その10
奏は出掛ける前に洗濯などをしていた。すっかり奏にやる事を取られた俺はボーッと奏を見ていた。
割とこなせるんだなというのは今週でしっかりわかった。それに比べて俺なんにもしてないよな奏が来てから。こんなんでいいのだろうか?
奏がやってくれるからというのもあるけどあれかな…… ダメ男を世話したくなるタイプなんじゃないだろうか奏は?
「優、こっちは終わったよ?ってボーッとしてたでしょ?」
「あーごめん。手際いいよなって見てた」
「そりゃもう優にアピール…… じゃなかった!手際いいですから」
「そこまで言って言い直す意味あるか?」
「あはは、だねぇ。でもでも!もし優が私のこと好きになっても変わらないからね!」
なんかそういうこと正面きって言われると恥ずいんだが。
「けど損してるよな」
「損?」
「そういう労力俺に使うとこ。お前ってうちの学校じゃ結構可愛い方なのに俺みたいなのに構い過ぎて周りから噂されてんじゃん?俺と付き合ってるんじゃないかって」
「私がしたいからしてるだけだしそれがなんの苦でもないし周りから可愛い可愛い言われるたって疲れるだけだよ、それに私的には優とそんな噂流れてるの嬉しいし」
奏は言いながらニコニコしていた。俺は奏じゃないのでそこら辺はよくわからないけどそういうもんなのかな?
「よし、そろそろ行くか」
とりあえず店が開く時間にもなったしこのままダラダラしてると家から出るのが面倒に思えてくるし奏の気分も良さげで俺の中では今までの分のお礼という名目で行くことにした。
俺たちが住んでいる街は田舎すぎもせず都会すぎもせず住みやすい所だと思う。
電車など使わず徒歩でも俺たちが住んでいる住宅街から商店街まで行ける程よい距離だ。
その分いつも通りで退屈な道と言えなくもないが告白されてから奏とどこか行くなんてアレだな……
付き合ってはいないんだけどこれはデート?みたいに思えてくる。まだ友達だが。
「ねぇ優。なんか映画観たい!」
「映画かぁ、上映時間とかあるからいきなり言われても。何観ようか……観たいのある?」
「優におまかせ!優が観たいのが私観たいな」
それは言ってみたけど思い付きで全部俺にお任せみたいな魂胆だな。俺はスマホを取り出し検索すると丁度いいのがあったのでそれにすることにした。
「あったぞ、ホラー映画だけど」
「え?」
一瞬奏の顔が曇った。苦手なのはすぐ察したけど俺にお任せならいいんだよな?お礼はどこ行った?と心の中で自分につっこんだ。
「違うのにするか?」
「優の意地悪。私ホラーとか苦手なのわかってて言ってるでしょ」
「わかったわかった、違うのにするよ」
「ううん、いいよ、それでいい」
「嫌なんじゃないの?」
「優が隣に居るならいいかなぁって」
こっちを見て何か期待するような顔で奏は言った。いや所詮映画だし何もねぇだろうよ。
デパートに着き映画館で最初にチケットを買いに行ってきた。あとは上映時間まで少しデパート内をまわることにした。
奏はショップで服を選んでいるが俺にはまぁ奏のお供物的な感じだ。
「ねぇ、優、この服どう?似合うかな?」
奏がワンピースを取って合わせて俺に見せてきた。
「ああ、奏に合ってるんじゃないかな?」
そう言っとけば無難だろ的な答えになってしまっていたけど奏はそうかなぁー?と言って嬉しそうだ。奏なら何着ても様になるような気もするし。
あれこれまわっているうちに上映時間が迫ってきていたので映画館に戻る事にした。
映画館は最上階なのでエスカレーターで移動している時、俺たちより後ろ辺りからガラの悪そうな男ら3人組がコソコソ話していた。
「あの子めちゃ可愛くね?」
「あいつって彼氏?」
「いいから話しかけねぇ?あの子に」
などと聞こえてきた。奏をチラッと見ると今から観る映画あんまり怖くないといいなぁと言っていて全く聞こえてない。てか俺も居るのにそんなことを言っているこいつらに何か嫌な予感がする。
映画館に着くとさっきの連中が後ろからこちらを追ってきた。ああ、もうこりゃ台無しになるかもしんないな。
「ねぇ」
早速来たな、とりあえず無視をする。気付かないフリだ、奏も自分に話し掛けられているとは思わないので返事はしない。が……
「ねえねえ」
「え?」
1人が奏の肩を掴んだ、そうなるともう振り向かないわけには行かなくなる。
「俺らと一緒に遊ばない?」
そんな誘い方あるか?なんて思う間もなく奏の肩にそいつらの誰かが手を置いた。奏が振り返った同時に俺も奏に手を掛けた奴をよく見ると……
でかい…… 俺は170ちょっとしかないが向こうは190くらいある。他の2人は俺と同じくらいだが奏に絡んできた奴はとにかくでかいし強面だ。
「え?あ、あの」
奏はいかにもガラの悪い連中達に怯えている。すると1番でかい男が奏の腕を掴み強引に引っ張ろうとした。
「い、痛い!離してください」
もう1人が奏の口を塞いだのを見てもうどうにでもなれと思った俺はそいつの奏を掴んでいる方の腕を掴んだ。
「やめろよ痛がってんだろ、嫌がってんのに無理やりとか恥ずかしくないのか?それに俺は無視かよ?」
「はぁ?お前なんて眼中にないんだけど」
すると他の男2人が俺たちを隠すように壁に追い込み俺たちの前を囲み俺と奏を目立たない場所へ連れて行った。
そして奴らは周りを確認すると途端に俺腹に膝蹴りを食らった。しかも目立たないように地味に。けどみぞおちに入ってしまったので痛みで体がくの字曲がる。そして髪の毛を掴まれてまた同じ箇所に膝蹴りを食らう。
「カッコつけんのはいいけどよ、お前ショボ過ぎ。こんなんじゃ彼女もがっかりだろ?オラ、もう1発!」
さらに膝蹴りを入れようとしたとき奏が口を塞がれていた手を噛んで男は堪らず手を離した。
「もうやめてください!優大丈夫!?」
奏は泣きながら必死に男の腕を引っ張って俺から引き離そうとしてた。
そして奏の声が思ったよりも大きく周りの客達もなんだなんだと気付き俺たちを注目してきた。
「げ…… これ以上はやめとこうぜ」
「目立っちまったなクソッ」
他の2人の男がそう言い俺に蹴りを入れてた男を引き離す。
「チッ、しゃあねぇな」
そう言うと3人組は急いで俺たちから離れていった。
「優ッ!!痛かったでしょ!?ごめんなさい」
「いや大丈夫…… それより台無しにして悪かったな」
「優のせいじゃないでしょ、悪いのはあの人達なんだから」
奏は俺の背中を摩りながらしばらく「大丈夫?」と気にしていた。確かに俺ショボ過ぎだな。