とりあえず転生したから見てて。
よくあるやつだ。
目を覚まして最初に見たのは見知らぬ天井。
俺は不運に不運を上塗りしたような十七年の人生を送っていたから、こんなことではいちいち驚いていられない。
最初の頃は目を覚ましてから「あれ・・・ここは?」みたいな発言をしていたが、それも何回目ぐらいからだったかな? もう病院の天井を見すぎて「またかよ」ぐらいにしか思わなくなったし、最近は天井だけで何処の病院か当てられるようになっていたぐらいだ。
だがーーー
そんな俺だけど敢えて言わせてもらおう。
「どこだ・・・ここは?」
俺ぐらいになると倒置法が使える。
まぁ、それはさておき辺りを見渡すと白装束を纏った女の子が俺が寝ていたであろう派手な装飾が施された台座の前で額に汗を滲ませ達成感に満ちた表情でこちらを見ていた。
そしてこの台座を囲むように五十人くらいだろうか、赤や黒、灰色の装束を纏った老若男女が俺と目が合うやいなや皆頭を垂れている。
「おお! 召喚に成功したぞ!」
「さすが御子様だ!」
「これで世界は救われるぞ!」
台座を囲んでいる奴らが俺に手を合わせ涙を流しながら何やら聞き捨てならないことを口にしている。
『召喚』? 『世界は救われる』?
アニメとか漫画の中でよく聞いていたから知らない言葉では無いけど、今まで日常生活では使うことがなかった言葉からなのかやけに引っかかる。
「突然のことで驚いたと思うけど・・・どう? 気分は悪くない?」
御子と呼ばれた女の子がこちらに歩み寄り俺の顔を覗きながらそう言った。
背中ぐらいまで伸びた赤い髪に幼さは残るが非常に整った顔立ちで気の強そうな大きな赤い瞳。
俺が勝手に思っていた御子という職業? のイメージとは違っていた。
俺が思っていたのはもっとほわほわっとしていて、黒髪の長い髪を腰ぐらいの位置で結んで、少したれ目で左目の下にホクロがあって、常に敬語って感じなんだが見事に逆を行ってしまっている。
しかし左目の下ではなかったけど口元のホクロも嫌いじゃない。
「ねぇ、あなた聞いてる?」
「ああ、悪い。意識が朦朧としてるんだ」
趣味趣向に思考を巡らせ過ぎてしまい返答をするのを忘れていた。
「そう、私はアイシャ・・・あなた名前は?」
「羽柴太郎」
「ハシバタロウ?」
「苗字と繋げるなよ。太郎だ」
「タローね。早速だけどついてきて」
なんか犬っぽい感じで呼ばれたけどいいか。
アイシャに手を引かれて召喚に使われた広間から出て言われるがままについて行った。
ちょっと・・・心の整理がまったくできてないんだけど。
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十五分ぐらい歩いただろうか?
その間に色んな建物を見たが何と言えばいいのだろうか。
ベースは西洋って感じだけど少し和風が混じっている建物が並んでいた。
アイシャが着ている白装束と建物が非常にミスマッチだ。
「ここよ」
「ここよって・・・ここ何?」
「この国を治める人が扉の向こうにいるわ」
「それ国王じゃん」
「そうよ! 私のお父様はこの国の国王、ガイアス王なの」
偉そうな大きな扉の前には二人の警備の兵士がいてアイシャに敬礼をしている。
敬礼はアイシャに向けられているが視線は俺に向けられていた。
ていうか、これ国王に会ったら無理難題押し付けられるやつじゃないの?
全人類で最強の不運の持ち主に何か重要なことを頼むとか、この国の未来を捨てるようなものだ。
それならいっそ・・・って、あれ?。
「タローどうしたの?」
俺はここである違和感に気付いてしまった。
「なぁアイシャ、ここに来るまで結構歩いたよな?」
「ええ、それがどうしたの?」
「おかしいんだよ」
「おかしいって・・・何が?」
アイシャが怪訝な表情をしている。
分からないのも無理はない。
こいつは元いた世界の俺を知らない。
結論から言うと、元の世界で俺はここまでの距離と時間を歩いて何事も無かったことが十七年間で一度も無かったのだ。
これだけ歩けば大なり小なり不幸があった。
なのに何事も無く目的地に到着してしまった。
アイシャがいるからだろうか? いいや、俺の運の悪さは仮に運のいい奴が五人いてもそいつら全員を不運に巻き込むことができるぐらいのポテンシャルは持っている。
答えがまとまる前に扉が開き、俺はこの国の王に謁見することとなった。
「お父様! 召喚が無事成功しました!」
「おお、アイシャ。よくやってくれた!」
やはりアイシャは国王の娘だったか。
なんか、これに関してはありきたり過ぎて異世界ポイントは減点だな。
「よく参った。そなた名は何と申す?」
「タローと申します」
「タローか。此度は召喚に応えてくれて感謝する。この国の代表として例を言わせてもらうぞ」
召喚に応えたわけじゃないんだけど、めんどくさいから頭下げておこう。
「では其方に魔王討伐の任を与える!」
謁見の間に国王の声が響いた。
シーンとしているのでエコーが効いてる感じになっている。
「・・・え?」
アイシャに目線を向けるとうんうんと頷いている。
いや、うんうんじゃないし、この世界に魔王がいることに驚いてるしーーー
「その大役承りました」
とりあえず機嫌損ねたくないし了承しておくか。
詳しいことはアイシャに聞けばいい。
「うむ。ではスキル鑑定に移るとしよう」
「スキル鑑定?」
「そうスキル鑑定。人は誰もが何かしらのスキルを一つ持っているの」
いつの間にかアイシャが俺の横まで来ていた。
「どんなスキルがあるんだ?」
「んー、一般的なのは農業とか運搬とか料理とかね。あとは騎士とか鍛冶、魔法使いもあるわ」
魔法使いとかいるのかよ。
けど召喚術があるぐらいだから魔法使いぐらいいるよな。
「アイシャは召喚士?」
「私は御子よ。世界に三人しかいないの。凄いでしょ!」
そういえば御子って言ってたな。
「では鑑定士よ前へ」
身なりのいい眼鏡をかけた若い女性が俺の頭の上に右手をかざして左手に持っている本を開いた。
「・・・・・・え?」
「鑑定士よ、どうしたのだ?」
鑑定士の女性がめっちゃ驚いている。
やっぱりやっちゃったパターンか?
「この方は・・・スキルを三つお持ちです」
「「三つ!?」」
国王とアイシャの声がシンクロした。
「何かの間違いでは?」
「いえ、私は鑑定士レベル7ですので間違いはないかと・・・」
「そ、それで何のスキルなの?」
鑑定士の女性はアイシャに言われて左手の本に視線を戻す。
「幸運レベル10・・・豪運レベル10・・・極運レベル10の三つです」
鑑定士が言い終わると謁見の間にいる全ての視線が俺に集中した。