ふたりの少女
二人の少女が、森の中を歩いていた。
枯れた葉がひらひらと風に乗って落ちていく中、ザクザクと落ち葉を踏んで二人は歩く。茸を見つけて一人の少女、ネクラーサが屈んだ時、もう一人の少女は白い空を眺めながら声を出した。
「ネクラーサは何になりたい?」
ネクラーサは蒼い瞳を瞬かせて、親友の横顔を不思議そうな顔で見る。この娘は、よく突飛なことを言い出すのだ。
「…なりたいも何も、農民以外にはなれないじゃない。コサックの妻になって、贅沢がしたいとか、そういうこと?」
農民の家に生まれたのだから、畑を耕す以外に道があるだろうか。最近、宿屋のレーシャが貴族と結婚したが、ネクラーサは自らが帝国や王国の貴族や、コサックの高官と結婚するなどという夢は見なかった。
どういうわけか物好きな貴族はその身分を捨てたらしく、レーシャも貴族の暮らしではなく、宿屋を営んでいる。
カーチャは首を振って、つまらなそうに唇を突き出して言った。
「違うよ、何をしたいかってこと、」
ネクラーサは首を傾げる。カーチャの言うことはよくわからないし、ネクラーサには特段将来やりたいことはなかった。今のように、畑仕事の合間に友と森を歩いて、他愛の無い話をできれば、それでいい。
「さあ………刺繍……もやりたくないし」
どうもネクラーサは針仕事が苦手だった。針先をずっと見つめるのは骨が折れる。
彼女とは反対に、刺繍好きな友人は、ふふ、と笑ったあと、にこやかな顔で夢を語った。
「私はね…ドレスを縫いたいの。毎日。」
「カーチャは刺繍が得意だからね。素敵。」
カーチャが仕立て屋になることまで夢見ているのか、ただドレスを縫いたいのか、ネクラーサは聞かなかった。カーチャも農民の娘だから、前者は多分無理だろう。でも、十年後も、おばあさんになってもドレスを縫う彼女は想像できたし、それは素敵な刺繍に彩られているに違いない。
二人は茸や鳥の話、幽霊伯爵や麗しの小姓の新しい噂話をしながら、村へと帰った。
途中、狼の遠吠えが聞こえた気がしたとネクラーサが怯えたが、カーチャは気の所為だと笑った。




