姉妹の逃避行が始まる
主人公エスティアの年齢16歳にしました。15歳だと身長とか諸々まだ成長中かなと
生まれ故郷の村から初めて、外の世界に飛び出して一時間ほど経ち、既に陽は傾き始めている。そして眼下の森の中には、肩を荒く上下させ地面に座り込んでいる二人の少女の姿が。
「はぁ、はぁ、こ、ここまで来れば一安心かな。クロエは大丈夫?」
息を荒げ肩を上下させながら、膝に手を当てて俯く美しく輝く銀髪の少女の色違いの双眼は、陽の光に当たると鮮やかな真紅の色と煌めく銀の色を浮かべ、眼前で座り込む幼女に語り掛ける。
クロエと呼ばれた、未だ幼さを残しつつ、”女”へと羽化しようとしている幼女は。汗を流し、顔にその長く艶やかな黒髪を張り付かせ、幼さに似合わない妖艶さを醸し出しながら息を整え答える。
「う、うん。走りすぎてもう一歩も動けそうにないけどね。お姉ちゃんこそ大丈夫?ケガしてるんじゃない?」
クロエは顔に付いた髪を鬱陶しそうに払いつつ、胸元を仰ぎながら答える。それは12歳という未だ幼さを残しつつも”女”へと成長するその双丘を微妙に晒し、姉と呼ばれた銀髪の少女は生唾を飲みこみ、別の意味で息が荒くなりながらそこを恥じらうように、視線を外しては横目にと繰り返し、火照った身体を冷ます。
(な!なんでクロエを見てこんな身体が火照るの!?昼間のクロエのあんな表情見てからおかしいよ...)
「ケガはすぐ治るから大丈夫、それより、息が整ったらすぐに移動しよ。日が暮れる前に街にたどり着かないと」
姉——エスティア——は腰の剣をさしながら、大きく腹部に空気を取り込むように服を仰ぐ。その所為で16歳になって豊かに成長した性を示す果実の底面が、地面に座り込むクロエにはチラチラと見えていた。
クロエはそれを食い入るように凝視し、乳酸の溜まり切った身体のだるさを忘れる程内心狂喜乱舞しながら澄ました顔で凝視する。
(すっごいエッチ!お姉ちゃんのおっぱい形も張りも大きさも完璧すぎでしょ!少ししか見えない下乳が煽情的だし、煽ってるの!煽ってるんだよね!?食べちゃうよ!?)
「おっけー、あと少しだけ休まして」
暫くして、お互いようやく身体の熱が抜けた所で、再び歩き出し目的地である砦町【リール】に向かう。
◇◇◇◇
世界が黄昏に染まる中、なんとか目的地である街にたどり着いた二人は、長蛇の列の出来ている城門にげんなりした表情を浮かべ列に加わる。
暫く二人が談笑しながら牛歩のように進んでいると、ようやく入国の審査窓までたどり着く。
「身分の証明出来るものの提示を」
ここに来てようやく自分が着の身着のまま剣一本でいることに気づいて、全身の血の気が引く。
そうやって頭の中を真っ白にしてると横からクロエが声を張る。
「私達途中で山賊に襲われて、身分を証明できるものが無いんですが」
彼女も緊張に顔を強張らせながら、多少嘘を交えつつ門兵に答えると、彼は少し顔を顰めるが特に気にした様子も無く手元に何かを引き寄せ。
「なら仮の身分証明書を発行するからそれを持って街に入ると良い」
そういうと、周囲を見回した後。顔を近づけ声を落としながら。
「本当は金がかかるんだが建て替えといてやる。街に入ったら冒険者組合に行って冒険者登録をした後、セリカっていう受付嬢に声を掛けろ。ガルドによろしく頼まれたって言えばわかってくれる筈だ」
その言葉に私たちは顔を見合わせ驚く。だってそうだろう、見ず知らずの他人にここまでするなんて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
表情に出てたのか彼は苦笑しながら。
「俺にも娘がいてな、そっちの黒髪の女の子位の娘なんだ。だからつい、な?」
