ヨシフの帰還
狼男は、家に帰った。英雄ではなく、ただの人間として。女帝の勲章の代わりに、辺境の伯爵から贈られた勲章を持ち帰った。
はじめ男は村人の視線を避けるため、夜の闇に紛れて村に入ろうとした。だが、近くの街で戦争が終わったことを知ったのと、伯爵の村で少女に貰った言葉を励みに、日が沈む前に村に入ることを決意した。
勇気を出した割に、そもそも人口の少ない村なので、道中誰にも会うことはなかった。
男が古ぼけた木の扉を叩いた時、何度叩いてもしばらく返事がなかった。耳を澄ますと、すすり泣く声が聞こえる。
「俺だ!ヨシフだ!生きてるよ」
男が叫んでしばらくしたあと、勢いよく扉が開き、中年の女が出てきた。男の妻だ。
彼女を抱擁するために、男は荷物を置いて、両腕を広げた。
しかし、飛んできたのは拳だった。
会うなり殴ってきた妻と口論になったあと、男は娘たちの帰りを待たずに自室で寝てしまった。出ていったのは何年も前なのに、意外にも木のベッドは捨てられておらず、寝具も虫食いだらけではなかった。
翌朝、怒鳴り声で起こされた男が食卓に行くと、温かいスープが並んでいて、成長した娘たちと、少し老けた妻がいた。彼女たちは男を見ても、相変わらず寝坊助だとしか言わず、そのまま世間話を続けた。男はスープを飲みながら、黙って家族の顔を見つめる。数年ぶりに見た娘たちはよりいっそう愛おしく、皺の増えた妻の顔は…ひどく彼を安心させ、兵士を一人の、甲斐性のない、しかし心の温かい夫に戻したのだった。