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春夏秋冬  作者: 犬飼わん太郎
1章
3/4

僕と彼女は何もかもが合わない②

 そんな趣味も性格もまるっきり違う僕と彼女だが初めの出会いなんかはとても普通な出会いだった。

 小さな頃からの幼馴染だったり、とてもドラマチックで運命的な出会いだった訳でもなく、逆にお互いの第一印象サイアクの「やなやつっ! やなやつっ!」みたいな少女漫画的出会いだった訳でもない。

 共通の友達が開いたそこそこ大きな飲み会でたまたま隣の席だったハルに何の気もなしに話しかけた事が始まりだった。


 僕という人間は人見知りである。


 およそ元バンドマンとは思えないくらい大勢での飲み会や知らない人との会話が苦手で、この時の飲み会もあまり乗り気ではなかった。

 お酒自体は好きだし気の許せる友達との飲み会は楽しい。

 しかし合コンのような集まりやイベントだったり会社での打ち上げのような飲み会となると話は別で、とても居心地が悪くなる。

 だから僕はその日も大した話もせず、帰ってしまおうと密かに思っていた。


 そんな僕の思いとは裏腹に宴会用のとても広いカラオケルームに10人程の男女がそれぞれ思い思いの席にどんどん座っていく。


 僕は一番奥の目立たない場所を陣取り、その時ハマっていたゲームアプリでもやりながら時間を潰すつもりだった。

 そんな中ふと入り口に目をやると一番最後に電動車椅子の女の子が手先のハンドルで器用に動かしながら部屋に入ってくるのが見えた。

 

 それがハルだ。


 僕はその時から車椅子である事の偏見や差別意識は全くと言って良い程なく、単純に----


 「可愛らしい人だな」と思っていたのだ。


 実際ハルは小さくて細くて童顔でとても可愛い。

 僕にとっては車椅子である事よりもむしろそちらの方が第一印象として強かった。

 

 ハルが入ってすぐに誰かが「ハルちゃん奥の方座ってー!」と言った。人数も多いので誰かはわからない。

 

 奥の方と言えば僕の座っている場所の近くだった。

 隣の椅子がどう見ても邪魔だったので椅子を退けて車椅子が入るくらいのスペースを作るとハルは作ったスペースに器用に車椅子を入れ込む。


 上手いもんだなぁ……なんて感心をしているとと「はじめまして。椅子、ありがとう」と小さな声で微笑んだ。

 僕もそれに倣い「はじめまして」と返す。

 

 僕とハルの初めての会話はこんな感じだった。


 それから先の会話はよく覚えていない。

 何しろ5年以上も前の事だしとりとめのない会話しか殆どしていなかったはずなので、恐らくハル本人に聞いても「覚えていない」と答えるだろう。


 ただこれも後から聞いた話ではあるのだがハルにとって僕との会話よりも何よりも覚えている事があると言う。


 特に意識していた訳ではなかったが、ハルは椅子を退けてくれたり飲み物を代わりに頼んでくれたり、食べ物を取り分けてくれたりなどする僕を見て「随分甲斐甲斐しい人だな」と感じたらしい。


 実際は隣だったから僕がやっただけで、恐らく隣じゃなかったらやらなかったと思う。

 思いの外ハルとの他愛のない会話が楽しかった事もあったのかもしれない。


 とにかく僕はあまり気の付く方でもマメな訳でもないし、単純に好みの女性だとしても当時はそれどころではなくアプローチすらしなかったから下心があった訳でもない。


 しかし、それがきっかけで僕はハルと仲良くなり最終的に何故かLINE交換をするまでとなった。


 いつもならあまり乗り気ではなかった飲み会の帰りは後悔やら嫌悪感やらで胸がいっぱいになるのに、その日の帰りは、不思議といつものように嫌な感じがしなかったのをよく覚えている。


 

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