グラッジ・エイドの森
「……そういうことでしたら、助力致しましょう。ですが、見合う価値が無いと判断した場合は――」
青色LEDは踏み止まりの冷静なる色、そして落ち着きさを取り戻す役割を密かに与えられた色だ。誰だって、赤色を見ればやる気、情熱、いきりたち……いや、生きる為の色として判断している事だろう。だが――
「亡き者として処分して欲しい……報酬は――」
依頼主と落ち合う場所は森と決めている。賑やかな繁華街と、閑静な住宅街の間には生と死の狭間を分け隔てるかのような、深い森林公園を置くところが多い。
それ故、森の中で全てを断罪来れば、それに越したことは無いと判断した。
「如何なる依頼でもお引き受けしますが、その恨みが本意を遂げるものでないとこちらで判明した時は……」
ただ静かに頷く依頼主。それ以上は追及をしない自分。何が正しくて、正しくないのか。
ただ一つ、私が受けた依頼は確実に遂げる。その為の場所を依頼主に告げるのだから。
「ただ憎い、それだけです。この恨みを果たすには自分一人の募りだけでは足りません。どうか、お力添えを」
『愉しみが終わるや、たちまち侮辱の念を生じ、理も非もなく追い求むれど、思いをとぐれば、たちまち理も非もなく憎むにいたる……』
「え?」
「いえ、シェイクスピアの作品の言葉を借りたまでですが、私に頼みを……とすれば、それは貴方様にも至ることとなり得ますが、よろしいのですね?」
「構いません……愉しみなど私には無かったんです。あの男を殺して欲しい……ただ、それだけです」
「いいでしょう、では処する者の赤い血をお届け致します。ただし、どんな形でお届けするかはお伝え出来かねます……」
依頼を受ける場所は深い森。そこに来られる依頼主は、深く深すぎる恨みを持って訪れる。私はその者たちの助力をするだけだ。恨みの助力を……
恨むべき相手がおいででしたら、いつでもお引き受けいたしましょう。
ただし、生と死の狭間であるグラッジエイドの森においで下さいませ。深い憎しみは青色の下では晴らせないのですから――
引用:ウィリアム・シェイクスピア『ソネット』