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お姉ちゃん魔王になったぽいですけど辞退してもいいですか?  作者: れんキュン
お姉ちゃんが魔王?
6/16

お姉ちゃんを置いて物事は動き出す

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」

 あの死闘から3日経ったらしい。らしいというのはあの後私は3日も眠り続けていたようで、目が覚めた今クロエが一切離れようとせずに抱き着いてくる。

 突然飛び込んできて驚いたけど、彼女の温もりを感じえもいわれるぬ気持ちが胸中に湧き上がり抱きしめ返して彼女のうなじに顔を埋めて彼女の全てを五感で感じる。


 どれだけ長い抱擁だっただろうか、自然と離れお互い涙を払いながら、笑みを浮かべ万感の思いを込め言葉を紡ぐ。

「おはよう、クロエ」

「おはよう、お姉ちゃん」

 他愛ない言葉だ。でもその言葉が生きて帰ってこれたと再確認できて視界が涙で滲む。

 そんな私をクロエは優しく抱きしめ、私もそれに倣い深く強く抱きしめる。

 

「ところでお姉ちゃん、あの時お姉ちゃんどうして動けたの?それに傷も完全に治ってたしあの黒い剣も気絶した後鎖が勝手に動いて剣に絡みついて一人でに納刀して気持ち悪かったんだよ、今は村長が保管してるけど...」

 腕の中から顔をあげまくしたてるクロエにあの時何があったのかを、自分でも思い返しながら語る。


  

  ◇◇◇◇


『まっ、ゴフッ...クロエ...』

 

 私に背を向けて黒騎士に近づくクロエに、私は身体を引きずることしかできなかった。

 守ろうとした人が私の代わりに戦おうとしてる、12歳の小さな女の子が敵う筈もない敵を倒そうとしている。

 待って、止めて!死んじゃうよ!

「グッヴェェ...」

 出そうとした声の代わりに血反吐が口から洩れる。

「ふっぐうぅぅぅ...」

 情けない。何が守るだ、慢心して気を抜いて死にかけて、結局守ろうとした人達を危険に晒してるではないか。自分が情けなくて悔しくて涙が溢れる。


 ...?

 俯いた視界の端に移る剣に目が吸い寄せられる。鞘から生えた三本の鎖が絡みついてる光すら吸い込みそうな漆黒の直剣。直径は1m程で鍔は十字、鞘にはいくつもの模様や文字が彫られていてまるでその中の剣を決して抜かせまいとでもいうかの様に鎖が柄や鍔に絡みついている。

 だが目を離せない原因は別にあった。その剣をみてると心臓がやけに早鐘を打つのだ、這いずって近づく程本能が警鐘を上げる。近づくな、手に取るな、それは危険だ。危険な力だとでも言うように。

 その瞬間視界が光で埋め尽くされる。ようやく光が晴れたらそこには幽鬼の様に顔色を蒼白に染め、身を竦ませるクロエと剣を支えにゆっくり近づく黒騎士の姿を捉える。

 

 何をしてるの!早く逃げなさいと声にならない声を上げると、黒騎士がへたり込むクロエの眼前にたどり着き、左手にもつ剣を掲げる。

 最悪の未来を幻視した。自分のもっとも大事な家族が、妹が無残に切り殺されてしまう。

 それを見た瞬間頭で考えるよりも先に右手で眼前の黒剣の柄をつかみ、激痛を無視して折れた左手で鞘をつかみ鎖を引き千切るように引き抜く。


 瞬間()()()()()()()()()()()()()鎖が音を立てながらその拘束をほどき、抵抗なくその刀身が姿を現す。


 すると突然脳内に、否。魂に直接流れ込むかのように様々な情報が流れ込んでくる。

 それは愛する人を理不尽に殺され、涙を流し復讐の火に身を焦がす女性。

 それは信じた仲間に裏切られ、全てを奪われ、絶望と失意の中で信ずる神にすら見捨てられた神官の記憶。

 それは誰かの為に、世界の為に自分を捨て魔を滅ぼし人に仇名す存在を殺したにも関わらず。助けた筈の守るべき人々に恐れられ拒絶され、最後には化け物と罵られながら死んだ青年の記憶。

 ありとあらゆる人々の記憶が追体験するように、まるで自分がそうして来たかのように感情を叩き付けられながら流し込まれる。

 それを見て聞いて感じて吐き気がこみあげ、浮遊感に包まれたように平衡感覚が失われた感覚に陥る。

 共通している感情は一つ。全て【怒り】だ。

 自分が自分でなくなる気がするが。流し込まれる感情に、怒りに、無念や怨嗟が私の魂を黒く染め上げ私を奪い去ろうとする。

 自分があやふやになった瞬間、脳裏に直前に見た殺されかけているクロエの姿がよぎり、激情と共に黒くおぞましい感情の渦から自我が浮上する。

 

 ふざけるなっ!!