そういって薬指にはまった指輪を見せながら答える。私達はその理由を聞いて警戒を解いてお礼を言う。
「ありがとうございます、お礼が出来るかはわかりませんが、お言葉に甘えさしてもらいます」
そういって二人で頭を下げる。そんな私達に彼は笑いながら。
「良いってことよ、嬢ちゃんたちは悪い子じゃなさそうだし、まだまだ子供なんだ、なら礼なんて気にせず大人のわがままに甘えればいいんだよ」
顔を上げれば彼は村の中で幾度も見た、優し気な、どこかふざけたような笑顔を浮かべていた。その表情に警戒を完全に解いて彼に再び頭を下げて、仮の身分証明である木札を首から下げて門をくぐる。
「良い人だったね、本当に助かった」
「ね、『身分証明を』って言われた瞬間頭真っ白になっちゃった」
「私も、最悪この剣売らないといけない所だったよ」
本当に助かった、そう二人で話しながら、目的の場所である冒険者組合に向かう。
「所で冒険者組合の場所分かるの?」
......しまった。帰路を急ぐ人や売り込みに声を張り上げる人でごった返す人の中、クロエの質問にピタリと動きを止めることで答える。
「はぁ...お姉ちゃん普段はしっかりしてるのにどっか抜けてるよね」
クロエの評価に胸を穿たれながら、急いで弁明する。
「ほ、ほら!よく見れば武器を持った人が何人かおんなじ方向に歩いてるよ!あの人たちについていけば組合に着くって知ってたよ!?」
眼前を歩く武器を持った、明らかに冒険者とわかる風貌の人たちを指さしながら、決して考えなしに歩いたわけではいないと答える。そんな私をクロエは胡乱な目で見ながら、ため息を深く深く、それはもう私に見せつけるかのように吐く。
「まぁいいよ、私もそんなんだろうと思ってたし。後でお店の人に聞こうと後回しにしてた私も私だからね」
クロエからの期待してないです発言に項垂れてると、勢いよく手を引かれ歩き出される。
「ほら!私も悪かったから、いつまでも拗ねてないで!もう日も完全に落ちそうなんだしさっさと行こうよ!」
「別に拗ねてるわけじゃないもん」
そう口をとがらせつつ答えればクロエは口元を抑えつつ肩を細かく震わせる。
「(っ!可愛すぎるでしょ!周りの人たちも見惚れてるし!)とにかく!早く行こ!ね!」
「ちょっと!走ったら危ないよ!クロエ!クロエってばぁ!」
二人の少女は手を取り合って人々で賑わう雑路に消える。
◇◇◇◇
己の逞しく鍛えられた筋肉を誇示するようにポーズをとる男にそれに声を張る男女、他を見渡せば椅子に座り仲良く食事を楽しむ少年少女に、酒の飲み比べや喧嘩に発展する勢いで怒鳴りあう男たち。そんな喧騒につつまれた小綺麗な建物に二人の少女が扉をくぐる。
扉の近くにいた者は振り返り石化したかのように動きを止め、幾分か耐性のあるものは近くの男の肩を叩き扉の方に指をさす、そうやってあれほど騒いでた者たちは扉をくぐった二人の少女に男女関係なく目を奪われる。
当然、外にまで漏れるほど騒がしかった喧騒が自分たちの登場と共に止めば、驚きを通り越して最早恐怖ですらある。一心に注がれる視線に二人の少女は身を竦ませ、身体を寄せ合い守りあう様に正面に見える受付に進む。
「ね、ねぇお姉ちゃん?なんかすっごい見られてるんだけど私達何かしたかな?」
「わ、分かんない。そういえば村長に冒険者組合では私達みたいな子供は先輩冒険者に絡まれるって聞いたことがある。もしかしたらこれもその一つなのかも。」
「ひぇ、なんかすっごい不安になってきた。もう野宿でいいから出ない?」
「だめよ、ここまで来たんだし、それに街中と言えど野宿なんて危ないでしょ。なんとしてでもセリカさんに話を通さないと」
「セリカですが何か?」
「「ひぃぃ!!」」
