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旅に出る準備するから見てて。


 アイシャに案内された書庫に籠ってから三日が経過した。

 とりあえず興味があったのは読み漁った。

 見たことのない文字で書かれていたがスキルのおかげなのか全て読める。

 ここには各国の法や宗教や歴史、神話についてや現在確認されている魔物一覧。

 あとはこの世界の秘境と魔境の旅を記した冒険譚などバリエーションに富んでいた。

 俺が主に目を通していたのは各国の歴史や冒険譚。

 もっと他に調べることがあるだろうに、どうしてそんなことを調べてるんだって?

 答えは簡単!


 そう! 旅がしたいから!


 このスキルがあれば少々危険な旅をしたところで死ぬことは無いだろうし、何よりも本を読んでいるうちに面白そうな記述を目にしたからだ。


 『この世界には五つの決して足を踏み入れてはいけない秘境が存在する。しかし秘境内には迷宮が存在し、踏破した者はこの世界の真実へ誘われるだろう」


 てな感じで、何ともファンタジーな内容になっている。

 世界の真実って何だ? って思うんだろうけど正直俺はあまりそこに興味はない。

 もし踏破出来て、その真実を知ったら知ったで俺はその情報をきっと持て余してしまうだろう。

 興味が惹かれるのは“決して足を踏み入れてはいけない”って部分だ。

 人間って生き物は過度に抑制する言葉を言われると逆の行動を取ってしまう悲しい生き物だ。

 つまり“押すな”って言われたら“押せ”って意味に捉えてしまう。

 今回で言えば“入るな”って言われたら“入れ”って言われてる気がするんだ。


 こんなベタな誘い方する奴は誰だよって本の著者の名前を探すがどこにも見当たらない。

 それが更に俺の探求心をくすぐったのは言うまでもない。

 まんまとこの本の著者の術中に嵌ったと言えるだろう。


 そこから迷宮が存在する五つの秘境を探した。


 ただその秘境は有名みたいですぐに名前と場所がわかった。


 アゾルド大森林、シャフティア火山、ベンドリン湖、マレ砂漠、ネスタ王国の五つだ。

 王国が秘境ってどういう事? と思ったけどここまで来たら気にするだけ無駄だろう。

 その答えは実際に行って見てくるのが一番早い。

 百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。


 さて、どこから攻略してやろうか。

 おススメとかあるわけないだろうし・・・どうするかな。


 悩んだ末にあみだくじで決めることにした。

 床に胡坐あぐらをかいて羊皮紙にインクで作成し始める。


 「タロー、まだここにいたの?」


 書庫にアイシャが入ってきた。

 今日はいつもよりラフな服装だ。

 気付かなかったわけではないがアイシャは普通に可愛い。

 普通に可愛いって本人に言ったら怒られるだろうし、どの口が言うんだと言われそうだ。


 「・・・何?」


 最近って言っても短い付き合いだが、この妙な間がある時はくだらない事を考えてると思われている。

 

 「・・・別に」

 「それよりそれ何?」

 「あみだくじ」

 「何それ?」

 「・・・あみだくじ」

 「殴っていい?」

 「待て早まるな」


 アイシャは握りこぶしを今にも振り下ろそうとしている。


 「俺がいた世界では選択に迷ったときは神に行き先を示してもらうんだ。神様はとても親身になって導いてくれる」

 「ふーん、タローのいた世界の神様って暇なのね」

 「せやな」


 この野郎、普通に可愛いって言うぞ。


 「それで何に迷ってるの?」


 興味ありげに羊皮紙を見つめている。


 「どの迷宮から攻略しようかなって」

 「迷宮? ちょっと待って! アゾルド大森林、シャフティア火山、ベンドリン湖、マレ砂漠、ネスタ王国ってまさか五大迷境のこと!?」

 「まぁねー」


 あみだくじが完成し早速最初に攻略する迷宮を決めるとしよう。

 鼻歌でおなじみのBGMを歌いながらあみだくじを進める。


 「タローお願い! ベンドリン湖にーーー」

 「ベンドリン湖に決定! ん? 何か言った?」


 アイシャが何か言ったが時すでに遅し。

 ベンドリン湖に決定したのだ。


 「タローお願い!」

 「変更不可だぞ」

 「違う! 私も連れてって欲しいの!」

 「ダメ。よし行くとなると準備が必要だし忙しくなるぞー」


 アイシャの申し出に即答で拒否し、書庫から出ようと立ち上がったがーーー


 「待って! お願い!」


 アイシャに服を引っ張られた。

 これが愛だ恋だので引き止められたのなら喜んで振り返り親身に接するのだろうが、さっきのあいつの目は何て言えばいいのかわからんが・・・こう、負の感情が宿っているようなそんな感じだった。

