公文書?
とりあえず人間界の国王がいる城へ向かった。年老いた国王のことだ、レベルダウンされるなんて話を聞けば驚愕することだろう。……失禁は勘弁してほしいが。
聖王の宮殿とは違い、久々に城門を通るのにも緊張してしまう。
「どうぞお通り下さい」
「ご苦労様」
以前、人間界の国王を悪い勇者から救ったことがあり、それからは顔パスで城門を通してくれるようだ。ありがたい。
「顔がないのに顔パスって……プププ」
「シー! 笑うと聞こえるだろ」
「……」
ごっそり聞こえているぞ――。悪口はせめてもう少し離れてから言って欲しいぞ。
あえて聞こえるように言っているのなら、凹むぞ。
城下町は普段の賑わいを見せている。平和な日が続いているおかげだ。つまり、魔王様のおかげなのだ。
武器屋と防具屋が少し寂れているが……それは良いことなのかもしれない。戦いに使う武器屋が大繁盛していてはいけない。ガンショップで銃が売れたり、観光地の土産物屋さんで木刀が売れたりすれば、必ず揉め事の火種となる……。「なんで修学旅行のお土産に木刀なんか買ってきたの!」と母親に叱られるのだ……。返してらっしゃいと言われても無理な話だ。三角形のタペストリーペナントも、なぜか叱られる。冷や汗がでる、古過ぎて。
父親も買ったことがあるに決まっている……。
お城に入ると国王がいる玉座の間へと通してもらった。重要な話があると兵士をそそのかしたのだ。いや、レベルダウン制度って、どう考えても重要な話だ。
「目通り感謝する。久しいな国王よ」
「久しぶりだな……えーと? デュラハン殿!」
名前を忘れていたのだろう。こんなに印象的な姿のモンスターなのに。どうせ「顔無しのデュラハン」で覚えていたに決まっている。
「先日はどうも。儲かりまっか」
「ボチボチです。じゃなく! 大変だぞ国王よ、我ら魔王様がレベルダウン制度を強行しようと考えているのだが、人間共はレベルダウンについてどう考える」
「――なんじゃと!」
国王は玉座から飛び上がった。ご老体なのに考えられない運動神経だ。座ったままジャンプ。
「魔王様はこうおっしゃるのだ。『日々の成長がなくなった時点で、レベルはダウンするのだ――』と。さらには魔王様自らのレベルが下がるのも覚悟している。これはやばいと思わぬか」
「やばいよやばいよ」
冷や汗が出る、哲郎か! 国王も冷や汗をダラダラ流し、隣の侍女がウエスでゴシゴシ拭く。ウエスはハンカチーフではない。
「わしなんか、玉座でほぼ寝たきりの老いぼれ老人だから、レベルダウン制度なんて発動したら……即刻、玉座から老人ホームへ直行じゃ!」
「でしょうね」
周りの兵士や侍女がみんなニヤニヤしているのが微笑ましい。……はよ行け思てる。
「では、国王もレベルダウン制度については反対との意見でよいか」
「当然じゃ! なあ、皆の衆!」
「……ええ」
「……まあ……そうっスね」
侍女や衛兵騎士が渋々賛同する。微妙で曖昧な返事をする~!
「はっきりせぬか――! レベルダウン制度などが採用されれば、ここでダラダラ国王の世話をしているだけでは、レベルがガンガン下がっていくのだぞ――!」
無駄とは言わないが無駄なことをしていると認識されるのだぞ! 日々成長しないから――!
「――は、はい!」
「レベルダウン反対です~!」
「それでいい」
少し熱くなってしまったのが恥ずかしい。
「それでは公文書を書いて貰おう」
証拠がないと魔王様がおだだをおこねになる。だだこねる。
「……もう字が書けんのじゃ」
……。国王様リライト!
「仕方がない、私が代筆で書いておこう。ハンコとかは……ある?」
国王のハンコ。
「こちらにございます。端っこに国王様のハンコだけ押した紙が用意してありますので、後はデュラハン様にて自由にお書きください」
侍女が真っ白な紙の左下に「国王」の捺印がされた紙を手渡してくれた。
「助かる」
「毎日こんな事ばかりしています」
侍女がニッコリ微笑む……。
毎日国王の世話をしているだけとは……レベルダウンはなくても、レベルアップもないのだろう。
「お互い頑張りましょ!」
「……?」
なんか……励まされちゃってる?
めっちゃ嬉しいのに、めっちゃ悲しいのは何故だろう……。
国王の城をでると、久しぶりに女勇者のところを訪ねてみた。
本来であれば、レベルアップやレベルダウンは「勇者」にこそ影響があるはずなのだ。逆に考えれば、魔王様や国王や、モンスターのレベルなど……どうでもいいのではないのだろうか。
お城から数十キロ離れた荒れ果てた地にあるポツンと一軒家。せめて城下町などに引っ越しして勇者らしい生活をせよと指摘したい。
コンコン。
あまりノックすると扉が壊れそうだ。薄いべニア板だ。
「誰だ!」
「魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンだ」
ガタガタッっと中から音がする。安心しろ。私は紳士な騎士。ジェントルマンナイトなのだ。今日は一戦交えに来たのではない。
敵襲ではない。
「え、デュラハン! ……ちょっと待って! 今……ドラム缶のお風呂に入っているんだから!」
「そんなことを言って老若男の人気をかっさらおうとするな!」
ドラム缶のお風呂って……反則だぞ。
だが、私が興味があるのは……。
「どうせ女子用鎧だけだ。でしょ」
小屋の中から聞こえてくる。べニア板の壁だから声がよく聞こえる。
「その通りだ。先に言うでない」
でも、なぜだろう。脱いだ直後の女子用鎧は……いかん、想像すると理性を失いそうだ。こっそり持って帰り部屋の壁に掛けて女子用鎧コレクションを増やしたい。
除菌スプレーでベチョベチョになるくらい徹底的に除菌したい――! 汗かいたまま放置すると必ずカビるから。点々と黒くカビるから。
バシャ―。バシャ―。
……わざわざ音を出して好感度を上げようとするなと忠告したい。PV値上昇に貢献するのはありがたいのだが、やはり女勇者は魔王様の敵なのだ。
シュルシュル……シュルシュル。
「……」
これに比べて……毎朝、有機溶剤を染み込ませたウエスで全身鎧の体を拭くシーンなど……なんの魅力もないのだろうなあ……。
仕事を終えたおっさんサラリーマンが帰る前にメンズボディーシートで体を拭くようなものだ……。
見たくも痒くもない。
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