その32
「あーん、どうしてこうなっちゃうの」
「どんまい奏」
「大丈夫か歩けるか?」
「まったく足挫いちゃうなんてドジなんだから奏は」
ある日奏が体育の授業中に足を挫いたみたいだ。大したことはないみたいだけど念のため今日は早退して病院に行くことになった。
「優〜」
「ああ、流石に俺は付き添いで早退出来ないけど連絡するからさ、な?」
「うん」
「お前らどんだけ惚気てんだよ?」
「奏が足立君を好き過ぎるからねぇ、足立君依存症になってるんじゃない?」
「うぅ〜ッ!なってちゃ悪い!?」
「開き直んな!奏はとっとと帰りなさい」
昼休みに名残惜しそうに帰って行った奏を昇降口まで送って行って席に戻ると神城さんがクルリとこちらを向いた。
「白石さん大丈夫なの?」
「ああ、足以外は元気いっぱいだよ」
「そう、彼氏さんもずっとベッタリされて大変ね?」
「いやそういうわけじゃ……」
「ねぇ、私が息抜きさせてあげようか?」
「は?」
何言ってんだ?
「今日放課後になったら私と待ち合わせしない?」
「何を……」
「この前2人きりで会った科学準備室でね、もし来なかったら白石さん泣いちゃうかも」
「そしたら神城さんも学校に居辛くなるかもよ?」
「どうぞご勝手に」
「なッ!?」
神城さんは夜遊びしているってことをバラしても構わないという顔だ。俺がそれより奏を悲しませたくないと踏んでのことなんだろうけど……
「…… わかったよ」
「素直でよろしい」
昼休み終わりになり新垣が戻って来ると神城さんは自分の席の方へ向きを戻した。
ああ、クソッ!ここ数日はあの時のことを振り返さなかったのに…… ん?ふと横から見られている気がしたのでその視線らしきものに目をやると新垣。
なんか俺ここの席になって初めて物凄く息苦しさを感じる、新垣へ意識をやる余裕もないので俺はぶっきらぼうにそっぽを向いた。
そして放課後になる、その間俺は神城さ…… いいや神城の誘いのお陰でずっとモヤモヤしてたんだ。違うか、あの時からだ。そのせいで奏にも変な遠慮みたいなのもしていて奏も薄々違和感を感じているはずだ。
俺は考えていると段々腹が立ってきて準備室に向かう足にも力が入る。そうして準備室のドアを開けると待ってましたと神城がクスッと笑い俺を迎い入れる。
「待たせるじゃない」
「奏が居なくなった途端誘うなんて姑息だよな神城」
「怖いわねぇ、もしかして怒ってる?」
「怒らないと思ってるのか?」
「だってあなた達見てると滑稽で、ふふふッ」
その言葉にカチンときて俺は神城の肩に触れると神城は「キャアッ」と声を発しその瞬間制服のブレザーとシャツが裸けて肌が露わになった。
え…………?
「お、お前何を!?」
神城はニヤリと笑い頭をクイッと動かして後ろを見ろと言わんばかりの顔をしたので後ろの棚の方へ目をやるとそこにはビデオカメラが置かれていて一瞬で俺は事態を察知した。
「あー…… 足立君」
「ち、違う、これはッ」
俺は棚のビデオカメラを慌てて掴み取るとしっかりと動画を撮られていた。削除と思って操作しようとすると神城に腕を掴まれた。
「大声出されたい?今ここで」
「お前……… 最初からこのつもりで?」
「策士でしょ私?でもここまで上手く引っ掛かるなんて思わなかったわ、そんなに頭に血が昇ってたのかしら?」
「これ…… 消させてくれないか?」
「言ったよね、大声で出すわよ?」
終わった、まさかこんなのに引っ掛かっちまうなんて。俺は血の気がサーッと引いていきさっきまでの怒りもどこかへ行ってしまっていた。
「………… どうしたらいいんだよ」
「そうね、まずは白石さんと別れてもらおうかな?」
「は!?お前ッ」
「言っておくけどここで私に騒がれてあらぬ勘違いを受けて白石さんに伝わってショックを受けるのと動画をバラされてショックを受けるよりかは自分から別れを切り出してその他のことでいらない衝撃を生むよりはまだいいと思うけど?」
こいつ…… どれを選んでもどっち道奏を悲しませるだけじゃないか。
「さあ、どうするの?」
「わかった」
「何が?」
「奏と…… 別れるよ」
「うん、それがいいと思うわ」
俺はそう言って力なく準備室から出て行った。