顔をよせこそこそと話しながら歩いていた二人は突然会話に入ってきた声に、夜中トイレに行こうとして雷が落ちてきたかのような反応を見せる。そんな二人の反応に声を掛けた女性は朗らかな笑みを浮かべながら続けて口を開く。
「二人とも見ない顔だし、旅人さん?どうして私の名前知ってるの?」
セリカと名乗った女性は垂れた目じりとふわりと巻かれた髪の毛が印象的な温かみのあるお姉さんで、朗らかな笑みを浮かべたまま二人に質問する。
「あっと、その、私達ついさっきこの街に着いたんです。そしたら門の所でガルドさんっていう方に、セリカさんによろしく頼むって言われまして」
私はしどろもどろになりながらなんとか事情を説明すると、彼女はため息をついて困ったような呆れたような顔で愚痴をこぼす。
「もう、あの人はまたお節介焼いちゃって。ぜーんぶこっちに丸投げなんだから」
彼女のため息と愚痴に私達はやっちまったと後悔して、やっぱり野宿にしようと諦めの域に居ると。
「あっ、ごめんなさいね。つい愚痴っちゃって、どうせお金とかないんでしょ?私もう少しで上がるから家に泊まりにいらっしゃい」
彼女は慣れた様に私達を安心させるように窘め、今夜の寝床の提案をしてくる。私達は喜んでその提案に飛びつく。
「あ、それと冒険者登録をしたいんですけど」
「冒険者登録?いいわよ、それじゃいくつか必要な書類を用意するからちょっと待ってね。あ、文字の読み書きは出来る?」
彼女の質問に肯定すると、彼女のは席を立って裏に回っていった。
手持ち無沙汰になった私達は、ある程度喧騒は戻ったが、改めて自分たちが注目されていることを自覚する。
「やっぱり、見られてるよね?」
「めっちゃ見られてる。どうするの!お姉ちゃん!なんか怖いよ!」
「どうするって言われても...」
焦った二人は、そこで言葉を区切り顔をあげ、周囲に目線を向ければ、皆一様に自分たちに視線を注ぐ。とりあえず愛想笑いを浮かべて勢いよく背を向ける。
「無理無理無理、めっちゃ見てるもん!親の仇かってくらい睨んでいる人いるし!」
因みに睨んでいると言われた男性は、その人相の悪さもあるが、笑顔に当てられて悶えていたりする。そして男女問わず何人も頬を染めていることを、背を向けている二人には知る余地もない。
「はい、お待たせ!...どうしたの?そんなところで縮こまって」
「いえ!なんでもありません!」
困った所に救いの声が、二人は勢いよく立ち上がり書類に記入する。そんな二人を彼女は目を丸くするが、一拍の後周囲の視線に気づき苦笑する。
「「終わりました」」
「はい、確認します。エスティア・ユークリット16歳、剣士ね。それで、クロエ・ユークリット12歳、魔術使い。12歳だと成人前だから、エスティアちゃんが身元引受人ってことで良いかしら?」
彼女の言葉に頷くと、続いて冒険者についての説明が始まる。
「冒険者ってのは依頼主の出した依頼を請け負う何でも屋さん。特に人数制限はないから一人でも10人でも構いません、ただし、仲間内でのトラブルや依頼先でのトラブルなんかは受け付けません。あくまでうちは仲介人、たとえ依頼内容に不備があろうと、依頼先で問題が起ころうと、全て自己責任になります。あとは依頼を達成できなかった際は違約金の支払いが発生します。他には、依頼の成否に関わらずきちんと報告はしてもらいますので忘れないでください。そしたらこれが貴方たちの等級を示すプレートになります、万が一の際の身元の証明になるので肌身離さずつけてください」
一気に説明を受け、彼女は白磁の首に掛けられるように紐を通された白磁のプレートを手渡す。私達がそれを首にかけると、彼女は一つ頷き次の説明に入る。
