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怖いもの知らず

レーシャは伯爵とジーナに、男爵の屋敷で何が起きたのか語った。

それはつい数刻前、今晩起きたことだ。



2日前から、男爵は帝都の館に出かけていて、森の屋敷を留守にしていた。

屋敷を出る前、男爵は屋敷中の部屋に通ずる鍵を、今や女主人であるレーシャに預けた。そして彼女に、


「片付いていない部屋もあるから、あまり見ないでくれ。」


と、軽く言いつけ、馬車に乗った。


しかし、屋敷や近くの村に遊び相手もいないレーシャは、男爵の言いつけを無視して、退屈を紛らわせるように屋敷の中を散策し、片っ端から扉を開け、中を覗いた。


鍵を預けられなかった男爵の部屋をのぞき、レーシャはすべての部屋の扉を開けた。扉を開くたびに、趣の違う装飾や、様々な高価な調度品、芸術品が現れ、レーシャを楽しませた。好奇心のまま、自分の家の中を駆け回って探検していた幼い時のように、レーシャは屋敷を隅々まで探索しようとした。

そして、目敏い彼女は、書斎の本棚の一つの様子が、他と違うことに気が付いてしまった。


その本棚はどうやら押すと動くようだった。レーシャは躊躇うこともなく本棚を両手で押し、ぐるりと回転させた。本棚の裏からは、鋼鉄の隠し扉が現れた。


(まるで冒険譚のようだわ)


興奮したレーシャは、男爵から預かった鍵や、箪笥にしまわれていた鍵の中から、隠し扉の鍵穴に差し込めるものを探し当てた。そして、ギィギィと耳障りな音を立てて開く、鉄の扉の奥へと進む。


扉の向こうには暗闇が広がっていた。レーシャはランタンで足元を照らしながら、一歩一歩進んでいく。

すると、真っ暗な廊下の奥に、地下へと続く階段が現れた。

すっかり物語の主人公の気分になっていたレーシャは、噂も男爵の言葉も忘れており、

隠し扉の先が地下へと続いていることを訝しむこともなかった。

そして、階段を降りて行った。


階段はレーシャが予想していたよりも長く、地下の冷える空気は、レーシャを震えさせた。

カツン、カツン、と、彼女のくつ音だけが、こだまする。まだたどり着かないのかと、ようやく不安になったレーシャが引き返そうかと思った時、ポチャンと地に落ちる雫の音がして、レーシャは地下室についたのだと知った。


階段を降りたレーシャは、ランタンを頭上に掲げる。

ランタンの明かりに照らし出されたのは、地下牢のような石壁に囲まれた空間で、おどろおどろしい鉄の棺桶や古めかしい武具が置かれていた。レーシャは少し不気味に思ったが、男爵の先祖が使っていたか、博物趣味で集めたのだろうと考えた。


そして、レーシャは不気味な部屋の奥に進んでいった。そこで、膝に何か固いものが当たる感触がした。ランタンで手前を照らしてみると、古い、木製の長机だった。

レーシャをぎょっとさせたのは、その机の上にあったものだ。


(頭蓋骨!?)


思わずレーシャは小さな悲鳴を上げた。


(古代人の戦利品かしら)


それでも、好奇心が恐怖に勝り、彼女はランタンで手元を照らしながら、頭蓋骨に顔を近づけた。

よく見るとその頭蓋骨は、加工されて杯になっているようだ。


(もしかして、男爵が使っているの?)


嫌な想像をしてしまう。レーシャはもう引き返そうかと思ったが、さらなる好奇心か、新たな夫への不安を取り除くためか、部屋の中にある、他の不気味な品々の正体を調べることにした。

手始めにレーシャは、近くにあった棺桶の蓋に手をかけ、開いてしまう。


幸い、中には人の死体はなかった。


すこし赤黒いものがこびりついているようにも見えたが、きっと大昔に使用されたものだと、レーシャはそう信じようとした。とはいえ、数百年前のものだと思っても、やはり気持ちが悪くなる。恐怖が好奇心より大きくなってきた彼女は、階段の方へ戻ろうとした。


「きゃっ」


その時、ドレスの隙間にのぞく彼女の足に、何か生暖かい物が触れ、レーシャは驚いてランタンを落としてしまった。


光に照らされたのは、小さな鼠だった。


レーシャは溜息をつく。そして、落ちたランタンを取ろうとして、衣装箱が足元に置いてあるのに気づく。彼女は思わずしゃがみこんで、ふたに手をかけた。絹織物商人の娘として、昔の豪華な布や衣服が入っていたら見たいと思ったのだ。

箱には錆びた鍵がかかっていたが、レーシャは机の上に置いてあった金槌を使って、鍵を叩いて壊す。昔から彼女はお転婆娘として家族の手を焼かせていた。色々な家のものを壊し、叱られた日々を懐かしみながら、レーシャは箱を開ける。


中身は、思っていたより当世風の良質な布のドレスで、何着も乱雑に詰められていた。

レーシャは綺麗な刺繍をよく見ようと、ランタンをドレスに近づけ…気がついてしまった。


「な、なんてこと……」


仄暗いランタンの明かりでもはっきりと分かるほど、ドレスは血まみれだった。

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