魔王様との死闘!
スタッ!
スタッ!
「ただいま帰りました」
「こんにちは、魔王様」
――!
急に玉座の間に現れた女勇者と私の姿を見て、魔王様は驚かれる。
「うわ、ビックリした。なんだ、デュラハンと女勇者か」
そして何事もなかったかのように玉座でポテチをパリパリと食べ始める……。甘い缶コーヒーを飲んでいる。まるで緊迫感なしだ……。
……まあ、この女勇者なら致し方ない。なんせ、まだレベル20なのだ。自称レベル無量大数の魔王様の足元にも及ばない。
「魔王様、やはりレベルダウン制度はおやめください」
「なぜじゃ」
「理由をご説明いたします」
移動式のホワイトボードを玉座の間の壁際から魔王様の前へと引っ張り出してくる。書いて説明した方が絶対に分かりやすい。
「まず第一に……」
「ダラダラダラダラ……ダン!」
ドラムロールを口で言わないで。キュッキュッと心地良い音を立てて文字を書いていく。
「①、やっぱりレベルが下がると士気が下がる。やる気がなくなる」
「②、レベル1のスライムがレベル0やレベルマイナスになるとややこしい」
「③、レベルだけに執着してしまい、自己満足と鼻で笑われる」
「④、これまで魔王様や国王様に貢献してきたことが、レベルダウンで帳消しになりそうで悔しい」
「⑤、レベルダウンするのであれば、最初から言っておいてくれないと反則」
「⑥、今は平和な世の中なので、レベルアップするのが難しい」
「以上でございます。人間界の国王も猛反対していました。ここに公文書もあります。まだなにも書かれていませんが、当分の間は老人ホームへ行きたくないそうです」
「ふむふむ、よくそこまで調べたのう」
「あーざす」
パリパリとポテチを食べながら説明を納得して聞いて下さる。今回のプレゼンテーションは大成功だ。
「特に、⑥の影響が大きいのです。レベルアップするのが難しいのに、レベルダウンなんてされれば皆が当然レベルアップする方法を探します」
「うむ! その通り! 日々成長しようと努力するぞよ!」
「その打開策として~」
「ダラダラダラダラ……チャーン!」
「一番の経験値が、あなた、魔王様なのです!」
「ヒューヒューパチパチパチ」
女勇者よ、パチパチパチと口で言うではない。手を使って拍手しなさい。
「――予! ひょっとして、予を倒してレベルアップするために玉座の間に女勇者とタッグを組んで乗り込んできたと申すのか!」
「はい。そうなります」
「ええ」
「……。正直に答えればよいというものではないぞよ」
玉座からずり落ちそうになっている。
「冗談ではございませぬ。これでもレベルダウン制度を始めると言うのであれば、力づくでやめさせる覚悟です。そして、ごっそり経験値となっていただきます」
腰に下げている白金の剣に手を掛ける。
「分かった! 分かったから剣を抜こうとするなデュラハン! まるでバカ殿様ぞよ」
バカ殿様って……冷や汗が出るぞ。
「仰せのままに」
剣から手を放す。
「……やれやれ。女勇者が剣すら持って来ていないのにがっかりするぞよ」
「テヘペロ」
作戦は成功したが、本気で魔王様と四天王を戦わせようとしていたのなら……よほどの策士だ。
「……たしかに一度上がったレベルを下げられては士気が落ちる。レベルアップの喜びが大きい分、レベルダウンの悲しみも大きなものとなろう。だが、忘れてはならぬぞよ。レベルダウンしないからといってサボっていれば、いずれは周りの者に次々と抜かされ、相対的にレベルダウンしていることになるということを――」
「――御意」
そっくりそのまま言い返してやりたいぞ――!
「それって、魔王様のことじゃないの」
「「――!」」
恐れを知らぬ女勇者に……冷や汗が出る。
「ちょっと失礼だぞよ。女勇者よ」
「そうそう。私も同じことを考えていたが、さすがに口にはしなかったのだぞ!」
言うのを我慢したのだ。……ここまで出かかったのを飲み込んだのだ。
「あーなるほど! 我慢も大事なレベルアップの要素なのね」
「――!」
「――その通りだ!」
何事も達成するためには、我慢の連続なのだ――!
どんなにたくさんの敵を倒したり大勢の味方を救ったり、新しい技を覚えたり押し付けられた仕事を素早く処理出来るようになったとしても、ここ一番で我慢ができなければ全てが無に帰す――。
度重なる魔王様のパワハラから逃げ出してもよかったのだ。だが、それを我慢し続けたからこそ四天王の地位まで昇り詰めたのだ。
ここは剣と魔法の世界だ。パワハラとコンプライアンスの世界ではないのが……なんだか泣けてくる。
「我慢することがレベルアップだなんて……」
ガクッとなる。本当にレベルが無量大数になっていそうだ……シクシク。
「予の導きのおかげぞよ」
――!
「……有難う御座います……」
「めでたしめでたしね」
「……微妙」
「安心したらお腹すいちゃった」
女勇者はいつだってお腹を空かせている。荒地で一人暮らしだから。
「女勇者よ、今日は魔食堂で一緒に夕食を食べて帰るがよい」
「え、いーの? ラッキー!」
……なんだろう。女勇者の一人勝ちのような気がするぞ。
レベルなんかで本当の強い弱いなど比べられないのだ――。
魔食堂に魔王城のモンスターが全員集合して食事をした。今日のゲストは女勇者だ。サッキュバスが無理やりお酒を進めているのが心配になる。飲まされてベロチュウされるぞ……。
「レベルではなくランクなら下げてもよいのか」
ランク? 魔王様はまだ何かを下げようと企んでいらっしゃる。
「微妙でございます」
レベルとは別物だから……下げられても弱くならないのなら構わないかもしれない。上がったり下がったりして気になるのは最初だけかもしれないが……RPGごとにランクの意味合いって色々違うし……。
「皆のランクと比べられたりすれば、ランクが低いとバカにされてしまいます。やはり、一度上がったものを強制的に下げるのは難しいかと思います」
つまらなさそうな顔で前菜の皿をフォークで突く。魔王様は生のピーマンがお嫌いなのだ。
「であれば、連続ログインもだめか」
「――駄目です。それはガチで駄目です! 連続ログインしているのにも関わらず連続ログインが途絶えたり下げられたりすれば、暴動が起こるでしょう」
連続ログインは夏休みのラジオ体操出席カードに押してもらうハンコ以上に重要です!
「では、連続テレビ小説や連想ゲームも同じことか……」
「……」
魔王様は赤いワインの入ったグラスを傾けた。
連続テレビ小説はともかく、連想ゲームって……なんだ。
ワンワンニャンニャン繰り返す言葉を当てるコーナーって……冷や汗が出るぞ、古過ぎて。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
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