 お前らの気持ちなんて知るか!

 お前らなんかに私をくれてやるか!

 私は失わない!絶対に!何があろうと!どれだけ傷つこうとも、骨が折れようとも四肢が千切れようとも這いつくばってでも!命尽きるその瞬間まで足掻いてやる!

 だから!黙れえええええ!!!!


 魂が叫び声をあげる。

 己の魂を黒く染めようとする怒りの激流をねじ伏せ、折れた骨がくっつき、開いた傷口が塞がる気持ち悪い感じに襲われながら()()()()()

 まるで逆再生でもするように治った身体を知覚もせず、大事な妹(愛しい人)に振り下ろされるその剣に向かって無我夢中で掛ける。



  ◇◇◇◇



「とまあそんな感じで、あの剣を抜いた瞬間に傷が治ってギリギリ間に合ったって感じかな。あの時は無我夢中だったから傷が治ったなんて気づかなかったんだけどね」 

 思い返すと我ながらとんでもない体験をしたな、よくアレを耐えきれたものだなんて苦笑を浮かべながら遠い目をしてると、腕の中のクロエが小刻みに震えてるのに気づく。

 どうしたのかと覗き込もうとすると、勢いよく顔を上げあらんかぎりに眉を寄せ顔を真っ赤にしながら。

「なにそれ!!私よりヤバいことになってたんじゃん!バカ!お姉ちゃんのバカ!」

「バ!バカって!こっちだって必死だったしあの時はそれしか選択肢がなかったんだから仕方ないじゃん

ない!」

「分かってる!しょうがないのは分かってるんだけど分かんない!とにかくバカ!」

「バカバカ言わないの!それに私がバカならクロエは大馬鹿だよ!」

「はー!?私がケガを治して一命を取り留めた上に限界まであいつを弱らせたのに私がバカぁ!?」

「それがバカだって言ってるの!なんで動けなくなるまで魔力を込めちゃうの!それこそあいつは走ったりしなかったんだから少しづつ魔術で削ればよかったんじゃない!」

「あそこまでしないとあいつには効かないと思ったの!お姉ちゃんが心臓刺して動くような化け物相手に効きそうな魔術なんてあれしか知らないの!」

 先ほどまでの暗い雰囲気が吹き飛ぶ程にお互い感情をむき出しにして大声で喧嘩する。

 そしてお互い言う事がなくなって、フーフーと息を荒げながらにらみ合うと、不意にあまりに下らなくて思わず声を上げて笑いあう。

「ふふふっ、お互いバカだね」

「はー、ほんとにね。どうしようもないくらいバカだよ」

 一転和やかな空気が二人の間に流れる。


「そう言えばクロエと喧嘩するのって初めてだよね。なんか新鮮だね」

「あー、そういえばそうだね。私達ってちょっとした言いあいはあったけど、ここまではっきり喧嘩したことはなかったね」

 今まで仲良く暮らしてたけど、どこか薄くも高い壁が一枚隔たっていた感じがあった。たぶんそれは私のクロエに対する同情や哀れみなんかも混じってて、だからこそ私が守らなくちゃって意固地になってたんだと思うし、それが私達がどこか遠慮してた原因だ。

 そう思ったら今の私たちは前より遥かに距離が縮まった気がする。


「ねぇ...お姉ちゃん、私ね」

 突然クロエが瞳を潤わせながら私の瞳を覗き込み、幼い容姿に不似合いな、でも生唾を思わず飲んでしまう程妖しい”艶”を醸し出しながら熱の籠った吐息を漏らす。

「お姉ちゃんの事が」

 心臓の音がやけにうるさいく感じ、彼女の熱の籠った瞳から目が離せずにいると、彼女の桃色の唇が薄く開き...

