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その41


昼休みが過ぎて五限目の授業も終わり奏も今井と話しているのでボーッと膝を着いて外を見ていた。



「いつもながら腑抜けた顔してるわね、それに奏と付き合い出してから皆の前で無理矢理テンション上げたり変に明るいキャラとかしなくなったわね?」

「大体わかってるくせに何を今更。つーかお前こそ人のこと言えないだろ」

「私はもともと冷静寄りだし」



いやまぁ今振り返ると恥ずかしい限りだけどな、皆にいい顔して気が効く奴みたいな感じに思いたかったのかもしれない。



奏にも見透かされて神城にも見透かされた今となっては揶揄われるネタにしかならない。そんな俺は今は付き合いの悪い奴に思われて……



いやそれはないか、奏と付き合ってるなんて公の事実になってるし。



「あ、ほら。足立君にお熱な彼女が戻って来たわよ」

「え?奏?」



と思ったら新垣だった。つーかその言い方俺に新垣を意識させようって魂胆か?



「え?な、何…… か?」



俺が神城のせいで新垣が戻って来るのをちょうど振り返って見たせいで少し新垣は身構える。



「いやなんでもないよ、ただ気配がしたから振り返っただけ」

「あ…… そ、そうだよねごめんなさい」

「クスクスッ」



神城の奴はそんな俺と新垣のやり取りを見て笑っていた、お前のせいだかんな?

ムカついたので俺も揶揄ってやるか。



「神城」

「何かしら?」

「お前普段無表情でクールぶってるけど笑ってる顔なかなかいいと思うよ」

「え?」



そう言った途端神城は真顔になりピシャリと俺と神城の間に見えないヒビのようなものが走った。



げ…… 揶揄うつもりがドン引きさせたか?



「ふふッ、よく言われる」

「は?じゃあ今の間は?」

「そうねぇ、奏に足立君に口説かれたって言っちゃおうかなって思っただけよ」

「ごめん、勘弁して下さい」

「これに懲りたら調子に乗らないことね」



そして神城は前を向いた。



ふぅー、また前みたいなことになったら困るからな危ない危ない、結局返り討ちかよ。



それからゆったりした日々が流れて文化祭も過ぎて12月中旬、冬休みが近付いて来た頃……



「優〜!帰ろう」

「あ、悪い奏、俺今日は日直なんだわ」

「ん?そうだったね。なんかさっき進路希望のプリント集めといて職員室に持って来て言われてたもんね。あ、でも私も付き合おっか?どうせ終わるまで待つし」

「まぁそれでもいいけど」

「奏〜、あんた暇してんなら私に付き合いなさいよ」



急に今井が話に入ってきた。あれ、ヒロキは?と辺りを見回すが居ないみたいだ。



「中野君は?」

「ちょっと今日はね、だから私に付き合いなさい。足立君、奏借りるけどいい?」

「え?ああ、まぁ」

「やったね!てことで今日は私の奏ってことで」

「へ?ちょっと佳菜ぁ〜!」



あっという間に奏は今井に連れされてしまった。



なんなんだ?と思いつつ集めたプリントを揃えていると横からまたプリントが置かれた。



「これ…… 私が集めた分」



遠慮しがちに現れたのは新垣。そう、俺と一緒の日直はこいつ。



「あ、お疲れ新垣。あと俺がやっとくから帰ってていいぞ、バイトあるんだろ?」

「ううん、私も一緒に行く。それくらいの時間ならあるし…… 足立君に悪いし」



別にいいのにと思ったけどそう言うならと新垣と一緒に職員室に向かいプリントを先生に提出して用は済んだし帰ろうとしたところ……



「足立君」

「なんだ?」

「白石さんとどう…… かな?」



どう?どうってなんだ?概ね順調って聞いてるのか?



「えーと奏とはいいよ?」



いいよって俺こそその答えはなんだ?と自問自答する。



「…… 白石さんこんな私にも優しいしそれに綺麗だし私なんかとは比べ物にならないよね」

「新垣?」

「あッ!ごめん、な、なんていうかその…… 日直も白石さんとの方が私なんかよりも良かったかなぅて」

「新垣さ、私なんかとか言ってるけどそんなに自分を卑下するなよ」

「だって私…… こんなんだし」

「それだったら俺もこんなんだし」

「え?あ、足立君はそのままで十分す、すす…… 素敵」

「へ?」



足が止まりシーンとした空気が俺と新垣の間に流れる。



どうすんだよ?シーンとしちゃったしこれなんて返せばいいの?ええと…… 前の俺なら。



「だ、だろぉッ!?」

「う、うん……」



肯定された…… 新垣にツッコミめいた返しを期待するのが間違いだった。



「んなわけないって、ははは……」



そして自分で否定、虚しい……



「私って一緒に居てつまんないよね」

「いやいや、そんなことはないって。新垣真面目だし一緒に日直やったりしてくれると凄い助かるっつーか」



なんつうか……



「やっぱり」

「??」

「足立君は前からずっと優しいな、前も今も私にも変わらず接してくれて」



それは違う、俺は誰にだって真剣に向き合わずに体良くあしらってただけで。



「あのね…… わた、私…… 足立君のことが」

「わ、悪い!ちょっと今は都合悪くてッ」

「え?…… あ、うん」



新垣は何か言うつもりだった。何かってのは俺の勘違いとかそういうのじゃなければ察しがついていた。だから俺はその場から逃げた、奏を悲しませたくないから?あそこまで言う新垣を傷付けたくなかったから?自分が嫌な奴になりたくなかったから?そんな思いで昇降口まで行くと……



「足立君」



振り返ると神城が立っていた。



「神城?」

「つくづく失望させてくれるわね」



神城は俺を嵌めた時のような冷たい目を向けていた。

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