 こう言うのにはあまり関わりたくないのが本心だ。


 「どうしてダメなの!?」

 「言わなくてもわかるだろ。過去に何があったか知らんが俺を巻き込むな」

 「でもタローのスキルがあれば!!」

 「このスキルが俺以外にも適用される保証なんて無い。俺自身このスキルのことを何もわかってないんだ。危険に晒されて俺は助かってお前は死ぬとか普通にあり得るだろ。ていうかそっちの可能性の方が高いと俺は思う」

 「・・・・・・でも」

 「ベンドリン湖がお前にとってどういう場所なのか知らないし聞くつもりもない。ここにある文献を読む限り調査隊や攻略部隊が派遣されてもどの迷宮も攻略できてない。つまりこの五大迷境ってそういう場所って事なんだろ」


 ここまで言わないとアイシャは諦めないだろう。

 いずれこの国を背負う人間だ。


 「私は・・・一緒に行けるなら死んでもいい」

 「あ?」

 

 耳を疑うような発言にちょっとと言うかかなり頭にきた。

 俺はアイシャの手を振り払い、机を思いっきり殴った。

 手がめちゃくちゃ痛い。


 「お前死んでもいいって言った? なぁ? ふざけんなよお前?」

 「---っ!?」


 俺は前いた世界で運が悪くて普通の人なら死にたいと思うような境遇で十七年間生きていた。

 それは俺が死んだら悲しんでくれる人がいたからだ。

 俺を女手一つで育ててくれた母親の存在や怪我するたびに見舞いに来てくれる友人がいてくれたからだ。

 単に怪我を繰り返していたから余計に生に対して執着心があるのかもしれない。

 理由がそれならそれでも構わない。

 ただ命を軽んじるような発言だけは絶対に許せない。


 「ごめん・・・なさい」

 「別にいいけど」


 俺はそのまま書庫を出て、旅に出ることをガイアス王に報告するために謁見の間へ向かった。


 ---


 「五大迷境に向かうか。魔王討伐の功績がある。必要なものがあれば何でも言ってくれ」


 謁見を申請するとすぐに通してくれた。


 「ありがとうございます」

 「出発は?」

 「明日の朝にしようかと思います」

 「そうか。それまで休むといい」

 「はい。あの・・・聞きたいことがあるのですが?」

 「何だ?」


 あんな目をされたら気にならないわけがないだろ。


 「アイシャ・・・様のことなんですが」

 「アイシャでよい。あの子は君のことを良き友人だと思っている。普段の君で接してやってくれ」

 「・・・わかりました。それで聞きたいのですがアイシャとベンドリン湖には何か過去にあったのですか?」


 ガイアス王は髭をさすりながら答えるかどうか悩んでいる。


 「ベンドリン湖は・・・私の妻でありアイシャの母親であるカトレアが命を落とした場所だ」

 「王妃様が? どうして五大迷境に赴かれたのですか?」

 「カトレアは元々調査隊の部隊長を務めていた。美しく勇猛果敢に戦う姿を見初めて彼女を正妻に迎えた」


 王は昔を懐かしむように話し始めた。


 「あれはアイシャが五歳の頃だった。本来なら別の者に調査に行かせる予定だったのだが、元々カトレアが調査を担当していたため本人が調査最終日に同行を希望したのだ。事件はその日に起こった」

 「事件・・・ですか?」

 「ああ・・・その日ベンドリン湖に向かったカトレア含む調査隊百二十名全員が・・・消息不明となった」

 「え!? ・・・全員ですか!?」


 国王は静かに頷いた。


 「これはガイアス王としてではなくカトレアの夫、アイシャの父親として君に頼みたい。カトレアに関することなら何でもいい。何か分かれば教えてくれないか?」

 「・・・わかりました。ご期待に添えるように善処します」


 俺の極運スキルでどこまでやれるかわからんけどな。


 「ありがとう」

 「頭を上げてください。それでは失礼します」


 明日に備え、三日ぶりに部屋に戻り休息した。



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