レベル0のスライムとは
玉座の間を出たところでスライム達と出会った。
魔王城内にいるスライム達は、ほぼレベル1なのだ。弱いモンスターがやられないように魔王城内で保護するとおっしゃる魔王様の考えは正しいのだが……。
「あ、デュラハンだ」
「おーい、デュラハン」
……レベル1のスライムに四天王である私が呼び捨てにされていていいのだろうか。いや、よくない。教育ができていない証拠だ。
「レベル1のスライム達よ。私のレベルは無量大数なのだぞ」
魔王様張りに盛ってみた。
「うわー。無量大数って、ダサ!」
「――ダサいって言うな!」
まったく! 口の聞き方に気を付けろと言いたい。
「それよりデュラハン。僕達って、もしもレベルが下がるとどうなっちゃうんだろう」
「なに?」
さっきの魔王様の話だと、魔王城内で毎日遊んで暮らしていれば……確実にレベルダウンされてしまう……。だが、なぜその話を知っているのか……。ひょっとして、盗み聞き?
「なぜレベルダウン制度の話を知っているのだ」
「なぜって、玉座の間の大きな扉はいつも開けっ放しだから、部屋の外まで話し声が筒抜けだよ。なー」
「うん」
「……」
情報だだ漏れ状態。風通しの良い環境か……。
「ひょっとして、レベル0になるのかなあ……」
「レベル0のスライム――!」
最弱よりもさらに最弱――微弱?
ひょっとして、ゼラチンを添加しなければ固まらないのではなかろうか……。牛乳多目のフルー☆チェのように……冷や汗が出る。ボウルで食べたくて……。
「そんなの嫌だよ! せっかく頑張ってレベル1になったのに!」
「――頑張ったの?」
レベル1になるのに頑張らなくちゃいけないの? 生まれ時からレベル1なんじゃないの? 生まれたてはレベル0なの――!
「それに、もっとレベルダウンすれば、レベルマイナス1になるの?」
「……」
ちょっと待て。頭が痛くなってきたぞ。
ややこしいぞ。レベルマイナス1のスライム。経験値も所持金もマイナスなのだろうか。倒せば倒すほど経験値がマイナスになりレベルダウンにつながるスライムって……どうなのだ。ガムのように靴底にまとわり付くスライムとか、剣を振らなくても倒せてしまう邪魔キャラとかなのだろうか。
レベルマイナス1のスライムって、じつは最強かもしれない。「スライムが現れた! と思ったらスライムを倒した。経験値0ポイントと0円を手に入れた」……か。
だったらなぜ現れた――! わざわざ戦闘の曲を流すな! ローディング時間も無駄無駄無駄無駄! そんなスライムが歩くごとに現れれば、勇者はやる気を失うに決まっている。RPGであれば、序盤でプレイヤーはコントローラーを投げ捨てることだろう。冷や汗が出る。高いコントローラーが壊れそうで。
「ありかもしれないな。レベルマイナス1のスライム」
「それはないよ~!」
「酷いよ! いつもいつも」
いつもは余計だぞ。言い出したのは魔王様だぞ。
「レベルダウンするのが嫌なのであれば、毎日魔王城内で遊んでいるだけではなく、たまには体を鍛えるのだ」
「どうやって」
「私と一緒に城内を掃除すればいい」
楽しいぞ。トイレ掃除やお風呂掃除や排水溝のドブさらい。やっていて達成感がある仕事だ。
「……」
「デュラハンは……レベルダウンしなさそう……」
「その通りだ」
スライムに褒められると嬉しいぞ。
私は褒められて伸びるタイプなのだ。
「ヒック。あ~らデュラハン。おはよう」
「……サッキュバス」
片手には赤いワイングラスが握られている。酒を飲んで階段を歩くといつかは蒲□行進曲のように階段を転げ落ちるぞと忠告したい。……冷や汗が出る、古過ぎて。
「また朝から飲んでいるのか、サッキュバスよ」
酒臭い。淫らな服装で接近してこないで欲しい。目のやり場に困る。
「朝からじゃないわ。昨日の……ヒック、夜からよ」
「昨日の朝からの間違いではないのか」
話している途中でしゃっくりするのはやめて欲しいぞ。
「ヒック、ヒック、ヒック、ヒック」
「やめい!」
しゃっくりが止まらないのって、凄く気になってしまうから――! 読んでいるだけでも引くから。冷や汗が出る。
「あーまた、ヒック、胸元見て、ヒック、たでしょう」
「見ておらぬ」
サッキュバスもレベルダウン確定だな。
「ちょっと大きくなったでしょ。ヒック」
んん? レベルアップだと。
「なってない。錯覚だぞ」
「やっぱり見てたんだ~。このデュラハン~!」
このデュラハンってやめて――! せめてこのエッチとか変態とかにしてくれ。デュラハン≒エッチ≒変態にしないでくれ――!
