運
「なんだ、助かったのか……。死ねばよかったのに……」
え?
振り返るとドンタ君が走り去っていくのが見えた。
聞き間違い?今、死ねばよかったって……死ななくてよかったの聞き間違いだったかな……?
「何日も寝ていたなら、水分を取って、食べられそうなら食事も」
何か出そうか。鞄から。と、収納鞄に手の伸ばしかけたところでネウス君が声を上げた。
「そうだ、ミーニャ、砂ネズミが捕れたんだ。ユキ、血は……」
お!ラッキー。この流れ、血を飲まなくてもいいやつだ。
「もちろん、出てこい砂ネズミ、ミーニャちゃん、ネウス君が捕ってくれた砂ネズミ。栄養取らないとね。喉も乾いてるでしょう、血を飲みなさい、飲みなさい」
ミーニャちゃんが砂ネズミを受け取った。
大事そうに両手で抱えている。いや、逃げないように押さえつけてる?……っていうか、平気なんだよね、そうか……。
「じゃぁ、さっそく料理に取り掛かりますね。ユキお姉さんも食べてくれますよね?」
ニコニコと嬉しそうなミーニャちゃんに、頷いて見せる。
収納鞄の食べ物を出すなんて、皆の厚意を無下にするような真似はできないね。
砂ネズミを抱えたミーニャちゃんが弾むようにかけていった。……えーっと、病み上がりで料理させちゃダメだよね?
っていうか、料理しろと言われても砂ネズミは……。というか、すっかり元気だよね?ハイポーション1口で……。すごい。
「騒がしいと思ったら、ネウスが戻っていたんじゃな……ミーニャは、そこの見慣れない顔……ユキとやらが助けてくれたのかの」
しわがれた声に振り返ると、腰が曲がった小柄な老婆がいた。やはり、今まで見たどんな老人よりも痩せている。
「おババ!」
ネウス君の言葉に、彼女がおババだということが分かる。
おババさんの手につながれた2歳くらいの女の子もやってきた。
女の子は、おババさんの手から逃れると、ミーニャちゃんの方へ走っていく。
「これ、モモ!」
5人と言っていた。ネウス君、ミーニャちゃん、ドンタ君、おババさんと2歳児のモモちゃんの5人だろうか。
「初めまして。ユキと言います。魔力0で、街を追い出されて困っているところを、ネウス君が村に連れてきてくれました」
開いているのか閉じているのかさえ分からないおババの目が、私を値踏みするように上から下までを見た。
「ユキは、この国の人間じゃないじゃろう?遠いところから連れてこられたんじゃろ?」
はい。異世界から召喚魔法で無理やり連れてこられました。なんでおババには分かるのかな?あ、服装も顔もこの国の人間とは違うから分かるか。
「魔力0だったのは運が良かったの」
え?運がいい?ゴミのように街の外に捨てられたのに?
まぁ、あんな人を魔力で差別するような人間ばかりの街にいるより、ある意味心優しい人たちに囲まれ他方が幸せといえば幸せだけれど。
「えーっと、確かに運がよかったです」
荒野に捨てられて死にそうになった時にはどうなるかと思ったけれど。霊感がまさかの大活躍。
ちらりとネウス君が持っている剣から出ているディラの姿を見る。幽霊に助けられる日が来るなんて……ねぇ。




