貢献度もレベル
「おまたせ!」
「……風呂上がりに鎧だけを着るな」
パジャマ代わりか。裸にエプロンよりも……若者好みだぞ。女勇者が身に付けている伝説の鎧、「女子用鎧、胸小さめ」をずっと眺めていたいのだが、じっと見ていると本当に変態呼ばわりされてしまいそうだ。
小屋の中へと入れて貰った。……ドラム缶でお湯を沸かすために薪をくべたのだろう、室内は凄く煙たい。お風呂は外で入れとは言えないのが辛い。煙が目に沁みる……首から上はないのだが。
「今日はどうしたの? 夜這い」
「ゴッホ、ゴッホ!」
むせるわっ! 軽いキャラと勘違いされるぞと忠告したい。夜這いってなんだ――まだ昼だぞ! お日様がサンサンと真上に上っているのだぞ。
「今日は相談しに来たのだ。……魔王様が日々精進していないモンスターのレベルを下げようとして困っているのだ。もしお前達、人間共もレベルが下げられるとしたらどうだ」
困るであろう。
「それは……嫌だわ。わたしだってせっかく20になったんだから」
……それって、年齢とごっちゃになっていないか。
「年齢ならば下がってもよかろう」
「嫌よ」
「……そうなん?」
意外だぞ。さすがは女勇者と言うべきだろうか。それとも……まだ成長すると痛い勘違いをしているのだろうか……。
「ちょっと! 今、どこ見てなんの想像していたのよ!」
――! 冷や汗が出る。慌てて目を逸らす。
「勘違いするな。私には……ほら、顔がないのだ。どこを見ていようが私の勝手だ」
「いやらしい!」
いやらしくはない。私は魔族。人間の女には興味などないのだ。
――否、それは建前だ。
本当は、急に女勇者の胸が不自然なくらい成長したりして、「女子用鎧、胸小さめ」が装着できなくなれば……女勇者の魅力など地の底に下がってしまうから気を付けろと忠告したいのだ。だが、できないのだ――。
「レベルってさあ、ただ強い敵をたくさん倒しただけじゃなくて、これまでの貢献度もあるんじゃないの」
「貢献度?」
敵キャラだけを倒していても経験値は貰えるが、貢献度って……ポイントみたいには貰えない。
「これまでどれだけ国王様や魔王様に貢献してきたかってことよ」
「なるほど。貢献度がレベルか。それならばたくさん貢献してレベルが上がったとすれば、下げられることはない。自分よりも貢献した者に抜かれることはあっても、貢献してきた実績は減っていくことはないはずだ」
貢献したことが魔王様に忘れられなければの話だが……。魔王様、若いのに物忘れが激しい。自分に都合の悪いことは片っ端から忘れていく……都合のいいタイプだ。まさに魔王様の名に相応しい……。
「昔は苦労した~って年寄りが偉そうにしているじゃない。国王様とか魔王様とか」
「魔王様はそれほど年をとっていないぞ……」
イメージは年寄りだが……。ぞよぞよ言っているが……。
「でもね、やっぱりモンスターとの戦時中、命懸けで戦ってきたのを考えると、その貢献度は大きいのよ。きっと」
「戦時中に……命懸けで戦った……」
命懸けで戦った者……それに比べれば今の世代の貢献度は低い。レベルが低くて当然だ。
命懸けの仕事なんかほとんどしていない。労災も少ない。いや、多いが「ちょびっと切って病院で縫った」とか怪我の程度は小さい。
食べる物すら満足になかった時代に比べ、今や小学生もス魔ホを持ち歩き、文句をタラタラ言う時代……。遅刻を繰り返す新入社員と、遅刻しても叱責しない上司。パワハラのさじ加減を教えない管理職……。冷や汗が出る。
「だから年金とかも貰え続けるんでしょ」
「――年金!」
今回ってそんな話だったの~! ここは剣と魔法の世界だ。国民年金と厚生年金の世界ではない。そんな世界には夢がない――夢がないが、老後はある~。
「でも、ずっと貰えると言っておいて途中でそれが減額されたり貰えなくなったり、払い続けてきたのにちょっとも貰えなかったら誰だって怒るわ」
女勇者は国民年金を払っているように見えないが……触れないでおこう。
「その通りだ。裏切られたことになる。だから、レベルダウン制度なんかを適用するのであれば、前もって告知しておくべきなのだ」
「チャチャチャチャッチャッチャ~! 下がるかもしれないけどレベルが上がった! とか、チャチャチャチャッチャッチャ~! いずれは必ず下がるレベルが今だけはとりあえず上がった! とか?」
「……喜び半減だぞ」
下がる下がると言えば言うほど喜びは減少してしまう。
「でも、魔王様の言いたいことも分かるわ。レベルダウンが嫌ならレベルアップし続ければいいじゃない」
「それが、そうもいかんのよ」
今はレベルアップするような敵はいない。魔族に危害を加えようとしない人間を倒すと魔王様に怒られるのだ。
――魔王様は絶対平和主義者だから。
「本来であれば四天王の私がのほほんと女勇者とお茶をしていてはいけないのだ」
不倶戴天の敵同士でなければならないのだ。それなのに、魔族と人間は大きな戦いをせず平和な日々を……ぬるま湯のような日々を送っている。
戦いのない世界において、いったい何でレベルアップをすればよいのだ。地を耕すか。女勇者と一緒にこの荒地を? ……地味な作業だ。腰にぶら下げている白金の剣が泣いている。
「あー! だったら、魔王様を倒せばいいじゃない」
「……。それは問題発言だぞ女勇者よ」
軽々しく言うが、すっごい問題発言だぞ。名案と言えば怒られるだろう。
「だったら魔王様も気付くわよ。『レベルダウンなんて言って悪かった』って」
半ば脅迫まがいのことを笑顔で言うなと言いたい。だが、女勇者の目標も打倒魔王様なのだ……。勇者の最終目標はそれでなくてはならない。
勇者が国王討伐を目標になどしてはならない……ドス黒い。
「手伝ってあげよっか?」
「冗談はよせ。私は魔王様に絶対の忠誠を誓っているのだ。女勇者よ、お前の策にやすやすと乗るような宵闇のデュラハンではない。魔族の忠誠心と団結力は――無限だ」
無量大数よりも大きいのだ。
「でも、デュラハン一人では帰れないんでしょ」
「……」
「わたしの瞬間移動なら、魔王城の玉座の間まで今すぐ帰れるよ」
私には魔法が使えない……。
「……頼む」
ニッコリ微笑むと、女勇者は瞬間移動を唱えた。
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