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お姉ちゃん魔王になったぽいですけど辞退してもいいですか?  作者: れんキュン
お姉ちゃんが魔王?
2/16

妹の心姉知らず

妹【クロエ】視点です。

 私、クロエ・ユークリットは今でこそ家族の様にエスティア・ユークリットお姉ちゃんの妹としてこのユークリット村に住んでるけど、血のつながった姉妹じゃない。それどころ元々この村の人間ですらない。 


 元々私は違う村で産まれて特に不自由無く愛情深い家族の元で平穏な日々を過ごしていた。

 でもそんな日々は私が9歳の頃に突然終わった。

 皆が寝静まった夜に突然村に盗賊が押し寄せて来て次々と村の人達を殺して行った、その中には近所の優しいお兄ちゃんやお手伝いをするとご褒美に飴をくれるおばあちゃんも居た。

 男の人達は必死で抵抗してるけどどんどん切り捨てられて血の池を作りながら倒れ込み、足元に転がってきた生首の光の無い瞳に射抜かれて私は腰を抜かして座り込んでしまう。

 そんな私をお父さんとお母さんは抱えながら燃える家々の熱に肌を焼かれながら走り抜ける、至る所から聞こえる悲鳴や怒号が耳にこびりつき母親の腕の中に顔を埋める、いつの間にか山の中に逃げ込んでいたようで、洞窟の前で立ち止まると2人は息を荒げながら何かを話し、私を見つめた後「もうこれしかない」と言うと父さんとお母さんが私を抱きしめながらごめんなさいと泣きながら言う。

 どうして謝るのかは分からなかった私は「なんで?どうしたの?」って繰り返すしかなくて、必死で抱きしめ返すしか無かった。そうしていないと両親が遠くへ行ってしまう気がしたから。

 そうこうしてる内に盗賊の怒声が近づいてきて、両親は真剣な表情で目に涙を溜めながら私に向き合う。

「クロエ、貴方を愛してるわ。幸せに、元気に生きてね」

「クロエ、俺達の分まで幸せになりなさい」

 待って!嫌だ!1人にしないでと、必死で懇願する私を両親は涙を流しながら見つめ。意を決した様に頷くと2人は私の手を取り何かの言葉を紡ぐ、すると私の視界は歪み意識が遠くなる。

 嫌だ、離れたくない、置いてかないでと思うも遠くなる意識に逆らえず目を閉じてしまう。




 鈍い頭痛と掌に這う虫の感触で目が覚めたらそこは直前に居た場所ではない森の中だった、両親は何処にもいないし盗賊達の声すらしない。聞こえるのは葉擦れの音と鳥の鳴き声。

 お父さん、お母さん何処にいるの。と声を出しても帰ってくるのは静寂のみ、頭の片隅で理解はしている。

 両親は何処にもいないし、死んでしまってる。何処か遠い場所に来てしまったと途方もない喪失感から涙が込み上げ嗚咽を漏らしながら泣いてしまう。


 どれくらい泣いただろうか、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった様で辺りは暗くなっている。夜の森は恐怖を助長させる。いっそ死んでしまおうかとも思ったけど、両親の最後の言葉がギリギリ私を踏みとどませる。

 狼の遠吠えや梟の鳴き声で身を竦ませつつ、当てもなくさ迷うように森の中を進む。


 2日か3日は経っただろうか、幸い獣に襲われる事何かは無かったけど飲まず食わずでふらふらと歩き続けた私の身体はまるで自分の身体では無いようにすら感じる。

 幽鬼のようにさ迷う私は喪失感と無力感で思考は取り留めなく、飢餓感と乾きがそれを増幅させる。

 引き摺る様に歩いていたからか何かに躓いき地面に倒れ込むも、私の身体は起き上がろうという反射的な意識すら受け付けないようで倒れ付したまま死を望むように瞼を落とす。


 近くから草木を掻き分けて何かが近ずいてくる音がする。あぁここで私は死ぬのかなんて他人事の様に思いつつ、生きて欲しいという両親の願いを叶えられない申し訳なさが込み上げ、枯れたはずの涙が零れる。

