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姉妹に迫る不穏な影

「たっだいまー!ママの帰宅ですよー!」 

「「お邪魔します」」

「ママー!お帰りー!...この人たちは?」

 セリカさんが勢いよく家に入れば、それに負けずに元気な声が返ってくる。少女は私達の姿を見て、セリカさんの顔を伺う。

「この人たちは今日家に泊まることになったエスティアちゃんとクロエちゃんよ。ご挨拶できる?」

 そうセリカさんが促せば、少女は幾分か緊張しながらきちんと姿勢を正し。

「初めまして、エマって言います。9歳です。」

「初めまして、エスティアです。16歳です、1日だけ泊まらしてもらうけど、よろしくね?」

「初めまして!クロエだよ!12歳!よろしく!」

 私が丁寧に、クロエが快活に挨拶すればエマちゃんは安堵の息をこぼすや、一転目を輝かして詰め寄る。

「二人は旅人なんですよね!?エスティアさんは剣持ってるし強いんですか!?クロエちゃんは武器を持ってるようには見えないけど魔術でも使えるの?」

 どうやら彼女は好奇心が旺盛なようで、鼻息荒くしながら質問を寄せてくる。そんな彼女に私は気圧され、クロエは同じようなテンションで相手をする。

「時たま、貴方達みたいな子供を泊めることがあるせいか、冒険談とかに目が無くてね。ああやって色んな事に興味を示すの」

 セリカさんが苦笑しつつも、慈愛の籠った目でエマちゃんを見据える。

「お世話になるんですから、これくらいなんてことありません。それにクロエと馬が合うようですし」

 顔を向ければ、二人はもう仲良くなったようで笑顔で話してる。

「それじゃ、エマはクロエちゃんに任して、晩御飯はエスティアちゃんにお手伝いお願いしようかな」

「お任せください!」

 少しおどけつつ一緒に台所に向かう。


「たっだいまー!愛しのパパのお帰りだぞー!」

「パパ―!」

 晩御飯が出来上がるタイミングで、エマのお父さんが帰って来たようだ。

「あっ!ガルドさん!」

「よっ、ちゃんと家にこれたみたいだな!」

 振り返れば、門番さんのガルドさんがエマちゃんを抱きながら笑みを浮かべている。

「セリカさんの旦那さんだったんですか、お陰様で野宿せずに済みました」

 頭を下げてお礼を言えば、ガルドさんは笑いながらその大きな手で乱雑に私の頭を撫でる。それが温かくて、笑みがこぼれる。

「良いってことよ!女の子二人を寒空の下にほっぽりだすような屑にはなりたくねぇしな!」

「毎回そう言って私に全部押し付けといてよく言うよ」

「あーいや、ほら!そんな事より俺ちゃん早く美味しいごはん食べたいなー!」

 お玉を手に恨み言を言うセリカさんにガルドさんは、しどろもどろになりながら逃げだす。そんなガルドさんにセリカさんは呆れつつ席に着くよう促す。

「仲が良いんだね」

 いつの間にか傍に来たクロエが、裾を掴みながら眩しい物を見るような表情でそう呟く。その温かい家庭の光景を見て何を思うのか、私にも嫌という程わかる。

 考えないようにしてきたけど、目の前の光景を見て嫌でも思ってしまう。本当なら今日もあの家で、優しい両親と一緒に暖かい食事を楽しんでいた筈だったのに。湧き上がるのは両親の安否への不安。それに村の人たちの事も、もし傷ついていたら、酷い目に遭っていたら。最悪、死んでいたら。そんな不安を頭を振って払い、笑顔でクロエに向き合う。

「そうだね、ご飯の準備は済んでるし。冷めない内に私達も行こっか!」

「...だね!あー!お腹減った」

 空元気なのは分かってる、クロエにも伝わってしまったのか吹っ切る様に声を上げて手招きするエマちゃんの元へ向かう。

「お姉ちゃん失格だなぁ」

 妹に気を遣わしてしまうダメなお姉ちゃんでごめんね。と心の中で謝り、笑顔を張り付けて呼ばれる声に向かう。



◇◇◇◇



「それで、むざむざと逃がしたと?」

 そう棘のある、芯まで凍ってしまいそうな冷たいで詰問するのは。ステンドグラスから注がれる月光を浴び幻想的な輝きを放つモノクルの女性。

 詰問された青年は深く首を垂れ、身体を強張らせる。

「わざわざ勇者の剣まで貸し与えたというのに、たった16歳の少女を、それも村人に邪魔され取り逃がしてしまうなんて、勇者としての自覚が足らないのでは?」

 そう問われれば、青年はより一層身体を強張らせ、冷や汗を垂らしながら微動だにしない。そんな青年の姿に女性は深くため息を吐く。

「もしかの託宣の少女が魔族の王に知られれば、奴らと手を組んで人間を滅ぼす恐れだってあるのです。...まぁ多少取り逃がした所で問題は無いでしょう。ドク!出てきなさい」

