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頭の中に流れるカノン

冬のまばゆい太陽の光が満ちる白い部屋の中で、少年はベルベット張りの椅子に座り、ペンを走らせていた。紙の上には、音符や短い詩が書き記されている。


「よし…」


少年はしばらくして手を止めると、紙に書いた文字と音符を少し眺めてからうなずいた。ハヴルィーロは聖歌隊で歌うだけでなく、勉学の合間に曲や詩をつくり、ひそかに書き溜めている。コザークの次男坊として、将来立派な聖職者となり家名を高めることを父親には期待されているハヴルィーロだが、いつか作曲家や詩人として名を馳せることが、少年のひみつの夢であった。


「イヴァン様に見せたら、何と言われるだろう。伯爵様に見せるには、子供っぽいかな…。」


少年は自作の詩を読み返しながら、先日会ったあこがれの人に思いを馳せる。「幽霊伯爵」という噂から想像する姿とは程遠い、高貴で美しい人。きらきらとステンドグラス越しの陽光にきらめくかつらの白い巻き毛、陶器のような白い肌、ガラス玉のような薄い碧色の瞳、すらりと伸びた身体…ハヴルィーロの目には伯爵は幽鬼ではなく、天使に映った。繊細ながら、低く落ち着いた声は、伯爵の温厚で誠実な人柄を示しているようだ。


(強欲でがさつな父上とは違う)


伯爵は、コザークらしい荒々しさをもち、名誉や財産に執着する父や兄に囲まれて育ったハヴルィーロが初めて会った、彼の姉や母に似て、穏やかで優しく、尊敬すべき男性だった。聖歌隊の中にも穏やかな男性や優しい男性は居たが、彼らもまた、ハヴルィーロの父親や兄同様、目上の人間にはこびへつらうばかりだった。しかし伯爵は、柔弱な雰囲気を纏いながら、彼らにはない誇りや信念を持っているように、ハヴルィーロの目には映った。


(ああ…早くイヴァン様に会いたいな)


ハヴルィーロが頬杖をつき、あこがれの人の姿を思い描いている時、ノックの音がした。すぐに扉が開き、彼に似た金髪の、彼より年上の女性が入ってくる。


「姉さん、帰ってきてたの」


ハヴルィーロは、女性の方を向き直り、声をかける。伯爵と同じ年ごろの彼の姉は、美しい水色のドレスを着て、扉の前でたたずんでいた。彼女は弟に、少女のような悪戯で可愛らしい笑みを浮かべて、お辞儀をした後に言う。


「近くに用事があってね。お菓子もあるから、お茶をしましょう

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