その12
晴れて奏と付き合うことになった土曜の夜、奏はスキンシップを沢山とるようになった、俺の腕に抱きついて離れない。
「いい加減離してくれないと何もできないんだけど?」
「私ずーっとずーっと優に振り向いてもらうためにこうするの我慢してたんだよ?お願いあと3分だけこのままいさせて。それに優何もしないじゃん?」
「それ一体何回繰り返すんだ?もう十数回聞いた気がする、てか何もしなくていいって言ったのお前だろ?」
「あー言えばこー言う!まぁ優は怪我人だからねー、私に任せて」
もう1時間くらい俺にひっついて離れないが時計を確認して「あー、もう5時過ぎかぁ」と呟くと奏はやっと離れて夕飯の支度を始めた。
「優、何食べたい?でも今日そのまま帰ってきちゃったから私が昨日まで使った食材の余り物しかできないけど‥」
「奏が作ってくれるなら何でもいいよ?」
「うーん、じゃあお鍋にしよう!」
奏がキッチンで準備している間俺はトイレに向かった。いててッ、蹴られた場所を確認するとしっかり痣になっていた。
あー、こりゃ痛いわけだ。
確認し終わりトイレから出てスマホを見ると母さんから連絡が来ていた。父さんはまだ出張中だから明日は母さんだけ帰ってくることになる。
母さんに今週はずっと奏が来ていて夕飯なり洗濯なりお世話になってたってことを一通り連絡し返した。
奏にも言っとくか。
「奏、明日の夕方辺りに母さん帰ってくるって」
「優のママだけ?」
「父さんはまだ出張中だから明日は母さんだけだ」
「じゃあとりあえず優のママに挨拶して報告しておくね!お付き合いすることになりましたって!」
母さんに言うのか…… まぁ前から奏とはどう?などと何回も言われてたけど。
「はぁ、茶化されるからやめときたいなぁ」
「いーえ、ちゃんと言っときます!こういう機会もあるんだしうちのママとパパにも付き合ってるなら安心だねってなるし。多分優となら喜んでくれるから」
いやいや、付き合ってるから安心って変じゃないか?逆に不安になるの間違いじゃないのか?
有無を言わせず奏はそう答え再び料理に戻った。
夕飯を食べ終え奏は風呂場に行きお湯を入れ出した、相変わらずせっせと家事をこなす姿を見ていてしっかりしてるなと思う。
「優、今日は私も優の家でお風呂に入るね、少し汗かいちゃったし」
なんだと?いやまぁ泊まるんだし風呂くらいは入るだろうけど。
「お前着替えとかあんの?」
「うん、だって持ってきてるし、最初から。泊りだし」
「そりゃ用意のいいことで……」
「でしょ!」
ニカッと笑った奏を見てもういいやとなってしまった。大体家のこと奏にやらせといてあれはダメこれはダメなんて言えないとこもあるしな。
「わかった、奏には世話になってるし今日はうちで泊まれよ」
「ありがとう!優の家でお泊りだ、緊張しちゃうなぁ〜!」
そんなこと言っといてウキウキとした顔になってるぞお前。
「優、先にお風呂に入っていいよ?私お洗濯してるから」
「悪いな、じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
俺は風呂場に行き服を脱ぎ体を洗い湯船に入る。今日は1日色んなことがあったなぁとしばし考える、まさか奏と付き合うことになるとは。
奏の言う通り奏に振り向かせられた形になったが奏みたいな可愛い子にあそこまで尽くされるなんて贅沢な事なんだよなぁと思う。
そんなことを考えてると洗濯機のあたりから物音が聞こえる。あれ?今になって考えたら奏が洗濯してたってことは俺のパンツもしてるんだよな?今更の今更だが急に恥ずかしくなってきてガバッと湯船から上がりタオルを巻いて風呂場のドアを開けた。
「え?」
「あ?」
「ゆ、優?何してるの?」
見事に俺のパンツを洗濯機に入れる瞬間だった。
「あ、あ、いや、べ、別に」
あれ?これじゃあ俺変態みたいじゃないか?ヤバい、戻ろうとしたところで奏に腕を掴まれた。
「ゆ、優、そのお腹……」
ん?と思い、痣があった事を忘れてた。奏が顔面蒼白で痣を見ている。
「あぁ、これか?大丈夫。見た目は酷いけどそれ程じゃないから」
奏の指が痣に触れる。冷んやりとした指先でゾクっとした。
「ごめんね、こんなに痛そうな痕になってるなんて」
「こんなんで済んでむしろラッキーだったよ、あれが人通り少ない場所だったらこんなもんじゃ済まされなかったし」
奏の手が震えてる。思い出させちゃったな。なんか話逸らした方がいいか。
「奏に毎日俺のパンツを見られてた方が俺からしてみればダメージがデカい」
「え?あッ……」
そう言うと奏は見る見るうちに顔が真っ赤になった。
「え?えッ!?私何も変な事してないよ!?」
それ言うと変な事してなくても変な事してる様にしか思えなくなるぞ?奏は恥ずかしくなったのかダッシュでリビングに戻っていった。