 そう女性が声を張れば、陰から突然白衣を纏った不健康そうな隈のできた中年の姿が現れる。青年は突然の登場に驚き、女性は特に驚いた様子も無く冷ややかな視線を注ぐ。

 ドクと呼ばれた白衣の男性は、にたりと鳥肌の立ちそうな気味の悪い笑みを浮かべ、何本か掛けた汚い歯を露出させる。

「何の御用でございましょう、大司教猊下」

「報告書は読んだでしょう、今回の託宣の少女の件。貴方に一任します。必ずや主の御前に連れてきなさい」

 大司教猊下と呼ばれた女性は白衣の男性にそう命令すると、男性は仰々しく一礼する。

「御意に、方法はこちらに任せてもらって構わないのですよね?」

「好きにしなさい。必ずや生きてここに連れてくるのです。任せましたよ」

 その言葉を聞き、男は再び仰々しく一礼し。再び暗闇に姿を消す。

 そこで漸く、今まで顔を伏せていた青年が声を発する。

「大司教猊下、発言お許し願えますでしょうか」

「構いません」

「何故彼の少女に拘るのでしょうか、一度会って話をしましたがとても世界に害なす存在には思えません。至って普通の少女に思えて仕方がないのですか」

 そう、青年が声を震わせながら問えば、女性は氷の如き無表情で。

「主の託宣は絶対です。それに彼女の剣の力、貴方も目にしたのでしょう?あれは魔剣。在るだけで災厄を呼び起こす在ってはならない物、そしてそれを持ちながら自我を保つ彼の少女もまた危険な存在。ブレイドよ、貴方は何者ですか?貴女の使命は」

 彼女は青年の問いにそう答えると、逆に青年に問う。それを青年は、絞り出すような声で。

「俺は...勇者です。世界を守るために戦う」

「その通り、ならば使命を果たしなさい。貴方は勇者なのですから」

 それだけ告げると女性は踵を返して奥の扉に消える。

 静寂が支配する中、青年はその後も顔を上げることなく佇んだ。



◇◇◇◇



「「お姉ーちゃーん!(さーん!)」」

 可愛らしい声と共に腹部に伝わる二つの衝撃に、うめき声をあげて目を覚ます。

「うぅ...二人ともそれは洒落にならないって」

「んへへ、ごめんなさーい」

「ごめんなさい、お姉さん。我慢できなくて...」

 お腹にうずめた顔を上げて、笑顔で謝る二人の頭をため息を吐きながら撫でると、二人はくすぐったそうに目を細め布団から降りる。

「お姉ちゃん、セリカさんが朝ご飯できたって、早く着替えて降りてきてね~」

 そう言ってエマちゃんの手を引いて部屋を飛び出す。

 私は、未だ鈍く痛むお腹を擦りながら、寝間着を脱いで自分の服に着替え、ズボンを履き腿まであるブーツを履き、ベットの湧きに立てかけた名実ともに身体の一部になった剣を腰に差し、美味しそうなにおいのする方へ向かう。

 

「おはようございます」

「おはようお寝坊さん。ご飯冷める前に食べてね」

「すいません」

 食卓を見渡せばクロエとエマちゃんは既に食べ始め、セリカさんは既に食べ終え食後の紅茶を飲んでいる。ガルドさんは既に仕事に行ったのか食べ終わった食器が残っている。

「今日は護衛依頼に出るのよね?寂しいわぁ、せっかくエマが懐いてくれたのに」

 セリカさんが残念そうにそういうと、エマちゃんが悲し気に表情を曇らせ顔を俯かせる。

「大丈夫だよ、一生会えないって訳じゃないんだから。また会いに来るね」

 クロエが俯くエマちゃんの頭を優しくなでる。エマちゃんは泣きそうになるのをクロエに抱き着いて顔を埋めて隠す、それをクロエは抱きしめ返す、いつも私がクロエにやってあげてるように。


「またねー!クロエー!エスティアお姉さーん!」

 朝食を食べ終えて家から出れば、セリカさんとエマちゃんが玄関から手を振る。たった一晩しかいなかったけど、胸が痛い位寂しく感じる。

「またねー!エマちゃーん!」

 クロエも泣きそうになりながら手を振ってる。私も涙ぐみながら手を振り返し、彼女たちに背を向けて、歩き出す。

「寂しいね」

 クロエがそういいながら手を握る。私も握り返しながら「そうだね」と答える。

「いつかさ、どれだけ時間が掛かっても。村に帰ろう。お父さんとお母さんに会って、ごめんなさいって謝って、怒られて。それで笑ってただいまって言おうね」

 大事な故郷の事を思い出し、暖かい家族に向かい入れられる光景を思い描きながら独り言のように語り掛ける。

「うん、帰ろう。今は逃げ延びて、いつか元気な姿を二人に見せようね」

 決意を固めるように、痛い程握られた手を握り返す。迷いはある、不安しかない。それでも、いつか笑って故郷に、家族の元に帰ると決意して、握った手を決して離さない様に力を込めながら一歩足を踏み出す。

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