 薄れゆく意識の中で感じたのは浮遊感と心地よい温もりで、私はそれに身を任せ完全に意識を手放す。



 目が覚めたらベットの上に居た、一番最初に思い浮かんだのは今までの出来事は全部夢で自分はいつもの様に目が覚めたのかなんて思ったが胃が悲鳴を上げる程の飢餓感と乾きで夢ではなく現実だと悟る。

周囲を見渡すと簡素というか物が少ない部屋で、生活感は有ることから誰かの部屋なんだろうと推測立てた所で扉が開かれる。

「良かった、目が覚めたんだね。これ、胃に優しいご飯とお水だよ、食べれそう?」

 現れたのは私より少し年上のとんでもない美少女だった。揺れる銀糸は蝋燭の光で煌めき、左右の色違いの瞳は幻想的で絵画から飛び出したと言われても可笑しくない位美しかった。

 一瞬見蕩れてると、鼻に届いた料理の匂いで胃が大声を上げヨダレが滝のように溢れ視線が料理に釘付けになる。そんな私に少女は邪気の無い笑みを浮かべ料理をひざ元に置くと、私は一も二もなく差し出された料理をかっくらい、のどに詰まらせながら水で流し込む。

 ついさっきまで死んでしまおうとか思ってたのに、今は必死になって生きようとしてる。と、思いながら溢れる涙の塩味を調味料に残りの料理を平らげる。


 食べ終わって、身体が満たされると強烈な眠気が襲いかかる。舟を漕ぎながら掠れ掠れの声で何とかお礼を言うと、眼前の少女は優しげに微笑み私の頭を撫で。

「今はよく寝て元気になろうね」

 とあやす様に梳くように頭を撫でてくる、両親を思い出し涙が零れ嗚咽が漏れるも次第に心地よい温もりに身を任せ眠りにつく。

 頭を撫でられて涙を流したからだろうか、視界の端で狼狽える少女は年相応で、見た目にそぐわない幼さで自然と口角が上がる、良かった、彼女も人間なんだなんて変な安堵を覚えて。



 夢のようだ、現実なのに現実感が無い。朝ベットの中で鳥のさえずりを聞きながら目を覚ますなんて、たった数日前にあんな地獄を味わったのにこんな穏やかな朝を迎えるなんて。

 自虐の笑みが浮かぶと共に再び喪失感が浮かび気持ちが沈む、そして故郷と家族を奪った下卑た笑みを浮かべながら剣を振るう盗賊に対する怒りで身体が強ばり胃がムカムカとする。

 扉の開く音がしてそちらに顔を向けると昨日の少女が顔を覗かせており、そんな彼女に声を掛ける。

「おはよう」

 なんて言葉を送ると花を咲かせた様な笑みを浮かべ

「おはよう!身体はどう?何処が痛む所はある?」

 と心配しつつこちらを窺う言葉を送られる。万全では無いがお陰様で休めたと返すと安堵の息を零し、両親を呼んでくると部屋を出る。


 暫くして優しげな印象の銀髪銀眼の女性と鋭さを感じる鮮やかな赤髪赤目の男性が現れ両親だと紹介される。

「クロエ……」

 村の名前を言おうか悩んだけどもう無いという意識から何となく流した、そんな私を2人は憐れむような、悲しげな表情で見つめ幾つか質問を投げ掛ける。

 要約すればどうして私みたいな子供が衰弱状態で森の中に居たのか。という質問だがそれに包み隠さずここまでの経緯を語る

 すると少女、エスティアは嗚咽を漏らしながらえっぐえっぐと涙を流し始めた。

 驚いてどうしたのかと問えば。

「だってぇ~、ひっぐ。あんまりで、悲しくて」

 話を聞いて当てられたみたいで、私達3人でエスティアを生暖かい目で見ていた。泣き止ませた所で部屋の外へエスティアを出し、親ふたりが真剣な表情で。

「クロエちゃん、君さえ良ければうちの家族にならないか」

 と聞いてくる。頷きたいが、これだけは確認しないといけないと聞きかえす。

「私は実の両親を、故郷を忘れられないと思う。いつか私から全てを奪った盗賊達に復讐だってしたい。一生をかけてでもいつか殺してやりたい、この気持ちは絶対に忘れたくない、それでも良いの?」