「毎日飲んでばかりだと魔王様にレベルダウンされてしまうぞ」
我らの魔王様はそんな怖ろしいことを口ずさんでいたんだぞ。……さすがは魔王様と称賛すべきなのか。
「大丈夫よ。ヒック。わたしはこうやっていつも肝臓を鍛えているんだから。ヒック」
酒飲んで肝臓は鍛えられないぞう――。おっさんみたいなことを言うなと言いたいぞう。
「鍛えるのなら横隔膜を鍛えるがいい。シャックリは横隔膜の痙攣なのだ」
鍛えられる部位かは知らぬがな。
「ヒック」
「豆腐の原料はなんだ」
「――?」
急な問いかけにサッキュバスはキョトンとする。
「早く答えよ」
「……豆? ……ヒック」
「では、卵豆腐は」
「……卵と出し汁?」
「では胡麻豆腐は」
「……胡麻と葛粉?」
「酢味噌に合うのは」
「――ホタルイカ! あ! シャックリが止まっているわ!」
「フッ。楽勝だな」
宵闇のデュラハンに不可能はないのだ。
お礼に胸のところにベットリキスマークを付けるのはやめて欲しかった。口紅は落ちにくく他のモンスターに見つかると恥ずかしいから……。こっそりウエスでゴシゴシ拭いたのは内緒だ。
四天王の一人、巨漢のサイクロプトロールは必死に筋トレをしていた。
魔王城内には魔フィットネスクラブがあるのだが……値段が高いので私は入会していない。月に一万二千円なら……他のことをして鍛練したい。洗濯や掃除や買い物や洗車や……。
「毎日トレーニングをしているのだ。俺のレベルは下がるはずがない」
重そうなダンベルを何度も上げ下げしている。……3キロぐらいはありそうだ。冷や汗が出る。
「しかし、毎日同じトレーニングをしているなら、いずれはレベルなど上がらなくなる」
プロテインを飲み過ぎると下痢する。そのまま……出る。
「上腕二頭筋のレベルが最大になれば、上腕二頭筋のレベルを上げればいいのだ!」
……?
「ハッハッハ? おお、喜んでいるぞ、俺の上腕二頭筋が! お前もそう思うか!」
上腕二頭筋っていくつもあるの? 右と左のことだろうか。全身金属製鎧だから筋肉ってあまりよくわからないぞ。
「筋肉に上限などない! 毎日鍛えるのみ! ハッハッハ! おお、おおおおお前もそう思うか!」
「……」
プロテインを飲み過ぎて脳みそも筋肉になりつつあるのだろうか。それとも、筋肉もレベル無量大数まであるのだろうか……。羨ましいぞ。全身金属製鎧の私は鍛えてもどこも太くならない。
テカテカの小麦色にもならないから……。
最後にソーサラモナーの部屋に行き、レベルダウンについて聞いてみたのだが、やはりソーサラモナーもレベルなんてどうでもよさそうだ。
「別にいいんじゃないのか。レベルなんて自己満足だろ」
「……」
自己満足とか言われると、魔王様とレベルが無量大数だと張り合っていたのが……なんか恥ずかしい。今日もプレ☆ステ4のコントローラーを握ったまま、こちらを見向きもしない。新作が出ると飽きるまでしばらくはこうなのだ。いかがわしい! いや、失礼甚だしい!
ゲーマーだからこそレベルにもっと執着心があると期待していたのに~。
「がっかりだなソーサラモナーよ。お前のレベルは四天王でも最下位だ」
「無量大数と比べれば最下位で構わないさ」
「……」
なんで個室にいて俺達の話を知っているのだ……。ひょっとすると、魔王城内のあちこちに盗聴器やそれに類する怪しい魔具を仕掛けているのではあるまいな……。
もし、そうなら――! 今後は魔会議の議事録をソーサラモナーに作らせてやる! 必要もないのに毎回毎回作らされる議事録……魔議事録を――!
はあー。ため息が出る。
魔族だけがレベルダウンするのであれば不公平だ。人間界の勇者や国王も同様でなくてはならない。
それなら人間界でも意見集約する必要がある……か。
――!
我ながら名案だ。絶対に反対意見多数のはずだぞ! つまり、私の味方で魔王様の敵。……魔王様を孤立させ、各個撃破するチャンス到来だ。
ソーサラモナーにこっそりお金を渡し、人間界へ瞬間移動で送ってもらった。
私は全身鎧の騎士だから魔法は全く使えないのだ。
読んでいただきありがとうございます!
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