「「エストおおおおお!!!!起きたのか(のね)!!!!」」

 クロエが最後まで何かを言う前に、反射的に身体が跳ね上がる程の轟音を立て扉が開かれ両親が泣きながら飛び込んでくる。

「ちょっ!お父さんお母さん!?二人とも危ないよ!」

「三日も眠ってたエストが起きたんだ!我慢なんて出来るか!」

「そうよこの親不孝者!心配かけたんだから大人しく抱き着かれなさい!」 

 涙を流し鼻声混じりに痛い程抱きしめる両親を抱きしめ返す。

 因みにクロエは「ふぎゃ」って可愛らしい声を上げながらベットから落ちたようで再び顔を出した時にはいつものクロエが居た。



 それから暫く目を閉じればクロエのあの表情が浮かびあがり、自然と顔が火照り身体が熱くなって眠れぬ日々を過ごした所為で、誰にも言えない秘密が出来てしまった。 



 ◇◇◇◇


 エスティアが目を覚ます二日前、とある大聖堂にて。


「我らが主より託宣が下りました。【ユークリット村】にて世界を闇に包まんとする漆黒の剣を携えし悪しき者が誕生せり。勇者ブレイドよ、主のお導きに従い彼の者を捕縛しなさい」

「拝命致しました。しかし捕縛でよろしいのですか?確かにほかの村人に目などもありますが」

「構いません、主は彼の者の殺生を望みません。慈悲深くも我らが主は彼の者を救わんとしているのでしょう。それと他の村人の事はこちらに任せなさい、貴方には【勇者の剣】を貸し与えます、ですので必ずや...そうですねとりあえず【魔王】とでも呼びましょうか。必ずや【魔王】を主の御前に連れてきなさい」

「畏まりました。その役目、必ずや果たしてみせましょう。大司教猊下」

「頼みましたよ」


 ステンドグラスから注がれる光が、跪く純白の鎧を着た青年と大仰な法衣をきたモノクルの女性を照らし上げ、まるで絵画の中のような幻想的な雰囲気を醸し出す中、それを陰から眺める人影が一つ。

(ユークリット村に魔王だって?早くリーダーにこの事を知らせなければ...)

 影の中の人影は溶け込むようにその姿を消した。

 後に残ったのは未だ跪く青年と人影のいた場所を薄く睨みつける女性だけが残った。



 ◇◇◇◇


(やっちゃったー!!我慢できなくてつい告白しようとしちゃったー!!きゃー!)

 両親がエストを押し倒してる傍らベットの下に潜り込んだクロエは顔を熟れたトマトのように赤らめながら両手で覆い隠しながら悶えていた。


(そもそもお姉ちゃんが悪いんだ、あんな風に助けられて惚れなおさない訳ないじゃん!その上三日も眠り続けてこっちがどんな気持ちで過ごしてたと思ってるのさ!そ、そりゃあ?寝てるお姉ちゃんにちょっと悪戯とかしようと思ったけど!?お姉ちゃんの身体拭いた時とかホントに襲おうとか思っちゃったけどさ!?それだって何とか必死で耐えたよ!?なのに起きたらあんなずるい笑顔で迎えてくれるし、お姉ちゃんが死ぬより酷い目に遭ったって聞いて思わず怒鳴っちゃったけどそれすら仲良くきっかけになっちゃたし。)


 今の彼女をベットの上の三人が見ればあまりの悶えように精神干渉系の魔術でも掛けられたと疑うほどに百面相しながらベットの下で左右に身体を転がしていた。


(うぅ。お姉ちゃんが私の事を妹じゃなくて一人の女の子として好きなってもらいたくて今まで色々してきたのに、あんなことがあったんじゃもう耐えられる気がしないよー!...初めてはなんでもお姉ちゃんからしてほしかったけど、もうこうなったら告白だけでも私からするっきゃないよね!良いよね!お姉ちゃんも満更でもない筈だし!恋人だ!恋人として今までの様に、今まで以上に甘々な生活して、私が成人したら結婚してそのまま新婚旅行として世界一周すれば良いんだ!ふっふふふ。そうと決まれば色々準備しないと!恐ろしい!自分の才能が酷く恐ろしいよ!)


 彼女は顔を真っ赤に茹で上げたと思ったら何かを決意したように鼻息荒く握りこぶしを作り、かと思えば恐ろしく殴りたくなるほどのドヤ顔を披露していた。



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