file5 それぞれの作業2
今回からやっと白上兄妹の過去が読者様に届き始めます。
もったいぶっててすいませんでした><
一貴side
南国の海というものは、イメージ通り非常に透明度が高く、青く透き通っていた。
観光のポスターなので「南の楽園」やら「この夏は南国のパラダイスへ」などの垂れ込みをよく見かけるが、真の意味で楽園なのは海で暮らす生物達にとってだろう。
色とりどりのさんご礁に豊富な海草が海の楽園をデコレーションしていて主役はなんといってもキラキラと鱗を光らせ泳ぎ回る無数の魚達だ。
一見この海で魚を捕まえるなんてわけないと思うかもしれないが実際は違う。人間というものは水中で活動するような体のつくりをしていないのだ。
最大の障害は人間の持つその大きな表面積だ。水には抵抗力がある、素早くパンチを繰り出そうとしても腕一本ですら地上の動きは別物になってしまうのだ。
得物は銛、しかもとても原始的でありあわせで作った腕力任せのチープなものだ。たいていの人間は1時間、いや1日かけても動きの遅い魚1匹とれればよく頑張った部類に入るだろう。
「駄目だ・・・魚の動きはえー!」
海面から顔を出し、数分ぶりの呼吸を再開する一貴。
漁開始から3時間ほどたつのだが、動きの遅いフグ2匹のみ。
毒性をもつフグの調理など出来ないので実質収穫ゼロである。
前述の通り一貴の運動神経は他の者に比べると大きく高い、だが海の中では人間の動きなど限界があるのだ。
体が冷えてきたため、一貴は一旦陸に戻ることにした。
浜に戻ると、一姫と稲葉の2人が一貴が機内から持ち帰ってきたライターで木材なので日を起こす準備をしていた。2人の作業とやらはすでに終了していたらしく、お腹をすかせて浜辺に戻ると魚どころか、火すら起こしていない状況だったので2人で火起こしくらいやってやるかという事だそうだ。もちろん「おにぃ!遅い!なにちんたらやってんのよ!」と一姫からの説教TIMEもあったのだが・・・
「そんで魚がうまく取れないと、ホントおにぃは何か作るの下手よね・・・」
2人に海での漁の難しさを伝えようとしたのだが、一姫はブツブツと言いながらおもむろに一貴作った銛をいじり始めた。将来は立派な鬼嫁になるだろう素質充分だなと思いつつ稲葉をみると、稲葉は一貴に対して失望したというより、そんな弱点があったのかとフンフン頷いていた。
「おにぃこれでもう一回行ってきなさい!」
一姫はそういって銛を再度一貴に渡す。銛の棒底辺部にはなにやら穴があいており、そこに太めのゴムが通してあった。このゴム、一貴が機内から運んできた工具の中にあったものだ。
「これが発射機代わりね、ゴムを引っ張るように指をかければいいわ」
なるほど、これは確かに発射機だと感心していると、一姫に「さっさといけ」っと蹴られて一貴は海に戻って行き、結果的には、ものの数十分でなかなかのサイズの魚を数匹とることができたのだった。
一姫&愛美side
一貴を再度海に向かわせた私達は火起こしを再開した。
サバイバル系物語では火起こしにとても苦労するのがセオリーなのだが、私達は反則上等文明の利器万歳ライター様様で、集めた木々を適当に組み立て、乾いた布を着火剤代わりにし、ものの数分で安定した炎を確保すると、あとは火を絶やさないように程よく追加の木材を火に投下するだけでよかった。
後は兄が魚を持ってきた後に魚を串刺しにするため、一姫は腰を下ろしキッチンナイフで木材を加工していた。
「あの一姫さん」
すると私と向かい側に座った愛美が声をかけてきた。
「どうしたの愛美?」
ナイフ片手に愛美を見ると、一瞬ギョっとした表情をみせたが、恐る恐る彼女が口を開いた。
「昨日の続きなのですが、2人は何かこの生活っていうか、なんというのでしょう・・・こんな生活に慣れてませんか?」
昨夜、一姫が誤魔化した話の続きを聞きたがっているようだ。
「そう見える?」
「ええ、とっても・・・。なんか落ちついてるような楽しんでいるような・・・。こんな事助けてもらってばかりの私が言うのもなんなんですが・・・」
高校生、進学校ではあるものの、これと言って特色があるわけでもない明和高校の生徒で、しかもついこの間まで中学生だった1年生で15歳の少年少女。こんな子供がいきなりサバイバル生活をよぎなくされている。
愛美自身、2人と一緒でなかったらとても今のように落ち着いてはいられなかっただろうと思っていた。
むしろだからこそ疑問なのだ。 大の大人ですらこんな状況に陥ったら発狂するだろうし、ここまで精神状態を保っていられるのか疑問である。
だというのに、白上兄弟はとても冷静に己のやるべき事、できる事を冷静に判断し実行する。
