イーゴリの春
1、2行R-15です?
ある日、イーゴリがジーナと一緒に釣りに出かけた時、森の中で憧れの彼女に会った。料理に使う木の実と草を取ってこいと言われたらしい。慣れない彼女一人を、危険な森に行かせるなんて、と、イーゴリは密かに怒ったが、口には出さなかった。
イーゴリはとにかく彼女が無事に任務を終えられるように、彼にしては珍しく、魚を釣るという自分の仕事を後回しにして、彼女に付き合った。イーゴリはジーナを連れて彼女と森を歩き、色々な木々や植物を見て回る。
道中、いつもあまり喋らないイーゴリは、彼にしては饒舌に、森の動物や天気など、他愛もないことを話し、身振り手振りで彼女と会話した。我ながら、退屈でつまらないとイーゴリが思った話や蘊蓄を、彼女は朗らかに笑って聞いてくれた。
目的の食材を集め終わってから、イーゴリは綺麗な花々が群生するところへ彼女を連れて行った。そして、木漏れ日の下で、咲き乱れる花よりも綺麗に彼女が笑った時、イーゴリは思わず、彼女の頰に軽く口付けた。
すぐに、イーゴリは頭を下げて謝罪した。すると、彼女はイーゴリの頰に口付けて微笑んだ。イーゴリはしばらく黙って、何が起きたのか考えたあと、彼女の唇に自分の唇を重ね、幼い妹がそばにいることも忘れて夢中に彼女を味わった。
そして頬を赤く染める彼女の愛らしさに見とれながらも、照れて視線を外した時、イーゴリはジーナが自分のそばからいなくなっていることに気がついた。
森の中で子供が消え、そのまま見つからないというのはよく聞く話だ。
イーゴリと彼女は必死に森の中でジーナを探し回り、諦めてイーゴリが先に彼女を城に返すために森の入り口へ戻ろうとしたところ、湖のほとりでジーナを見つけた。どうしていなくなったのかと兄が問いただすと、
「二人きりの方がよさそうだったから。」
と聡い妹に返され、イーゴリの方がすまないと謝る事態になった。そして、もう辺りがオレンジ色に染まるほど日が傾いているのに、まだ一匹の魚も釣っていないことに気づいたイーゴリが、
「俺は魚を釣って帰るから、お前は彼女と一緒に先に森を出ろ」
と言うと、
「心配しなくていい。」
ジーナはそう言って、木桶をイーゴリの顔の前に出した。
「お前、これ…」
中には小魚が大量に入っている。イーゴリは気まずそうに、頬をかく。ジーナは彼の分の仕事をしてくれたのだ。
「よくやった、ジーナ。」
とりあえず、イーゴリはジーナを胴上げして褒め称えた。無表情で見つめ合う兄と妹を、彼女は楽しそうに眺めていた。
いつもより帰りが遅くなり、家の仕事ができていないと帰った二人は両親に叱られたが、イーゴリは今までになく浮き足立っていた。
その日は、彼の人生で一番暖かい日だった。




