! が口グセのヤバイお姉さんになっちゃって、後輩としては悲しいですよ」

「ははっ、品行方正で優しい優しい先輩には学校に行けばいつも会えてるんだからいいでしょ? ふふ、お互い様だって事だねぇ、あははっ」

「はは、違いないっすわ」


ゴリさんはまた、ニヤっと意地悪そうな笑みを俺に向けてきた。 俺もその笑みにつられて一緒に笑いあった。

そして少し時間が経つと、ゴリさんはクルっと後ろに振り返って、俺の方に背中を向けてきた。


「ま、アタシだって簡単に負けるつもりは無いけどさ! まぁでも、アタシにとってクロちゃんはクソ生意気な煽り仲間だけど……私にとって神木君は可愛い後輩だしね。 だから、しょうがないなぁ……」


ゴリさんはそこまで言うと、クルっとまた俺の方に振り返ってきて、今度は俺の顔をしっかりと見つめながらこう言ってきた。


「君がアタシに勝てるまで……私はずっと待っててあげるよ。 だから頑張ってね」


そう言うゴリさんの……いや、七種先輩の表情は柔和でとても優しい笑みだった。

(終)

表の顔は品行方正で優しい美人な先輩、裏の顔は煽り系ゲーマーな女の子との青春物語でした。


・ハンドルネームの由来


クロ:本名からとった(神木玄人:カミキクロト→クロ) あとペットのネコの名前もクロ。 考えるのがメンドクサイから名付ける必要がある場面は全部クロにしてる。


ゴリ林:自分の事を闘争本能の赴くままに戦う脳筋ゴリラだと思いながらゲームプレイしたい+林は母親の旧姓から。 あと変な名前にしとけば出会い厨避けになりそうだと思ったから。


以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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[良い点] ベタもベタ。超ベタだけど、それが心地よい(*^^*) 楽しかったです。
[一言] 会話の応酬が凄く青春してて良かったです。 なんというか、2人共が魅力的な部分と欠点のバランスが良くて、見ていて微笑ましい気分という感情を抱けました。 良き作品でした!
[一言] あわよくば連載して欲しいけどこの短編はとても完成している ありがとうございました
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