Shuffle・Game・World
俺、巫 彼方はゲームが大好きだ。
ジャンルは問わずどんなゲームも楽しくプレイしている。
そんな俺が行き着いた先は自分でゲームを創ることだった。
「ついに完成した……俺のゲーム!!」
高校生になり学校のゲーム制作部に所属し、高校生活の全てをゲーム制作に費やした。
そんな俺が心血を注いで作ったゲーム『レインスグロウ』
そのゲームをネットで配信した。
俺は正直少し期待していた。
自分のゲームが高く評価されることを。
しかし期待して待っていた次の日の朝、俺はゲームの感想欄を確認して顔が引き攣った。
『センスがない』
『主人公が強すぎる』
『ヌルゲー通り越して糞ゲー』
『ゲーム作るのやめろ』
などの酷評が感想欄に沢山書かれていたのだ。
「うーん……現実は甘くないよな」
ゲーム制作にこの3年間……いや中学も合わせて5年間も費やしたのに……
わかっていたのだが現実は厳しい。
次の日俺は学校に行き放課後、ゲーム部の部室で同級生にも酷評された。
「んーコメント通りだと思うね……センスないもんお前
ゲームやるのは上手いんだからもう作るのやめろよ」
と同じ部員の仲間にも作ったゲームを酷評されて俺は心が折れかかった。
仕方ないじゃん……主人公が強くてサクサク進めるゲームが俺は好きなんだから。
「もう駄目だ……
新しいゲームでも探してやり込もう」
折れかけた心をゲームで癒そう。
そう思って俺は学校から家に帰ってネットで新作ゲーム欄を一通り見てみることにした。
するとそこに全世界1万人限定販売のゲーム《S・G・W》と言うゲームがあった。
全世界1万人限定って少なっ!!
「なんだこれ……?」
『《S・G・W》
君の好きなキャラクターを駆使して戦え!!
オープンワールドのあちこちにあるダンジョンや城を自分の好きなゲームのキャラクターを使って攻略しながらこの世界で生活しよう!!
使用デバイス: アストラルE』
と書かれてある。
「結構面白そう……だな!!
応募してみるか……望み薄だけど」
全世界1万人はかなり少ないのであまり期待はしないでおこう。
過度な期待はしない方がいいとすでに経験済みだ。
と……俺が応募ボタンをクリックした瞬間、画面に当選致しましたの文字が出てきた。
「え?俺今応募したとこなんですけど……?」
と驚きつつ俺はこの新作ゲームを本当にプレイできるのか調べてみると本当に『S・G・W ダウンロード可能』と表示されているではないか。
「……おぉ!!本当にできるのか?」
俺はとりあえずゲームデータをダウンロードして、早速フルダイブデバイス《アストラルE》を起動する。
読み込み中……
『本作のダウンロード誠にありがとうございます』
『本作でプレイするキャラクターを読み込ませてください』
とディスプレイ画面に表示される。
「好きなキャラクター……か」
俺は今までいろんなゲームをしてきた。
だから好きなキャラクターは沢山いる。
しかし俺はこのゲームを見た時からこのキャラクターを使おうと決めていたキャラクターがある。
俺は一つのゲームをS・G・Wに読み込ませた。
その後《アストラルE》の付属アタッチメントを全身に装着してゲームをスタートさせる。
『本作ではパーティを組むこと前提で作られておりますのでランダムでパーティを既に組んでおります
では貴方の2度目の人生をお楽しみください』
と訳の分からないことを書いてはいたが、最初からパーティメンバーがいるのは手間が省けていいかもしれない……
パーティを組もうと声を掛けるのはちょっと面倒くさい。
次の瞬間、説明していた画面が突然ブラックアウトして目の前が真っ暗になる。
『ようこそ君の新しい人生へ』
真っ暗な世界にいた俺は誰かにそんなことを耳元で囁かれた気がした。
次の瞬間、エレベーターで降りる時に感じる身体が少し落下していくような感覚に包まれ意識が沈下してゆくのを感じる。
気がつくと俺は真っ暗でゴツゴツした空間に立っていた。
「……よ……よし
とりあえず起動できたみたいだな……」
俺は起き上がろうとするが身体がフラフラする。
「これ本当にこれ仮想世界だよ……な?」
仮想世界擬似体験ゲームに置いて本人が痛みを感じたり、吐き気やだるさを感じるということはない。
あくまで擬似体験であるのでそんな感覚は無いはずなのだ。
しかしその後休憩していると、だんだん気分もスッキリして体も楽になる。
体に至ってはとんでもなく軽くて今ならなんでも出来そうな程に力が溢れている。
次第にこの暗闇にも目が慣れて周りが見えてきた。
どうやらこのスタート地点は洞窟の中の様だった。
「とりあえず外の景色が見たいな」
どうもここは暗いし、じめじめしててあまり長居したくない。
俺の冒険の始まりにしては暗すぎる。
そう思った俺は洞窟をひたすら進み続ける。
するとかなり先に明かりが見えた。
「外だ!!」
俺はテンションが上がってかなりの距離を一瞬で駆け上がる。
その先には地球ではあまり見れない広すぎる大草原。
空には鳥?……いや違う……ドラゴンがいる!!
