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脱走兵
25年1月追加
うっかり重要な部分抜かしてたので追加しました…
男は一人歩いた。
敵を見逃し、仲間の死体を乗り越え、軍服を脱ぎ捨て、敵から逃げて。
人目を憚り、軍人や貴族の目に怯えながら。
疫病が蔓延る港町から、山を歩き、渓谷を歩き、
隣国の貴族が支配する土地を経て、
馬に乗って草原を駆け抜け、河を越えた。
何回満月を見たか。
戦場を逃げ出してから、何か月が経ったのか、何年が経ったのか、
もう男には分からない。
鳴り響く大砲、銃声、怒号。華々しい音楽に、その後の悲惨な光景。
撃たれていく仲間、刺されて死ぬ仲間、病に倒れて死ぬ仲間や捕虜。
自分が殺した敵と、獰猛な目をした獣たち。
戦場の記憶は、つい数日前のことにも、もう何十年と前のことのようにも思えた。
そんな時、男はある森に辿り着いた。