 2人が優しいのは分かるけど、結局私は他人だし、何より誰かを殺したいと明確な殺意を抱えてる。それでも構わないのかと聞くと2人は複雑な表情で、神妙に頷くと。

「本当の両親にはなれないだろうけどそれでも構わない、君を放っては置けないし。それに復讐だって必要な事だとは思う、でもそれだけに囚われて生きては欲しくない。他にも生きる理由を君にあげたいと私達は思っているよ。」

 おじさんの言葉におばさんが頷く。

 復讐以外の生きる理由……両親の願いを叶えたい、そう思って2人に向き合い頭を下げる。

「それなら、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね。実は私娘がもう1人欲しかったのー!これから楽しくなるわね!」

 真剣な表情から一変空気を変えるように明るく笑うおばさん。そんな明るさに頬を緩ませ、おじさんがエスティアを部屋に戻し私が家族になる旨を伝えると彼女は跳ね上がる様に全身を使って喜びを現す。

 こうして私クロエは新天地で新しい家族を得た。



 それから暫くして体調が完全に良くなった所で、村を案内される。

 色んな人に会い、その中で村長と呼ばれる上品な女性に会い、魔力が高い事を見出され魔術を教えられる。両親が私を逃がしたのは転移の魔術だそうで、それを聞いた私は必死で学んだ。

 何かに集中してるのは良い、あの地獄も何もかもを頭の外に追い出して目の前の事だけを意識できる。

 未だに夢に故郷を追われた日を思い出して泣き叫んでしまう、でもそんな私をエスティアはいつも優しく抱きしめて。

「大丈夫、大丈夫。もう一人じゃないよ。」

 いつまでも一緒に寝てくれて、弱音一つは吐かずあやしてくれる。

 それだけでどれだけ私が救われただろうか。

 お姉ちゃん——いつの間にそう呼び出したのかはもう覚えてない——は魔術を使える程魔力が高くなかったけど、剣の才能を見出され必死で修行してる。

 それに村長の元で沢山勉強して姉らしくあろうとしてるのか年々落ち着いた性格にもなった、でも元々感受性豊かだから表面を取り繕ってるだけで内心喜怒哀楽が暴走してるのを私は知ってる。自分だけが知ってるお姉ちゃんの秘密と思うとえも言えぬ優越感が満ちる。

 何よりお姉ちゃんは常に私を気にかけてくれるし、常に一緒に過ごした、そしてお姉ちゃんの全ての努力が私の為なのだも思う度とても気持ちいい。

 いつか強くなって私と旅に出るのが夢みたいで、いつか背中を合わせて一緒に戦って色んな世界を見て回れると思ったら夢が広がる。

 というかお姉ちゃん美人過ぎるから旅になんて出たら往く先々でトラブルに見舞われそうだし、生活能力ないしで大丈夫かな、なんて心配が先に出てしまう。


 そんなこんなで刷り込みのように常にお姉ちゃんの傍にいて、お姉ちゃんの事を考えながら日々過ごす内に3年の月日が経って、12歳になった私は少しづつ心の喪失感は姉への気持ちで埋まり復讐の炎は陰りを見せる。

 でもふとした時に故郷での地獄が蘇り、いまの大事な第二の故郷と家族を奪われる夢を見る。その度に怒りが込み上げる。

 最近では姉が蹂躙される姿を幻視するだけで自分が自分ではなくなるように感じるから仕様がない。

 多分私はもうお姉ちゃんを失えない。私の中で一人の女性として、大事な家族として、半身として無くてはならないものになってしまった。

 お姉ちゃんは私を大事な妹として見てるんだろうけど私は違うよ?お姉ちゃんを他の人になんかやらない、嫉妬で狂ってしまうし。

 私以外見て欲しくないなんて独占欲が湧き上がる。もう少し大きくなったらほんとに既成事実作っても良いかななんて考えながら将来の妄想に勤しむ。

 世界を旅してお姉ちゃんを孕ます事が出来る薬とか魔術とか編み出したらおじさんおばさんに報告に行きたいな。

 そうやって日々募る姉への愛情を再確認しながら私は最愛の人の腕に包まれて眠りにつく。

 今日はいい夢見れそうだ。


 

 翌朝お姉ちゃんが珍しく早起きしたけど、顔がなんだか赤い?さてはお腹だして寝たな、仕方のない人だ。

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