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その26


奏は岬にビンタした後風邪がぶり返したのか緊張が解けたのかへたり込んでしまった。



「奏もう帰ろう?風邪ひいて休んでて奏がいなかったら奏の両親心配するだろ?」

「うん、それより優の怪我の方が心配だよ?うちに来て」

「大丈夫だって、後はあいつだな」



岬を見つめるが余程奏にビンタされたのが堪えたのか下を向いてダンマリしている。



「おい、大したことにならなくて良かったな。これに懲りたらこれから少しは大人しくしてろよ?俺らは帰るけどお前も一応心配だから一緒に来いよ」

「一応なんだあたしは?あーそうですよね!」



すると岬は素直にゆっくり立ち上がり俺について来た。フラフラな奏を歩かせるわけにはいかないのでおんぶする。



「優だって怪我してるのに私ばっかり悪いよ」

「それにしたって奏ほどフラフラじゃないよ、それにこれ以上何かあったらもう手に負えないから我慢してくれ」

「…… うん」

「はんッ!なーにが…… う………… ごめんなさい」



岬は何か言おうとしたが奏にジロリと睨まれたのか黙った。



土手を上がってコンビニに着く。

岬の家はコンビニの先なそうだ。5分くらい歩くともうすぐそこだからここまででいいと岬は言った。その時俺の肩に手を掛けていた奏の手が強くなった。



「岬ちゃん、さっきは叩いてごめんなさい。だけど私のことはいいけど優をバカにしたりするのはやめて」

「ふん……」

「お前も今日は散々だったな、まっすぐ帰れよ」

「お前じゃない!み・さ・きッ!」

「ああ、じゃあな岬」

「べーッ!」



最後まで悪態ついているのはこいつらしいけど内心落ち込んでるんだろ多分。



逆方向ばかりに行ってたのですっかり奏の家から離れてしまった。少し急ごう。

今日はやけに体力使うことばかりだ。



「優、そんなに急がなくてもまだママも帰ってきてないと思うから大丈夫だよ?」

「はぁはぁ、そうなのか?じゃあもう少しゆっくり行くか」



少しペースを緩める。



「ねぇ優、優って凄いね」

「何が?」

「橋の下でのこと。スマホ持ってたって事は私の家に寄ってそれから探してその間に私たち絡まれてて優からしてみれば時間なんてほとんどなかったはずなのによく思いついたね?私だったらあんなに手際よく思いつかなかったかも」

「ああ、俺も不思議だよ。まぁ相手がすぐ退いてくれてよかったよ、本当は警察とか真っ先に呼んだ方が良かったんだろうけどそうなったら聴取とか取られて奏の両親とかに心配かけるだろ?ただ警察呼ぶかどうかの判断は1番迷ったんだ。あいつらが仮に捕まっても恨み買われて仕返しされたら結局また奏に危険が及ぶかもしれないし。だったら証拠だけ取ってあっちからも関わりたくないようにした方がいいのかもって思ってさ。でもそうならずに呼んでればよかったって後悔する可能性があったし。もしそうなったら……」



言葉に詰まる。本当に危なかったのだ。

スマホを忘れていって良かった、それがなければ気付きもしなかった。



それに奏を探し回ってる時今井にもヒロキ伝で何か心当たりないかと聞いたしあいつにも心配掛けたと思うから言っておかないとな。



「優、本当にありがとう。そこまで考えてくれたんだね。私は例えどっちになっても優が助けに来てくれただけで涙が出るほど嬉しかったよ」



チュッと奏が頬っぺたにキスされた。はぁ、まぁなんとかなって良かった。



「優、本当にいいの?怪我してるのに…… 唇切れてるよ、大丈夫なの?うちに寄って手当てしなきゃ」

「いいよ、手当てするほどじゃないよ。それに奏はもう寝た方いい。ただでさえ無理してるんだから」



でもでもと言う奏を強引に部屋に連れて行きベッドで寝かせた。疲れたんだろう?案外すぐ寝てしまった。奏の頭を撫で奏の家を後にした。



俺も今日はかなり疲れた。早く帰って休もう。気付けばすっかり日が落ちていた。








◇◇◇








あの日あたしは奏先輩にぶたれた。しかも思いっきり。奏先輩って意外と容赦ないんだな。首から上ふっとんだと思うくらい強烈なビンタだった。



オロオロしていた奏先輩しか見てなかったから怒られてすっかり縮こまったあたしはごめんなさいと呟いていた。



今までチヤホヤされててあたしのわがまま気ままでどうにでもなると思っていたんだけどやっぱり通用しない時もあるんだね、皆あたしが甘えれば許してくれたのは運が良かっただけなんだ。



だから嫌いだった奏先輩にぶたれて怒られた時は相当ショックだった。でもだからって奏先輩をもっと嫌いになったというわけでもない。



なんなんだろう?よくわからない。

もう嫌いなのかどうなのかもわからない。だから奏先輩にもう一度会いに行こうそうしよう。



そして奏先輩の家にお見舞いという事でお邪魔した。奏先輩はまたあたしが現れてビックリしていた。まぁそりゃあそうか。



「なんですか?人をお化けでも見たかのように見て!」

「み、岬ちゃんが来るとは思わなくて」

「相変わらずムカつきますね奏先輩は!」



そのまま奏先輩の部屋に行き奏先輩のベッドに座った。



「喉乾いた!」

「え、えっと何か飲む?」

「暑いからアイスティー!」



そう言うと奏先輩はいそいそと階段を降りていった。こんな人にあたしはぶたれたのかと思う。



「はい、どうぞ」



奏先輩がアイスティーを持ってきた。ひとくち飲んだ。



ん?奏先輩がこちらを見ている。



「なにか?」

「あっとその岬ちゃんがこの前のことで落ち込んでなくて安心したっていうかなんていうか」

「はぁ?はぁああッ!?」



あたしをぶったくせにぶったくせに!なんてね、自業自得ってことか。



「なんかつまんない!帰る!」



あたしは急に恥ずかしくなってそう言い玄関に向かった。



「待って!岬ちゃん!」



奏先輩が後ろから追いかけてきた。



てか何しに来たんだっけ?ああ、ちゃんと謝ろうと思ってたんだ。



「奏先輩!この間は本当にすみませんでしたッ!」



そして奏先輩の家から出て歩いていると……



ウゲッ、優先輩がいる。後その他2人、奏先輩の友達か。嫌なとこで会ったなぁ。しかもなんか優先輩の横の2人あたしを見てハッとしてるとこを見ると事情を察してるっぽい。



案の定奏先輩の友達の女性があたしが近付く度に表情が怖くなっていく。でもあたしは何か文句でも?と言う態度で堂々と横切った。



「ちょっとあんた!」

「いいよ今井」

「はぁ?」

「謝りに行ったんだよ多分」



そんな声が聴こえてきてあたしは恥ずかしくなってきてその場からダッシュで逃げた。



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