赤頭巾と狼
レーソヴォイクが潜んでいそうな、鬱蒼とした暗い夜の森を、真っ赤な頭巾を被った少女が歩く。緊張した唇は引き締められ、瞳は獲物を探す狼のように、辺りを見回していた。
長い銀髪の青年と、くすんだ薄い茶髪の少年を筆頭にした男女達の群れが、三手に分かれて彼女を追う。
「遠吠えだ」
村人の一人が囁いた。
「やはり本当に狼男が…」
もう一人が囁く。
「しずかに。狼男に聞こえる」
どよめく村人たちに、ジーナは唇に人差し指を当て、静かにたしなめる。
ちょうどその時、悲鳴が響いた。
「ネクラーサ!!」
伯爵たちは急いで赤頭巾の娘のもとへ駆け寄る。何人かが銃をかまえていたが、娘は一人で、周りに狼はいなかった。
「毛むくじゃらの男がいたの」
ネクラーサは、ランタンに照らされた不気味な伯爵の姿を見て一瞬小さな悲鳴をあげたが、浅い息を吐くと、早口で説明する。
「逃げられた!あっちに行ったはず!」
そしてすぐ、少女は一人で暗闇に向かって走り出した。
「待つんだネクラーサ!」
伯爵や、村人たちも急いで散り散りに彼女を追いかける。村人は大所帯だったので、目立つ頭巾も見えなくなる。もっと人数を減らせばよかった、と村人たちの熱意に負けた伯爵は後悔した。猟師や兵士はともかく、鋤や鎌やナイフを持った村人たちは…血走った目をしていて、狼をも狩りそうではあるのだが。
伯爵がぜえぜえと息切れを起こし始めた時、誰かが大声を上げた。
「捕まえたぞ!!狼男だ!」