兵士の苦労
「先ほどは思わず君を指差してああ言ってしまったけど、当番制にするから、安心してくれ」
ジーナの一家の戸口を出た後、伯爵は先ほど指名していた、大柄な青年に声をかけた。
「いえ、名誉なことですから、頑張ります」
爽やかな笑顔でそう言う青年に、伯爵はやや怖じ気づきながら、もう一つ命令を伝えた。
「それで、夜更けに申し訳ないけれど…今晩は特に、あの両親と幼いミハイロ、ゾーヤをそのままにしておくのは不安なんだ。挨拶のついでということで、明日の朝まで、あの家に居てくれるかな。何、私の命令の一点張りでいい……。朝には、別の兵士を向かわせるから。」
(あの空気の中で一晩中居るのかよ)
青年の心は冗談じゃないと叫んでいたが、これも給料と昇進のためだ。
「仰せのままに!」
不満を飲み込んだ青年は、元気よく返事をした。
「あのー…、これから、よろしくお願いします。多分、当番制だから毎日は来ないですけど……、そうだよな?」
青年の兵士は、小さな嗚咽を漏らしている中年の夫婦に届かない声をかけた後、壁に向かって確認し、当然壁にも無視される。もう一度夫婦に声をかけると、五月蝿いと大声で罵倒されたので、天井に頭が届きそうな大きな身体を持て余した彼は、部屋の隅の壁にもたれかかる。
そのとき、近くで妹と遊んでいた少年に声をかけられた。
「しばらくあのままだろうし、こっちで一緒に遊ぼうよ。」
「お、おお。」
あの不愛想な少女の弟とは思えない、きらきらとした笑顔を浮かべ、元気のいい少年に戸惑いながら、兵士は子供たちが居る方へ向かう。
「でっかいひとー」
「おう、肩車もできるぜ」
小さな少女にも声をかけられ、兵士はきょうだいと外に出て、彼女を肩に乗せた。
「ふふふ!」
「あはははっ!星が近くなったかも!」
まだ身長の小さいミハイロも変わりばんこに担ぐと、子供たちは明るい笑い声をあげた。
両親があんな言い合いをしていたというのに屈託のない二人の笑顔に、姉と同じ辛辣さと強い意志を感じて空恐ろしく思いながらも、兵士は楽しく、子供達と遊ぶのだった。