これがどれだけ異常なことなのか・・・
それは当の一姫自身も理解していた。
「・・・そうね、なぜ落ち着いていられるかと聞かれれば、こんな事日常茶飯事だったからという事かしらね」
「日常茶飯事?こんなサバイバル生活がですか?」
「そうよ、私とおにぃ・・・愛美の前ならもう必要ないわね、私とお兄ちゃんは小さい頃から色々な所に行ってきたの・・・」
不意に口調が子供っぽいモノに変わり、愛美はまたドキっとしてしまったようで、目を丸々とさせた。
一姫は愛美が昨晩少し離れたところで私達の話を聞いているのはわかっていた。
気づいていたのかと、顔をしかめる愛美。
「富士の樹海や屋久島なんか小学低学年の時に行ったし、高学年になると海外にだって行ったわ」
「富士?海外??なにをしに行ったんですか?」
その質問に一姫は笑顔で声高に答えた。
「冒険よ!」
一姫の笑顔は今までの同世代なのか疑うくらいの大人びた女性の微笑みではなく、純粋で子供っぽい無邪気で無垢なのソレ(笑顔)だった。
先ほどまでは何処か気品漂う高潔な貴族のような雰囲気をもつ一姫だったが、今は我がままで無邪気なお姫様のような印象だと愛美は感じた。
「冒険ですか?えっとインディージョーンズみたいなですか?」
「アハハハ、ちがうちがう」
そういって首を振り一姫は続ける。
「そういうモノを憧れてたわけじゃないの、そうねあの頃はもっとファンタジーなものを夢見てたの、RPGのようなゲームみたいな冒険、まだ観ぬ世界との接触!信頼できる仲間との友情!歪な姿のモンスターとのバトル!そんな感じのゲームね」
「ゲームですか???」
愛美は衝撃を受けた。
その発言は1日だけだが、培ってきた一姫に対する印象を大きく変えてしまうほどのキーワードだった。
「そうそう、始まりはすごく簡単。昔、お兄ちゃんがハマっていたゲームがあったんだけどね、それに夢中でお兄ちゃんがぜんぜん私にかまってくれないから、お兄ちゃんが外で遊んでる間にセーブデータ消してやろうと思ったんだけど、なぜか私もやってみたくなってね」
「それでどうしたんです?」
「お兄ちゃんのセーブデータ消して私がイチからやり始めたのよ」
「ははは・・・」
愛美は思わず顔を引き攣らせた。
「そしたら意外に面白くてね。ハマっちゃったんだけど、なんか物足りなくて、他のゲームもたくさんやってみたの、でもやっぱり何かが物足りなくて・・・何が物足りないんだろうって考えたわけよ」
「なんだったんです?」
「ふふふ、所詮はゲームだったのよ」
やれやれといった表情の一姫。
「え?」
「野球やサッカーとかスポーツって観てるのも楽しいけど、やっぱ自分でやるのが一番楽しいじゃない?」
「はぁ・・・」
これは賛否両論だろうが、一姫はそういうタイプの人間なのだろうと思う愛美。
「だから私も自分で冒険してみたわけよ」
「ハイ?」
「始めは近くの公園、その次は隣町の森、次は山にって感じでね」
なんという行動力なのだろう。小学校低学年のうちにそんなことをやっていたのかと、ポカンとする愛美。
「えっと両親はお止めにならなかったのですか?そんな小さい子があっちこっちと」
「最初はビックリしてたけど、お母さんがかわいい子供に旅をさせろってパパを説得しちゃって認めてくれたの!熱意の勝利ね。その後は両親共々応援してくれたわ」
「それはまた豪快なお母様ですね」
昨今では育児放棄とみなされて仕方のない事だが、キラキラ目を光らせ、熱弁する一姫をみると、止めても行ってしまうだろうなと思わせれられる。
これは・・・彼女はとめられないなと愛美は思った。
「そうでしょ。で話戻すけど、そんなこんなで私達はこういう生活に慣れてるのよ」
「そうだったんですか〜!なんかもう色々驚きです」
ふんふん頷く愛美の頭に一姫はそっと手をおき撫で回した。
「え???一姫さん?」
急なことに驚く愛美。そしてあろうことか一姫は愛美を抱きしめた。
「ふふふ、だから愛美は守ってあげる。私とお兄ちゃんでね」
まるで時が止まったかのような、子供の頃母に抱きしめて貰ったときのような安心感が愛美に走り、しばらくこの状態が続いた・・・
そんなことをしていたら、浜辺から鯖のような魚を数匹持ってきた一貴が姿を見せた。
「話が途切れちゃったわね。それにこんなことで驚いてちゃ駄目よ。続きはお兄ちゃんを含めてご飯にしながら話してあげるわ」
そう言って愛美にウィンクを飛ばす一姫の姿にまたもドキっとさせられる愛美だった。
どうも作者です。
僕も小さい頃はRPGなんかの世界に憧れた口ですw
当時はドラクエやらFFやらやってましたね。
学校帰りに友人と「ボロボロファンタジー」と称して木の棒や竹刀なんかを持って公園を走り回る頭の悪い子供でしたww