「そのプレートが個人の等級を表します、等級によって受けられる依頼の上限が決まっていて、白磁だと一つ上の青銅までという決まりになります。その代わり、どこか高位の等級の冒険者のパーティーに入れば、その平均の等級の依頼も受けられるようになるから、まぁそこらへんはおいおいね」
等級とは、白磁から始まり青銅、鋼鉄、黒鉄、聖銀、純金。となっていて、依頼の達成率や実力を測って厳選されるそうだけど、正直そこまで上に上がろうとか考えてないからあんまり耳に入ってない。
「それで、ここまでで何か質問はありますか?」
その質問に私もクロエも首を横に振って答える。
「はい、そしたらこれでお仕舞い!ちょうど私も上がりの時間だからそこら辺でまってて、急いで帰り支度済ませるから」
そういうと彼女は勢いよく立ち上がって小走りで裏手に消えていく。残された私達は未だ針の筵になりながら、依頼の張り出されている掲示板に向かう。
「あ、お姉ちゃんみてこれ、護衛の依頼書だって。目的地はブリタニア諸島近場のニルシードだって!」
そう声を張りながら手にした紙を突き出すと、確かにそこには私達の目的地であるブリタニア諸島に近いニルシードの文字が。
「すごいよクロエ!すぐにこれ受けよ!」
「うん!幸先良いね!」
「二人とも、少しいいかな?」
二人浮かれながら受付に依頼書を持っていこうとすると、突然声を掛けられる。振り返ってみるとそこには見慣れない服を着て、腰には二振りの細身の剣を刺した黒髪黒目の青年が立っていた。
「何ですか?」
警戒しながら答えると、彼は困ったような笑みを浮かべ両手の平を見せるように掲げる。
「ああごめんね、実はその依頼俺も狙っててさ。良かったら一緒に受けさしてくれないかなって」
どうも彼もこの依頼を狙っていたようで、私達が少し早く手に取ってしまったから同伴に預かろうと言うわけらしい。
どうする?とクロエと相談してると。
「君たちさっき冒険者になったばっかりだろ?白磁が護衛なんてまず依頼主から断られるだろうしさ、俺が居れば大丈夫だと思うよ?」
そういって青年は胸元から黒鉄のプレートを見せる。
「こ、黒鉄!?」
クロエが驚愕の声を上げる、私も声を上げそうになった。だって目の前の青年は童顔っていうか、明らかに若者の部類に入る若さなのに。それに青年の言葉にも納得せざるを得ない、駆け出しが護衛なんて普通断られる、そこを黒鉄がいれば受け入れてもらえるかもしれない。
「分かりました、よろしくお願いします」
「お姉ちゃん!?」
「うん、助かるよ、君達みたいな美人さんと一緒に旅が出来るなら儲けものさ」
驚くクロエを無視して青年に会釈してお願いする、青年がおべっか使うけど特に何も思わないので無視。
「おまたせぇ二人共、ってあれ?ムサシくん?どうしたの?」
そこにセリカさんが質素ながらその容姿を引き立たせる、純白のワンピース姿で現れる。ムサシと呼ばれた青年は顔見知りの様で、笑みを浮かべ返す。
「お久しぶりです、セリカさん。彼女たちの依頼に混ぜてもらおうと思いまして」
「ふーん、何の依頼?あぁ、護衛の。貴方達これ受けようとしたの?」
手元の依頼書をみて、理由を聞いてくるセリカさんに少しぼかしながら答える。
「私達旅を初めまして、手始めにブリタニア諸島に行こうかと。」
私達が教会から逃げていることは言わず、それを旅に言い換えて説明するとセリカさんは特に気にした様子も無く依頼を手早く受領してくれた。
「はい、そしたら細かいことは明日にして今日はもう帰りましょ。ムサシくんもいいわよね?」
「えぇ、また後日。さようなら」
そういって青年は踵を返してあっさりとその姿を消す。
「それじゃ、かえりましょ?娘がお腹空かして待ってるわ」
セリカさんに言葉に頷いて彼女の後に続く。逃避行1日目は屋根の下で眠れそうだ。