そして俺は今、標高1000メートル程の高い山の頂上付近に立っていた。
「すっげ……」
今まで仮想世界系統のゲームはかなりやってきたがここまでリアルで、しかも本当にこの世界に立っているかの様な感覚に俺の気分は高揚していた。
「しかもこの服リアルすぎる!!」
そして悩んだ末に俺の選んだゲームキャラクターはもちろん自分で作ったゲーム『レインス・グロウ』その主人公ゼインだ。
紺色のコートを羽織った背の高い金髪のキャラクターだ。
仮想世界で自分の作ったゲームキャラクターを自分でプレイする。
それだけで俺は幸せだった。
しかしそんな幸せな気持ちに浸っている俺の背後からお腹を空かせた獣の唸り声が聞こえてくる。
「グルルル……」
銀色の毛並みの獣がヨダレを垂らしてこちらを見ている。
「狼……か?」
それにしては大きな狼だ。
そして顔の辺りに大きな傷跡がある。
そんな中々に怖い見た目をした狼がこちらを睨んでいる。
「ウガゥ……!!」
飢えた銀狼は一瞬で俺との間合いを詰め当然のように俺の喉元に齧り付き、喉仏を食いちぎった。
「……ガハッ!!」
俺の喉元から大量の血が流れる。
現実ならもはや絶命は免れないであろうその致命傷は俺に信じられないほどの痛みを感じさせる。
しかしその痛みを感じた瞬間、銀狼が俺の喉元に飛びつく前まで時間が逆行する。
そして再び時間は進み始め、銀狼は俺を襲う。
それを俺は後ろに飛び退いて躱す。
これが俺の選んだキャラクターゼインに備わった能力である《反射神感》だ。
「ハァ……ハァ……!!」
落ち着け……これはゲームだ。
リアルじゃない。
しかし今のを食らっていたら本当に死ぬ様な気がして、足の震えが止まらない。
時間を巻き戻す前のあの痛みと恐怖が足をすくませる。
「震えるな……たかがゲームだ!!
死ぬわけじゃない……俺はゲームなら誰にも負けない……」
これまで仮想世界系のゲームで行われる数々の大会で何度も優勝し続けてきただろう。
俺は自分を鼓舞して足の震えを止める。
まず《反射神感》がある限り攻撃は絶対に回避できる。
攻撃を受けてから時間を巻き戻して躱す《反射神感》はこの狼一匹相手なら遅れを取ることはない。
「さっきは集中力が足りなかっただけだ……
このゼインなら絶対勝てる!!」
再び飛びかかってくる狼動きが今度は見える。
そして躱し様に、俺は躊躇なく狼の目に自分の指を突き刺した。
「ガァォォァァアアア!!」
痛みで狼は後退りする。
しかし俺はすでに距離詰めて落ちていた石を使って鼻や顔を中心に殴打する。
「倒れろ!!倒れろ!!倒れろ!!」
反撃の隙など与えない。
俺は呼吸の続く限り殴り続けた。
その後呼吸が続かなくなるまで殴り続けた俺はその場にへたり込んだ。
すると生き絶えた銀狼は光り輝いた後、消えて無くなっていた。
銀狼のいた場所には光る石が落ちていて、俺はそれをポケットに入れて少し休憩する。
「なんだよ……これ」
武器も持たずにいきなり敵の登場とは酷いゲームだ。
キャラクター次第では今ので死んでいただろう。
「にしてもリアルすぎるぞこのゲーム」
血の出方や食いちぎられた時の痛み、どれをとってもゲームと思えぬ程リアルだ。
「ん?あれは……」
洞窟の入り口に立つ俺は少し先に街を発見した。
とりあえず情報収集の為にもあの街に行こう。
俺は山を降りてとりあえず街に向かうことにした。
ご覧いただきありがとうございました。