その6
あの日から奏は少し変わった。なんかふっ切れたと言うか奏の切り返しの早さに少し驚いた。でも気まずくなるよりは良かったかなと思う。
あの時ほんの少し…… ほんの少しだけ俺は奏ならいいんじゃないかと思ってしまった。断ったくせにバカなのか俺は。
そして奏は本当に俺の分の弁当を作ってきた、それに昼休みになると……
「優!お昼ご飯一緒に食べよう?」
いつもは学食か母が作った弁当をヒロキら仲良くなった奴らと食べていたが俺の手を引っ張る。
「中野君、優をお借りします。」
「もしかして2人とも付き合ってる?」
「はぁ?何言ってんだよ?」
「いや、なんとなく雰囲気で」
「んなわけ……」
奏に同意を求めると顔を真っ赤にして下を向いている。
「白石、優のことならお構いなく、どこでも連れてっていいよ」
「ありがとう、中野君。優行こっ!」
いそいそと俺の手を引っ張って屋上への階段を登っていく。
屋上のドアを開けると眩しい太陽が俺たちを出迎えた。ここはよくカップル達が昼休みに自分達の時間を過ごしている。
今日も数組のカップルがイチャついていた。
「優、こっちだよー!」
奏は屋上の隅っこに俺を連れて行き床に腰掛ける。
「じゃーん!今日は気合い入れて作ってきたんだよー」
奏は自慢げに弁当を広げた。気合い入れて作ったと言うだけあって美味しそうだ。見たところ冷凍食品などは使わず全部作ってるみたいだ。何時に起きてんだ?奏は。
「奏、これ作るの大変だろ?」
「んーん、優のためなら全然苦にならないよ?どっちかって言うと嬉しいしそれにね、お料理の腕も上げたいから丁度いいんだ…… もしかして重たかった?」
「いや別に」
「そっか、なら良かった」
楽しげに奏は言う。女の子って結構大変だな。好きな人のためにここまでできるのかと感心してしまう。その行為を受けている俺はいまだにこんなに煮え切らない態度で奏はいつ愛想を尽かすんだろうと考えていると、
「優、どうでもいいこと考えてるでしょー?そんなことより食べて食べてっ」
なんとなく考えている事がわかったらしい奏が弁当を勧めてくる。奏って1年の頃から俺をよく見てるだけあってなんとなくそういうとこはわかるんだな、下手なことは出来ないなと思ってしまった。
弁当の唐揚げを箸に取り口に入れる。文句なく美味しい。玉子焼きも食べてみるとしっかり出汁巻玉子だ。どんだけ凝ってるんだ?でも美味しい。
「美味しい?」
横からヒョイと顔を覗かせてジッと奏はこっちを見ている。
「あぁ、美味しい。奏は将来いい奥さんになれるかもな」
「でしょー?凄い頑張って作ったんだから!優のためじゃなかったらここまでしないもん、えへへ。そうだ!今度優の家にも行ってみていい?あ!それとどこか遊びに行かない?」
「んー、そうだなぁ」
「ダメ?」
ダメと言ったら不味いような気がしたから……
「いいよ」
「やった!」
「じゃあ次の土曜日な」
「絶対だよ?嘘ついたら許さないからね!」
やれやれ、なんか奏に誘導されてる気もするがいいか。